第六話 最高の熟成肉ステーキだ!くいっせ!
ご丁寧なことに、
たまに現れる、塔内部への開口。
その脇には、しっかりと刻まれていた——
【30f】
「……30階、か」
まだまだ、登ったうちに入らねぇな……
焼酎をすすりながら、
おっさんはまた一歩、階段を踏みしめた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
ややあって、気がついた。
ここは砂漠にあって砂漠でないのか?
空調服を開いてみると、暑くもない。
娘達にも促し、楽な普段着に着替える。
トゥエラには、ベージュのオーバーオールにシマシマシャツ。
テティスには、カーゴパンツに長袖作業服。
腰袋もつけてやった。
暑くも寒くもない。
どこか、ふつうの感覚。
下を見れば、真っ黄色の砂漠の海が広がっている。
上を見ても……キリがない。雲の先すら見えやしない。
「もう少し行ってみて、メシにすっけ?」
娘たちの足音と、塔の静寂。
また、ぼちぼちと——
石の階段を歩き始めた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
おっさんは足が疲れた。
……いや、そうでもない。
娘たちのほうが疲れてるんじゃないかと振り返ってみたが——
めっちゃ元気だ。
「……ぶっちゃけ、飽きた。」
今日はこんなもんで勘弁してやって、
腰を落ち着けて一杯やりたい。
焼酎と、塩気の効いたつまみと、
できれば“何かあった感”が欲しい。
そんな煩悩が天に届いたのか。
階段の脇に、控えめに彫られていた——
【50f】
何故か扉がある。
今までは空き家だった。
「誰か住んでんのけ?」
インターホンはない。
ゴンゴン、とノックし押し開けてみると…
ヌメリ…ヌメリ…
部屋の中央に、なんか…
子供の教育上良くない雰囲気の…
食虫植物が鉢に植っていた。
最近のモンスター《おかず》は、
ほぼ娘たちが片づけてしまう。
トゥエラが一閃で斬り飛ばすか、
テティスが無言で魔法をぶっ放すか——
おっさんが道具を召喚する暇もない。
もうちょっとこう……活躍の場が欲しい。
だが、斬られて転がるモンスターを見ながら、
娘たちの誇らしげな顔を見ると……まあ、いいかと思ってしまう。
おっさんは娘に遅れを取らぬ様に、
食べづらそうなカップアイスを渡し、
モンスターに向き直り、
充電式コンクリートバイブレーターを、
スイッチをビニールテープでぐるぐる巻いて、投げ入れる。
「そいや」
上部からスポンと入った道具は…
ブィィィィイイイイイン……!!
毎分一万三千回の振動が、
ツボ型モンスターの内壁を、容赦なく打ち鳴らす。
ビイィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!
刹那。
食虫植物は破裂し、
ドチャリ…
と中から肉塊が落ちる。
カビたような、腐ったような…
見栄えの悪い塊。
危険はないか?と周囲の安全確認を施し、
アイスに夢中な子供達を呼び、
そっと…肉にナイフを入れてみると…
滑らかな淡いローズ色。
モンスターの腹の中で、
適度な湿度と温度で低温熟成されていたらしい。
滑らかな光沢と、ほんのりとしたぬくもり。
それはまるで——
高級料亭で供される、極上の牛肉のようだった。
「……これ、焼いたらヤバいやつだな」
おっさんはごくりと唾を飲み、
娘たちは目を輝かせて肉を見つめていた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
一輪車に肉塊を積み込み、
汁が飛び散って汚いこの部屋を後にする。
階段と部屋の間の狭いスペースだが、
早めの夕食の準備にかかる。
まずは以前、海竜から貰った牙で拵えた、包丁。
これを使い、肉塊の周囲を少し厚めに切り取る。
ここはカビや雑菌がいるので塔から砂漠に投げ捨てる。
海竜の包丁は凄い魔力があるらしく、
綺麗な薔薇色の部分だけになるように剥ぎ取れば、
もう食中毒の危険はない。
次に三人分に切り分け、食べきれない部分はラップでぐるぐる巻いて冷蔵庫へ。
バーベキューグリルを取り出し、
炭を起こす。
大きめの焼き網なので、炭の範囲は半分。
もう半分は焼いた肉を休ませる場所だ。
炭火で焼くと脂が落ちる。
なので、下味の塩はたっぷりと塗り込む。
スパイスは焦げるので、後だ。
ジックリと網の焦げ目がつくまで焼いたら、
トングでひっくり返し、
両面火が入ったら、アルミホイルで包み、
端で休ませる。
ジュースや酒を準備してる間に予熱でさらに旨くなる。
ホイルを剥がし、
究極混沌魔石を振り完成。
適当な野菜と一緒に皿に盛り、
ついでに焼いたパンを添え、
「最高の熟成肉ステーキだ!くいっせ!」




