第四話 ……めんごいこと
ふわふわと砂上を漂い、
動力的に、地上20センチ程度しか浮かないのだが…
徒歩よりは断然快適で、
なにより、
飲酒運転などという法律もない異世界。
おっさんは…
焼酎を片手に、
だが、完全防備空調服のため、
マスクのフィルターに、ドリルで小さな穴を空け、
ストローで酒を吸い込みつつ冒険を進める。
都市や、石油コンビナートのような…
蜃気楼はずっと見えている。
見え過ぎて、
恐らく実在するのだろう。コンビナート。
そんな事はどうでもいいのだが、
幻ではないなにか…
あと、数キロ程度で到着する距離に…
トルネードポテトがある。
美味そうだ。
油でカリッと揚げた、あのぐるぐるの。
ああいう揚げ物には、やっぱりレモンサワーが限る。
サッパリするし、食も進む。
娘たちは、あれを見てもピンときていない。
無理もない。おっさんだって、実物を作ったことなどない。
というか——あんなもん、わざわざ作る機会なんて、普通はない。
でも、今なら……今作らなければ、一生作らない気がした。
正直、普通のフライドポテトの方が美味いとは思う。
それでも。
おっさんは作った。
面倒なので、絨毯の上で。
じゃがいもを包丁で器用にクルクルと切り出し、
串をブッ刺し、
油にズボッと沈め、カリッと揚げて——
無言で子どもたちに差し出す。
特級破砕魔石。
パラリとかければ、魔力とうま味の暴走…
圧倒的“テーマパークの味”が口の中に広がる。
……まぁ、オヤツなんだけどな。
揚げたての芋串を、誇らしげに掲げるトゥエラとテティス。
小さな手に、1本ずつ——合計4本のトルネードポテト。
その背後には、遠く天を突く変な塔。
おっさんは携帯を取り出し、思わず連写。
パシャパシャと異世界の空気を切り取る。
「……めんごいこと」
焼酎をチュッと吸いながら、
おっさんは、完全にデレていた。




