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11話 放課後の電話①

 その後、女子たちからの圧力もあり、三島君と連絡先の交換をすることになった。


『えっ、麗奈、三島君の連絡先知らないの!?』

『めでたく恋人になったんだし、交換しといた方がいいんじゃない?』

『夜に彼氏と電話とか出来るよ!』


 女子たちの黄色い声と男子たちの不穏な声が混ざり合い、盛り上がる教室で。


『三島君、連絡先を教えて欲しいな』

『……うん、いいよ』

『ありがとう。嬉しい! 毎日電話しようね!』(キャピッ)


 私は糖度120%の甘い声を叩きつけ、彼と連絡先を交換した。あいつは爽やかな笑顔が引きつっていた。


 ホームルームが終わった頃、いつの間にか三島君は教室から姿を消していた。恐らく男子たちの物騒な声を聞いて、素早く逃げたのだろう。




 帰宅し、玄関でローファーを脱ぎ捨て、2階の自室へ入ると、制服のままベッドへと倒れ込む。


「あー……疲れた。マジで疲れた……」


 強張った体が弛緩し、重力と共に緊張感が霧散していく。


 直後、ポケットの中でスマホが震えた。


 取り出して画面を見ると、予想通り三島君だ。


 通話ボタンをスライドさせる。


「はい、もしもーし。愛しの麗奈だよー。なんちゃって」

『もしもーしじゃねえ!』


 鼓膜を突き破るような怒声。思わずスマホを耳から遠ざける。


 言葉遣いも普段より乱暴だ。こいつ、予想以上に怒ってるわね……


『何で俺がお前と恋人にならなきゃいけないんだ!』

「それはこっちのセリフよ」

『お前のせいだろが! 写真を誤爆したくらいで嘘告白なんかしやがって!』


 やはりお見通しだ。クラスメイトたちは私の告白を信じていたが、私の本性を知っているこいつは信じないし、勘違いもしない。


「ごめんって。緊急事態だったのよ」

『あぁ? ごめんで済んだら警察いらねーんだよ!』

「別にそんな大したことでもないじゃん。ちょっと恋人になっただけじゃん」

『お前男共の不穏な声を聞いてなかったのか!? 俺明日には死んでるかもしれないぞ!』

「いやいや、そこまではしないでしょ」

『他人事だと思って適当なこと言いやがって! 大体何で膝枕のことまで暴露するんだ! あの場所でのことは暗黙の了解で秘密だろ!?』

「いや、でも朝の時点でバレてたし、写真にも私のスカートが写ってたもん。ていうか私に膝枕なんてさせてたあんたが悪いんでしょ?」

『ぐっ……確かにそうだけど!』


 この人必死だなぁ。てか他人事なのがバレてる。


 彼は恐らく、あの場では告白を断って印象を悪くするより、どうせ嘘告白だから表向きだけでもOKしとけばいいと考えたのだろう。


 けれど、その後に降り注いだ男子たちの不穏な声を聞いて、怒りが再燃したのだ。


『じゃあ壁ドンされてって何だよ! わけわからん捏造すんな!』

「あれは咄嗟に出てきちゃったのよ。好きになった理由としては…………まあ及第点じゃないかしら」

『どこがだよ! 俺が壁ドンとかするような勘違い野郎だと思われるだろが!』

「わぁ、イケメンー。こんなイケメンな人っているんだー」

『泣かすぞお前! ていうか絶対泣かす!』


 茶化すように第三者の歓声を真似てみせるとさらにキレられた。怖い。というか、この壁ドンの件に一番の怒りを感じる。


「…… ま、まあまあ、悪かったわよ。とにかく、適当に恋人っぽくしてくれればいいじゃん。そのうち騒ぎも収まるんじゃない?」

『何で俺がそんなことしなきゃいけないんだ!?』

「あんたが私の恋人だからでしょ?」

『ふざけんなよてめー!』


 うるさいなぁ。余程怒っているのか、何を言っても言い返してくるので面倒臭くなってきた。謝っても許してくれないし。ていうか私の恋人ってそんなに嫌なの? へこむんだけど。


「しつこいわね! じゃあ断れば良かったじゃない!」

『あの空気で断れるか! 女子たちが一致団結してOKしないといけない空気にしてきたんだぞ! 膝枕の件があるから断りづらいし!』

「いや、それは私にはどうしようもないじゃん……私は告白しただけで、あとはあの人たちが勝手にやってたわけだし」

『お前もフラれたらショック、とか言って泣きそうなフリしてただろが!』


 そうだった。こいつが断れなかったのは私のせいでもあったわ。何であのとき泣くフリとかしちゃったんだろ。


「あれはまあ、ノリってやつよ……とにかく断らなかったあんたが悪いんでしょ?」


 結局のところ、恋人になったことに関しては、こいつが断れば良かった話なのだ。壁ドンされたとか言っちゃったことは私が悪かったけど。


『くっ……』


 彼は喉の奥で押し殺すように、歯噛みするように呻く。


『……くそっ……覚えとけよ? こうなったら…………』

「な、何よ……?」


 地の底から這い上がってくるような低い声に、得体の知れない悪寒が走る。え、何? 何か怖いんだけど……


『……本気で両想いの恋人を演じてやる』


 ふむふむ……本気で両想いの恋人を演じてくれるのか。それは好都合……


『その上で、合法的にえっちなことをしてやるからな!』

「!?!?!? ……うぇっ!?」


 思考がフリーズし、弾かれたようにベッドから飛び起きる。


 ……今こいつ何て言った!?


『覚悟しとけよ!』

「え!? いや、ちょっと待って!?」


 ぷつっと電話が切れた。ツーツーという無機質な切断音が響く。ちょっと待ってって言ったのに!


 ……


 ……


 ……


「はあぁぁぁぁぁぁ!?」


 スマホの画面を凝視しながら叫ぶ。通話は終了しているので、ただアプリが並んだだけの画面だ。


 ちょっと待って。ほんとにちょっと待って。あいつ最後に何て言った?


 ──本気で両想いの恋人を演じてやる。その上で、合法的にえっちなことをしてやるからな!?──


 ……


 ……


 ……


「はあぁぁぁぁぁ!?」(2度目)


 何それ!? マジで何言ってんのあいつ!? 嘘でしょ!? えっちなことをするって私に!? いや私に決まってるんだけど!


 あいつの声は本気だった! 間違いない。だっていつもと違って超怒ってたし!


 あいつがマジで恋人を演じてきたらどうしたらいいの? 急いで心の準備を……いやそうじゃない! ヤバい、焦って頭が混乱してきた!


 あいつなら嘘告白だってわかってるから偽恋人として問題ないと思ったけど、全然そんなことなかった! むしろ何も知らずに付き合う奴よりタチが悪いんじゃないの?


 例えばあいつが本当に恋人のように接してきたとして、私はあいつのことを好きな設定だから受け入れるしかないじゃん! 怖い! あいつマジで私に何する気!?


 とりあえずキスとか……? 待って。キス? いきなりキス……?


 夕陽に照らされた放課後の教室で、彼の腕に抱かれ、壁に追い詰められる私の姿が頭に浮かぶ。そして、私と彼の唇が重なる……


 ……うん。まあ、そのくらいは仕方がないかもしれない……女優とか演技でやってるくらいだし……女優、舞岡麗奈。意外といい響きね。


 こうなったらやってやるわよ。キスでもディープキスでも甘んじて受け入れてやるわ!


 でもその先は駄目だから。心の準備とかもあるし、諸々の理由で駄目だから!


 でも、あいつの怒り方は尋常じゃなかったし、その程度で終わるだろうか……


「……まさか、その、胸とか……?」


 そう言えば、あいつ、私の胸を見てたし……


 私は無意識に自分の体を抱きしめるように腕を回す。


 制服越しに、あいつの手のひらが押し当てられる感触を想像してしまい、背筋にゾクゾクと変な電撃が走る。


 ……っ、わ、わかったわよ。少しだけ、ほんの少しだけ揉まれるくらいなら、今回だけは特別に許可してあげるわ……迷惑も掛けたし……


 それで許してくださいお願いします……だって私まだ高校生なのよ? その先をするなら愛のあるやつじゃないとやだ……


 でも、胸を触るくらいじゃあいつは収まらないかもしれない……てか逆に発情しちゃうかもしれない!


 きっとなし崩し的にラブな雰囲気を出されて、私も流されてその気になって、気付けば服を脱いでどこかのベッドの上で……それがずるずる続いて、いつの間にか妊娠とかして高校生の分際で学生結婚とかしちゃうんだわ! いや結婚すんのか私!


 ……でも結婚するなら子供は欲しいわよね。3人くらいがいいかな……私はエプロン姿で出掛ける彼を見送って、足元には私に似た可愛い女の子と、彼にそっくりな生意気そうな男の子が……


「……って、だからそうじゃないでしょうが! 何幸せな家庭を築こうとしてんのよ!」


 私はベッドの上で足をバタつかせ、激しく枕を叩いた。


 あいつがまともな奴ならともかく、ぶっちゃけ頭がおかしい類の人だからマジで貞操の危機だ。


 私は混乱をかき消すように立ち上がり、自室内をうろうろと歩き回る。


 ヤバいヤバい。マジでヤバい。一体どうしたらいいの? 何で私がこんな目に……!


 落ち着け。とにかく落ち着くのよ私。落ち着いて夕亜に相談しよう。

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