3話 合格祝い
光正の入試を受けてから一週間が経った。俺たちは普段と変わらない日常を送っていた。学校に行き、体力作りをしたり遊んだりしてきちんと寝る。いつも通りの日常。入試の手応えはかなりあったことから不合格ではないだろうと昼休みにいつメンで話し合っていた。今週の土曜日に合否が発表されるらしく、みんなで見に行くことになった。今日は金曜日。明日合否を確認できる。待ち遠しかった合否がついに分かるとなると心臓の鼓動が少し早まった。そんな時勝が言った。
「みんな日曜日って空いてる?」
勝の突然の申し出に俺は何か約束事はしていないか思い出した。もしかしたら父さんたちが合格祝いをしてくれるかも知れないが、今のところ予定にはないため大丈夫だろう。
「俺は大丈夫」
「僕も」
「私も大丈夫」
俺たちが答えると勝が言った。
「それなら合格祝いに遊びに行ったり飯行こうぜ」
「良いな」
「ありだね」
「さんせー!」
俺たちの中に拒む者などおらず、日曜日の合格祝いの予定を立て始めることになった。
「一日中遊んじまう!?」
勝は受験が終わった開放感からかニヤニヤしていた。正直言って俺も勝と同じ気持ちだからテンションが上がってその場のノリで答えた。
「マジであり!」
「じゃあさ、午前中から遊んで昼飯どっかで食って晩飯まで行っちまう!?」
勝の問いかけに俺たちは口々に遊びたい場所の名前や飲食店を挙げた。テンションが上がりすぎて声が大きくなり担任の先生にうるさいと注意され、ようやく平常心まで帰ってこられた。
「まず一人づつ遊びたい場所と飯屋を挙げよう」
勝の指示に従い俺たちは一人づつ提案した。まずは俺からだ。
「俺はボーリングしたい。でも、ボーリングだけだと飽きるだろうから複合レジャー施設が良い。それで昼ご飯は施設内に併設された場所で、夜はこっちに帰ってきて駅前にあるイタリアンってのはどう?」
俺の提案はみんな好感触だった。次は透が提案した。
「僕はカラオケが良いな。もちろん健ちゃんの所でもカラオケはできるけど時間短かったよね? だから、駅近のカラオケでお腹空いたら近くのご飯屋さん行って、少し歩いたらゲームセンターもあるし、夜は健ちゃんと同じく駅前のイタリアンで賛成」
透の提案もかなり魅力的で好感触だった。次は春奈が提案した。
「私はいろんな所に行きたいから駅周辺で遊びたいな。もちろん透のカラオケにも賛成。でも、カラオケに何時間もじゃなくて、もっと色んな所に行きたい。ご飯も健ちゃんと透と概ね一緒」
みんなの意見を聞いた勝は少し考え込んだ。全員の意見を合わせるとなるとかなり無茶なことになるからだ。俺はこの状況を完璧にまとめ上げられる方法を思いついた。
「思いついたんだけどさ、一駅先にボーリング場あるよな? 透はカラオケが良いんだよな? 春奈は色んな所に行きたいと。ならさ、一駅先のボーリング場行って、向こうで昼ごはん食べて、春奈が行きたい所行って、こっちに戻ってきてカラオケして晩ご飯ってのはどうよ?」
「完璧じゃん!」
春奈がそう言うと透は勝を気にしながら言った。
「勝は?」
「俺はみんなと一緒だったらどこでも楽しいから良いんだよ! それじゃあ日曜日はこれで決まりな」
「オッケー」
「分かった」
「楽しみー!」
ちょうど話し終えると同時にチャイムがなり昼休みが終わった。もう数え切れるほどしかない授業を受けながらもうそろそろ卒業するんだなと思うと何だか悲しくなりつつも、新しい生活が待っていると思うと楽しみだった。そんな感情を抱えつつ一日が終えた。
今日は光正の合否発表の日、朝起きると父さんと母さんから今日の夜はどこかに食べに行こうかと誘われた。もちろん断るわけもなく、今日と明日は最高の休日になるなと確信した。朝ご飯を食べ自室でゴロゴロしているとスマホに通知が届いた。それは勝からで午前中に合否を確認しに行くとのことだった。集合場所は勝の家だったので俺は服を着替え勝の家に向かった。
「来たか」
「みんなは?」
「透はもうすぐ、春奈はもうちょっとかかるって」
「そっか」
俺たちは待っている間何をしようかと思っていると、勝が庭の物置きからグローブ二つと軟球を取り出した。俺たちは小さい頃から嗜む程度にキャッチボールをしており暇つぶしにはちょうど良いとキャッチボールをして透と春奈を待った。
「お待たせ……って久しぶりだね。勝、僕にもグローブ!」
俺たちは三人でキャッチボールをしながら春奈を待った。しばらく話しながら待っているとようやく春奈も合流した。早速光正に向かうことにした。道中、光正を受験した生徒であろう人とすれ違ったが、ほとんどの生徒が笑顔だったため光正は受かりやすいと言うのは本当のようだ。光正に着くと、校舎の前に分かりやすく合格者の番号が表示されていた。見事俺たちは全員合格していた。
「春からまた一緒だね」
春奈の言葉に俺たちは何だか照れ臭くなったが、その事実はそんな照れ臭い感情を吹き飛ばすほど嬉しかった。俺たちは自然と笑顔になり帰路についた。
「また明日」
「バイバイ」
「じゃあねー」
「またなー」
俺たちは別れを告げた。みんな今日は家族から合格を祝ってもらうらしく早めに家に帰った。俺も今日は夜父さんと母さんと食べに行くからちょうど良かった。家に帰ると父さんと母さんと買い物に行くことになった。洋服を買ってもらい、好きなお菓子を買ってもらいとても楽しいひと時を過ごした。欲しい物を粗方買ってもらい幸福に包まれていると、父さんが時計屋で足を止めた。
「父さん?」
俺がそう言うと父さんは俺を手招きした。俺はどうしたんだろうと思っていると父さんが言った。
「健斗も高校生だ。腕時計の一つぐらい持っていた方がいいだろう」
父さんは不器用だけどとっても優しいことを俺は知っている。今も直接買ってあげるとは言わないが父さんのことだから好きなのを選べということだろう。現に母さんも父さんの後ろでニコニコと笑っていた。俺は腕時計がどんな物が良いのかあまり分からずどうしようかと思っていると、ショーケースの中に見覚えのある時計があった。俺は確認するように父さんの腕時計を見た。酷似しているが所々違うところがある。推測するに父さんの腕時計の後継機なのだろう。俺は父さんと同じ腕時計を付けれると思うと何だか嬉しくなりこれにすることにした。
「父さん決めたよ」
父さんが俺の言った腕時計を見ると何だかいつもより嬉しそうな表情をしていた。父さんを見て俺の方まで嬉しくなった。腕時計を父さんから受け取り付けてみた。腕時計を付ける習慣がなかったから最初は違和感があったが、父さんはうんうんと頷いており外そうにも外せなかった。そのまま晩ご飯も食べに行き父さんと母さんに祝ってもらえて本当に嬉しかった。家に帰ってきて三人でゆっくり過ごしている時、俺は久しぶりに父さんと母さんに甘えてみることにした。
「ありがとう父さん」
「ま、まぁな。息子が高校生になるんだからこれぐらい普通だ」
俺はソファでテレビを見ていた父さんに抱きついた。父さんは少し動揺していたが、父親らしいことを言った。俺は普段父さんに抱きついたりしないから焦ってて少し面白かった。俺はそのまま母さんにも甘えてみることにした。
「母さんもありがとう」
「ふふ、小さい頃を思い出すわ〜。ねお父さん」
「そうだな」
俺は二人に挟まれつつ甘やかされ尽くした。母さんにも頭を撫でられ父さんにアイスを持ってきてもらい、二人の温もりを感じながらテレビを見て笑う。そんな何気ない日常が今はとても幸せに感じた。
翌日、俺はいつメンとの約束の一時間前に目を覚ました。やっべーっと思ったが、朝ご飯を食べ昨日買ってもらった服に着替え必要な荷物を確認したらちょうど一時間ぐらいだろうと特に急ぐことなくいつも通り準備をした。俺の予想通り約束の時間ちょうどに準備が終わり俺は勝の家に向かった。俺たちの集合場所は九割が勝の家だ。何故かというと勝の家を中心にいつメンの家が三方向にあるからだ。
「お待たせー」
勝の家の前にみんな集まっており今日は俺が最後だった。
「それじゃあ行こっか」
勝を先頭に俺たちは最初の目的地の一駅先のボーリング場に向かった。駅まで歩き一駅電車に乗りボーリング場に着いた。俺たちは時間を無駄にしまいと早速ゲームを始めた。最初は肩慣らしということで普通にプレーしたが、二回目以降は二人一組に分かれてスコアを競った。勝っては負けてを繰り返しているとあっという間に終わってしまった。
「楽しかったね!」
「「「な!」」」
春奈が満面の笑みで額に少し汗をかきながら言った。俺たちも春奈と同じ熱量だったため満面の笑みで返事をした。ボーリングのアドレナリンが切れてくると次第にお腹が空いてきて昼ご飯を食べることにした。俺たちは普段行かないような場所に行ってみようということでカフェに入ってみることにした。俺たちは各々好きな物を頼みコーヒーや紅茶を飲んで料理が来るまで待った。その間に春奈が色んな所に行きたいと言っていたことを思い出し考えていることはあるのか聞くことにした。
「春奈、色んな所に行きたいって言ってたけど、どんな所に行きたいとかあるの?」
「実は昨日の夜どんな所があるのか調べてたんだけど、本当に色んな所があるからどうしようかなって悩んでたんだ。一応候補が三つあって、みんなの行きたい所があり行こうかなって。どれが良い?」
そう言うと春奈はテーブルの上にスマホを置いて見せた。そこには古物商のような店と古着屋、リセールショップが映し出されていた。まさかの選択肢に驚いたが、どんな物が売っているのか気になった。ていうか、春奈が古着とかリセールショップのような掘り出し物が好きなのは初めて知った。
「どれが良い? 私はどこでも行きたいからみんなで決めて」
「それじゃあ、俺リセールショップかな。古着屋と古物商みたいな所は高価な物とか傷つけたら嫌だし」
「そうだな」
「確かに」
俺の言葉に勝と透は共感してくれた。
「それじゃあリセールショップで決定!」
俺たちが話終わるとほぼ同時に料理が届いた。俺たちは各々が頼んだ物を食べカフェを後にした。リセールショップは少し歩いた所にあり食後の運動にはちょうど良かった。リセールショップに着くと、中には程々に人がいた。俺たちは各々好きな物ために各自で店の中を見て回った。リセールショップは本当に色んな物があり何時間も見ていられそうだった。俺はひょっとしたらここに何かしらのアイテムがあるのではないかと期待したが、アイテムがこんな所にあるわけもなくそれらしい物は一つも見つからなかった。
「何か良いのあったか?」
勝が話しかけてきたが、俺は首を横に振った。
「まぁそりゃそうか。俺は好きなアニメのガチャガチャのやつがあったからもう買ってきた」
そう言う勝の手には俺たちの世代に大人気なアニメのキャラのキーホルダーがあった。
「良いの見つけたな。俺はアイテムあったりしねーかなーって見てたけど流石になかったわ」
「そりゃそうだろうな。そもそもアイテムなんて俺たちみたいな子どもが買える値段で売ってないだろうしな」
ある程度店を見て周り俺たちはカラオケに向かった。俺たちは最寄駅まで戻り晩ご飯の時間までフリータイムでカラオケをすることにした。それから俺たちはお腹が空くまで歌って歌って歌い尽くした。少し喉が枯れてしまうほど歌った俺たちは晩ご飯を食べに向かった。そこは本格イタリアンで事前に予約もしており心ゆくまでイタリアンを楽しめた。マルゲリータからパスタ、フォカッチャ、ティラミスなどを食べてとても幸せだった。本格イタリアンを食べるのは初めてだったので日本とこれほど差があるのかと驚かされた。
「美味しかったな」
「ね。ちょっと高いけどまた行きたいって思えるぐらい美味しかったね」
そんな話をしながら帰路についた。もう少しで高校生になって忙しくなるだろうから今のうちに遊んでおけて良かったと思った。みんなに別れを告げて家に帰った。父さんと母さんに今日のことを話したら二人とも楽しそうに聞いてくれた。光正に入ってからはもっと色んなことを話そう。そう心に決めた。
ゆっくりお待ちください




