2話 入学試験②
ダンジョンに入るとそこは手掘りの坑道のような印象を受ける場所だった。ゴツゴツとした岩肌が剥き出しとなっており洞窟と言えば洞窟だが、どこか人の手が加えられている感じがした。このダンジョンは様々な方向に枝分かれした道があり、適当に進むと迷子になってしまうだろう。俺たちはひとまず大きく一直線に進める目の前の道を歩くことにした。しばらく歩いていると、何人かの生徒とすれ違った。アイテムをゲットしたのか手には見慣れない何かを大事そうに抱えていた。
「もっと奥まで行くか?」
勝が俺たちに問うてきた。俺としては適度な場所までなら大丈夫だろうと思っているのでその旨を伝えることにした。
「行き過ぎなければ良いんじゃない?」
「ならもうちょっと行くか」
俺たちがある程度まで進んで来ると生徒たちの声が聞こえてきた。枝分かれした道から反響して俺たちがいる大きな道まで聞こえてきているのだろう。
「他の生徒が調べ尽くした後かも知れないからもうちょっと進も」
透の言葉に俺たちは従いさらに奥へと進んだ。先ほどまで聞こえていた生徒たちの声は聞こえなくなった。この辺りまでは来ていないのだろうと思った俺たちはこの辺りを探索することにし、作戦を立てた。二人一組に別れ、枝分かれした道に入りそこでアイテムを探す。時間は三十分までと決め、この大きな道に戻ってくる。道に迷わないように目印を置く。これらのことを決めた。ペアは俺と透、勝と春奈となった。そして、いざという時は真っ先に逃げることとし、俺たちはアイテム探しを始めた。
俺が先導して枝分かれした道を進み透が後ろで目印を置いてくれている。しばらく歩いていると行き止まりにぶつかってしまった。俺たちは仕方がないと別の道を探した。この時点で十分が過ぎておりペースを上げることにした。早歩きでアイテムを探していると、なんともファンタジックな宝箱を見つけた。でも、俺たちは迂闊にその宝箱には触れなかった。ここはダンジョンであり、他の生徒は来ていないであろう場所。つまり、ゴブリンのようなモンスターの罠の可能性もある。俺たちは来た道を確認して試しに宝箱に向かって石を投げてみた。だが、思った反応は得られず困っていると透が言った。
「これが罠じゃない可能性は?」
「罠じゃない可能性もあるけど、罠だった時どうする?」
「罠の種類にもよるけど、モンスターがそんな巧妙な罠仕掛けれると思う? もしミミックだったとしても、全力で逃げればなんとかなると思うけど」
俺は少し考えた。宝箱の周りに怪しい物はなく、ゴブリンたちのようなモンスターが手の凝った罠を仕掛けるとは思えない。もし、ミミックだったとしても全力で来た道を戻ればなんとかなる可能性はある。時間を確認すると約束の三十分までもう残り十分となっていた。今から探すのじゃ間に合わない。俺は覚悟を決めた。
「開けよう」
俺たちは慎重に宝箱に近づき周りにを確認した。罠と思しき物はないか、来た道はどちらかきちんと確認した上で二人で宝箱を開けた。俺たちはミミックの可能性も考慮して開けたらすぐに離れたが、幸いミミックではなく罠でもなかった。俺たちは宝箱の中を覗くとそこには剣と杖があった。剣は冷気のような物を発しているように思え、杖は蒼色で森の木のような感じがした。それを見た俺たちは話し合うこともなく、俺が剣を取り透が杖を取った。
「「だよなー」」
流石は幼馴染だと少し笑っていると、時計の三十分を告げるアラームが鳴った。俺たちは目印を頼りに小走りで来た道を戻るともう勝と春奈が待っていた。俺たちは待たせたことを詫び先生たちがいる出入り口へと向かった。
「二人はどんなアイテムを見つけたんだ?」
俺が勝と春奈に聞くと、二人はアイテムを見せてくれた。勝のアイテムは拳に装着する武器兼防具といった感じのアイテムで、春菜のアイテムはブレスレットだった。勝のアイテムはなんとなく理解できたが、春奈のブレスレットはよく分からずそのままにしていると勝たちも俺たちのアイテムを見たいとのことだったので見せてあげた。
「なんかこの剣冷たくね?」
「本当だー!」
勝の言葉に春奈が剣に触れると面白い反応を見せてくれた。しばらく歩きながらそんな話をしていると、ダンジョン中に響くような女生徒の悲鳴が聞こえてきた。俺たちは何かあったのだとすぐに察知した。俺たちは阿吽の呼吸で二手に別れた。一番足の速い俺が先生たちを呼びに全力ダッシュし、他のみんなは悲鳴の主を探し始めた。息も絶え絶えになりながら出入り口まで行くと、そこには鷲田先生と他に二名の先生がいた。
「せ、先生! ダンジョン中央辺りで女生徒の悲鳴が聞こえてきました!」
「ほ、本当か!?」
「他に情報は!?」
「今、俺の親友たちが捜索している最中です!」
俺がそう言うと、鷲田先生が肩に手を当てて言った。
「君はここに残って現状を外の先生たちに伝えてくれ。分かったな?」
「……」
俺はみんなが心配でもう一度みんなの所まで戻りたかった。でも、俺がここで我儘を言えば助けられる命も助からないかも知れない。そう思うと俺は俺のやるべきことを全うしようと決めた。
「分かりました。俺の親友たちは男二女一です」
それだけ伝えると先生たちはとてつもないスピードでダンジョンを駆け抜けた。その人外離れした身体能力に度肝を抜かれたが、俺はすぐに外で待機しているであろう先生に現状を伝えるべく動いた。ダンジョンから出るとそこにはもうすでに試験を終えていた生徒たちが大勢いた。生徒たちは息も絶え絶えな俺を物珍しそうな目で見ていたが、俺はそんなこと気にせず先生を探した。少し探すと先生らしき人たちがいた。
「せ、先生! ダンジョンで負傷者が出たかも知れません! 今鷲田先生たちが探しに行っています!」
その言葉を聞いた先生たちはダンジョン内に急いで入った。生徒たちは騒がしくなっていたが、そんなこと気にせず俺も先生たちに続いてダンジョン内に戻った。するとそこにはみんなだけがいた。
「君たちは大丈夫か?」
「私たちは大丈夫です」
春奈が無事を伝えると同時に透が現状報告をした。
「僕たちは危険だからと鷲田先生に戻るように言われて今ここにいます。まだ鷲田先生たちが帰ってこないので手こずっているのかも知れません」
「私も捜索に行ってきます」
透の話に一人の先生が捜索に行った。その先生も鷲田先生と同様とてつもないスピードだった。少ししたらダンジョンの奥の方から鷲田先生が走ってきた。よく見ると背中に男子生徒を抱えていた。それは入試前に俺たちと一緒に行動しようと言ってきたリーダー気質な奴だった。
「今すぐ治療を!」
鷲田先生が走りながらそう言うと待機していた先生が手に持っていた本を左手に持ち右手を前に翳した。それとほぼ同時に鷲田先生が男子生徒をその先生の前まで運んできた。すると、先生は男子生徒に対して治癒魔法と思われる魔法を使った。男子生徒はパッと見ただけでも重症だと分かる外傷を負っていたにもかかわらず、先生のアイテムだと思われる本のおかげで外傷は綺麗さっぱり治った。俺たちは初めて見るアイテムの力に言葉が出なかった。
「なんとか間に合いましたね……」
鷲田先生が一安心といった感じで一息ついた時、後ろから他にも捜索に行った先生と生徒たちが戻ってきた。
「間に合ったようで良かったです」
先生たちはホッとしていたが、生徒たちの表情は悲惨だった。泣きじゃくった者、転んだのか泥だらけの者、顔面蒼白の者と、とても無事とは言えない様子だった。でも、みんな生きて帰ってこられてよかったと安心した。
「ちょうど制限時間だ。外で人数確認をするから出るぞ」
俺たちは鷲田先生の指示に従いダンジョンを後にした。俺たちはダンジョン内でゲットしたアイテムを記入する先生に手渡し試験を終えた。時間はギリギリだったが、イレギュラーが発生したため鷲田先生がそれを考慮してくれと助言してくれた。なんとか試験を終えられホッとした。鷲田先生が人数確認を行うと次の指示を出した。
「お前らの試験はこれで終わりだが、最後に一つ、さっきまで俺たちは先生たちがバタバタしてたからなんとなく察している奴らもいるだろうから話しておく。最後に俺たちと出てきた生徒はダンジョン内にいるモンスターに襲われ重傷を負っていた。今回は別のグループの奴らが助けを呼んで助かったが、毎回そうはいかない。ダンジョンは常に死と隣り合わせだ。そのことを念頭に置いて自分の命を第一優先に行動すること。光正に入学しない生徒もいるだろうが、どこでもこれは一緒だ。慢心、油断は文字通り命取りとなるそのことを忘れないように。以上」
「「「はい!」」」
鷲田先生の話が終わると大半の生徒は光正を後にした。俺たちもそろそろ帰ろうかと話しているとさっきの生徒たちが俺たちの所にやってきた。どうしたのかと思っていると、弱気そうな二人の男子生徒より先に悲鳴を上げた女生徒が言葉を発した。
「さっきは本当にありがとうございました。ほら二人もお礼して」
「「あっ、ありがとうござました!」」
俺たちは少しの間助かって良かったことやリーダー気質な生徒のことなど聞いた。三人曰く、リーダー気質な生徒は光正の保健室で安静にしているらしい。詳しいことは三人も教えてもらえておらず少し心配そうにしていた。
「なら保健室行こうよ」
俺は思っていたことが口から出てしまった。でも、別に悪いことを言ったわけではないのが唯一の救いだった。
「そうだな俺も心配だし顔見ておきたいな」
勝の言葉に俺たちは鷲田先生に保健室に行きたい旨を伝えに行った。
「鷲田先生、保健室まで行きたいんですけど良いですか?」
「時間もあるし連れて行ってやる」
俺たちは鷲田先生について行った。少し歩くと保健室まで着いた。中に入るとそこは一見普通の保健室のように思えたが、所々に春奈のアイテムのようなブレスレットや分厚い本が置いてあり少し違和感を感じた。
「松本先生、例の生徒はどうですか?」
鷲田先生がそう聞く目線の先には高めのポニーテールにしているスタイル抜群な先生がいた。思春期男子には刺激が強すぎる先生に俺は鼻血が出そうになった。
「もう目を覚ましてもおかしくないですけど、受験生ですから疲労が溜まっててまだ目を覚さないかも知れません。一応保護者に連絡は入れてもらってますので安心してください」
「助かります。とのことだ待っていても先生に迷惑をかけるだけだから帰りなさい」
俺たちは仕方がないと帰ろうとしたが、リーダー気質の生徒と同じグループの生徒は引き下がらなかった。
「起きるまで側にいてちゃダメですか? 太一は僕たちを助けてくれた命の恩人なんです。少しでも看病したりしたいんです」
「分かった。なら好きにしな。勝手は教えてあげるから」
その言葉を聞いた二人は早速松本先生に色々聞いて動き始めた。それを見て女生徒も命を救われたからか一緒に看病をし始めた。
「お前らは帰るか?」
鷲田先生の問いに俺たちは静かに頷いた。心配だった容態も把握できたし看病してくれる人が三人もいれば十分だろうから俺たちはいらないと判断した。
「そうですね俺たちは必要なさそうなので帰ります。お疲れ様でした」
「おうお疲れ様」
俺たちは帰路についた。一時はどうなるかと思ったが、全員怪我はしてないし試験も無事終えられた。後は結果を待つだけとなった。その日はみんなかなり疲労が蓄積され、まだ昼にもかかわらず一日が終わったような雰囲気だった。入試が終わった打ち上げなどもすることなく今日は各々の家でゆっくり休息を取ることにした。
「ただいま……」
「おかえりーどうだった?」
家に帰ると母さんが入試結果を聞いてきた。俺は今の疲れた身体で答えると誤解を与えそうだと思ったのでリビングに行くことなく自室に向かうことにした。
「疲れたから昼寝する」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫ー」
俺は誤解を与えないように気丈に返事をした。俺は自室のベッドに寝転がると一気に緊張が解け泥のように眠った。
「健ちゃんご飯できてるよー」
リビングから母さんの声が聞こえてきて目を覚ました。外を見るともう真っ暗だった。寝過ぎたかと思ったが、入試終わったし良いやと思いリビングに向かった。階段を降りているとリビングから漂う良い匂いに心躍らせた。リビングの扉を開け机に目を向けると、そこには唐揚げやカレーなど誰でもテンションが上がるメニューが並んでいた。
「おはよ」
帰ってきていた父さんが今まで寝ていた俺に微笑みながら言った。
「おはよ」
俺は父さんに微笑みながら返事をした。俺は今すぐにでも晩ご飯にがっつきたくなり椅子に腰掛けた。俺は我慢できず母さんに聞いた。
「もう食べて良い!?」
「ふふ、召し上がれ」
俺は母さんの手料理を満足いくまで食べた。ふと前を見ると、父さんと母さんが微笑みながら俺のことを見ていた。俺はなんだか恥ずかしくなったが、時々二人がこうして俺のことを見てくることがあったので気にせず食べた。すると、父さんが口を開いた。
「入試はどうだった?」
俺は晩ご飯を食べる手を止めて嘘を織り交ぜながら話した。
「案外簡単だったよ。モンスターも出なかったし罠とかもなかった。俺含めまっさーたち全員アイテムゲットできたし受かってると思うよ」
「そうかそれなら良かった。怪我とかは大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
入試の話は終わり後は何気ない話をして、満足いくまで晩ご飯を食べ終えた。風呂にも入って疲れを取り眠ろうとしたが、昼寝をしてしまったことで全然眠たくなくスマホをいじることにした。その時ふと透が見せてくれたダンジョン攻略動画が気になり調べてみることにした。今後のためになるかも知れないと思ったのも理由の一つだ。しばらく動画を見ていると次第に眠くなりいつの間にか寝落ちしてしまった。目を覚ますと奇妙なライブ映像が流れていた。ダンジョンと思しき場所をただ写しているだけの映像だった。ダンジョンに定点カメラを置いて、その映像をそのまま流しているような映像だった。俺は変なライブだなと思いスマホを閉じようとした時、文字が現れた。
ー今この動画を見ている人にのみお伝えします。栄誉のダンジョンと呼ばれるダンジョンに貴方にピッタリなアイテムがあります。人によっては剣かも知れませんし杖、もしかしたら見たこともないようなアイテムかも知れませんー
俺がその文字を読み終えると同時にその文字は消えた。俺は何だったんだろうと思ったが、あれが本当だったら損だし一応メモを取っておいた。でも、俺はまだ中学生だから行くにしても光正に入学してからだ。まぁ近いうちに行けるだろうから準備は怠らないようにしよう。そう決め、俺はランニングに向かった。
ゆっくりお待ちください




