第七話 チキンライス生春巻きだっぺよ!
おっさん家族は、気がついていない。
この天まで届く塔【神の爪楊枝】は
天界に棲む神々の…食事のカス。
歯間から溢れたような、
この世の極上の料理がこびりついた…
極旨グルメタワーであることを。
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酒と肉で満足したおっさんは、
もう歩く気力など、どこにもない。
——が、寝床を展開できるスペースも見当たらず、
仕方なく、食虫植物の部屋を高圧洗浄機で丸ごと洗い流し、寝場所を確保する。
トゥエラは、腹を出して大往生。
テティスは、光悦の表情のまま、ぼんやりと遠くを見つめている。
おっさんは焼酎を飲み干し、
次はウイスキーにカラーチェンジ。
まったりと、深くなる夜に身を預けた——。
まだ夕方だったが——
風呂も、仮設トイレ《水洗洋式便器》も問題なく使えた。
高所墜落災害用のエアーマットを膨らませば、もうおやすみモードである。
テレビも、ネットもない異世界。
だが、娘たちの寝顔を見ながら酒を呑んでいれば、
——時間など、気にならない。
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翌朝。
熟成肉をワインだれで軽く煮込んだ、牛丼で朝食を済ませる。
まだほんのり眠そうな娘たちを引き連れ、
おっさんは、再び階段に脚をかけた。
今日もぐるぐると、
階段を登る。
昨夜、風呂場で気がついたのだが、
樹海での冬眠中に蓄えた…
10キロの米くらいの腹は
出金されていた。
うっっっっすらと…だが
割れている様にもみえる腹筋。
そんな些細なことに希望を見出したおっさん一行は、
ようやく…
【100f】
の扉の前に辿り着く。
「さて…晩飯はなんだっぺねぇ」
ドアの前に立つと、前回との違いに気がつく。
手前に開けるドアであった。
なにか槍でも飛んでくると危ない、
と思いノブにロープを結び、後ろに下がって引き開ける。
チャプ…チャプ…
入り口は水で満たされている。
謎のパワー故か、溢れてはこない。
まぁまぁ大きい内部に、目を凝らすと…
「魚かよ」
ちょっとしたクルーザーほどの、
全身が銀色に光る巨大な魚影。
それが水中を、機敏に、うねるように泳いでいた。
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しならく観察すると下っ腹が、
ボゴォッ…と
膨らんでいる。
どう見ても鮭。
紅く染まった腹と、
シャクレ出たあご。
「うーん」
まいどお馴染みの水中ポンプか…
もしくは電撃か?
と漁の仕方に頭を捻っていると。
「おとう………様」
後ろから控えめに声をかけてくる、
テティスがいた。
「どしたん?」
と聞くと、
「私にやらせてください」
と言う。
それは構わないが、
あの腹を見ろ。
あそこは旨いからズタズタにするのはちょっと…
と咎めると、
「満腹の時に編み出しました。
【空間魔法】を使います。」
という。
おっさんの頭に????が浮かぶ。
テティスは右手を、水の膜に触れるか触れないかの距離に。
力を込め始め…
左手で、紅くなりつつある鼻を隠す。
「漏…れ…」
プルプルと震えながら、
魔力を込めているようだ。
「対価が…必要なようです…」
テティスが言う。
対価?
なんだそりゃとおっさんは悩む。
魔法を使う対価…
魔力…
力…
力=金?
チーンと閃き、
おっさんはフレコンに一杯の黄金を取り出す。
三毛のとこで貰ったやつだ。
するとテティスは、
「充分です…」と、右手を振るわせ…
「はぁぁぁぁぁ!」
眩しく発光した。 と思うと、
ずぅぅぅん…
俺の目の前に…
テラテラと紅く蠢く、塊が現れた。
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目の眩む光が収まると…
鮭は金ピカになっていた。
あれだ…
土産物屋で売っている、
木彫りの熊に食われてるヤツだ。
しばらく見ていると、部屋の水が抜けて行き…
金の鮭はどこかへ消えてしまった。
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おっさんは目の前に落ちた筋子にそっと手を伸ばし…薄皮の中のイクラ…
ではない。
よく見ると、その紅い粒粒は、
熱々の、ふっくらと炊かれたチキンライスであった。
「そんなことあるんか?」
手掴みで皮ごと毟って一口…
「生春巻き…?」
大皿にくるくると巻きつけた筋子を並べ、
食べづらいので串を刺す。
「おーい食ってみろ、旨いぞ!チキンライス生春巻きだっぺよ!」
漏れずにホッとしたテティスと無邪気なトゥエラが寄ってきて、
「おいっしいぃぃぃぃぃぃぃ!」




