★第五章 第一話 砂漠の伊勢海老三昧!食べてくんちぇ!
読んで頂きありがとうございます。
第五章 始めてゆきます。
荒地の果てに、地平線が揺れて見えた。
照り返す光の波にまぎれて、乾いた風が砂を運ぶ。
地面は、石の混ざった土から、さらさらと崩れる砂に変わり始めていた。
小さな丘のように見えたのは、風紋をまとった砂丘――
俺たちは、いつの間にか“陸”を離れ、“海”を渡ろうとしていたのかもしれない。
キャットランドでの一件を終え、
おっさん達の旅は再開された。
お忘れかもしれないが、この旅は遥かなる王都を目指し始まった。
方角や距離などはまったくわからない。
なにを頼りに進んでいるのかと言えば…
朝日が出た方になんとなく歩く。
これだけである。
荒野の街を出発して、何度目の朝日を見たのか忘れたが、
環境は一段と厳しくなり、
足は砂に埋もれ歩き難く、
「陽射し」という言葉では生温い
「熱射」の突き刺さる地獄の環境を…
鼻歌混じりにランランと歩いていた。
涼しい砂漠。
砂の踏み心地が面白い。
もしここに原住民が居たなら…卒倒していたかもしれない。
ホテルもエアコン完備で快適。
そうめんを啜り、
「ちょっと寒ぃんでねぇの?」
などと宣っていた。
火山のマグマにも耐えた空調服である。
砂漠の熱波などうららかなものである。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
しばらく歩き、休憩がてらに辺りを見回すと、
砂地の一角が――まるで“生きているように”サラサラと動いていた。
「……流砂とかいうやつか?」
おっさんは何を思ったのか、
樹海の枝で拵えた釣竿を取り出すと、
蜘蛛の魔物から採取した糸を結びつけ、
J字に曲げた釘に干し肉をちょいと掛けて、
流砂の先へとキャスティングした。
しばしの沈黙ののち――
ビクリと竿が揺れ、次の瞬間、
ズボォッと砂を割って、でっかいクワガタみたいなバケモノが飛び出した。
「よっしゃ来た! ふんすっ!」
合わせるおっさん。
暫しの格闘の末、吊り上げたのは…
見るからにプリップリで美味そうな、
伊勢海老だった。
キラキラと目を輝かせる娘達を見やり、
「今日はご馳走だぞ!」
と満面の笑顔。
どう料理して、なんの酒が合うだろうか…
などど首を傾げる平和なおっさんだった。
流砂を見るたびに竿を振っていれば、
いつのまにかクーラーボックスは満タンである。
まだまだ日は高かったが、
我慢の効かない三人は、
砂漠の真ん中に宴会場を召喚し、
いそいそと空調服を脱ぎ捨て、
夕食の準備を始めるのであった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
まずは子供達の喜びそうな方からである。
巨大蟻地獄をよく洗って砂を落とし、仰向けにおいて…
トゥエラがマチェットナイフで真っ二つに。
テティスが器用に剣スコップを使い、殻と身の間から中身を外す。
半身を食べれるサイズに斬り分け、
耐熱皿に練った魔石と醸造魔石を入れて、トゥエラがマゼマゼ。
その中に蟻地獄を入れてよく和える。
殻の中に詰めて、上から黄色いスライムをかけ…
砂漠の岩上で15分焼いたら完成だ!
子供たちとの料理が完成したあと、
おっさんは「さて…」と一息つき、ひとり用のまな板を持ち出した。
今度は、大人の時間――酒のアテである。
氷水にぶち込んで弱らせた巨大蟻地獄を、
縦半分にぶった斬る。斬るのは、もちろんトゥエラだ。
ぶしゅっ!と音を立てて流れ出る鮮血。
しばらく血抜きをしてから、今日は使わない頭部分を落とし、冷蔵保存。
「明日の味噌汁にでもぶち込むか…」と呟きながら、着実に作業を進める。
身の掘り出しはスコップ担当のテティス。
苦い背腸は、おっさんがバールでぐいっと剥ぎ取って捨てた。
あとは一口サイズにカットし、冷えた殻の上に丁寧に並べ直せば――
超新鮮蟻地獄、完成!
透明感のある白身に、うっすらと血管が走る。
ぷりぷりとした弾力と、ほんのり甘い磯の香りが鼻をくすぐる。
部屋がエアコンで薄ら寒いので熱燗を準備して、
「砂漠の伊勢海老三昧!食べてくんちぇ!」




