第二十三話 尻尾の割れたギルドマスターが立っていた
決意を胸に秘めたおっさんは…
それはそれとして、酒場へ降りた。
娘達は夢の中だ。
ステージが気になって仕方がない…
人力と知って、乗る気になれないエレベーターを避け、階段を二段飛ばしに駆け降りる。
五十路近い顔に似合わず、おっさんは鳶だ。
いや。大工だが…
鳶という職業は、要するに高所作業者である。
おっさんは東京のスカイツリーの頂点にも登った事がある。
登るだけではなく、溶接やボルト締めなどの作業を、両手放しで行いながら鼻歌を歌う、
…ようするに、“地上数百メートルの非常識”を、
日常にしてしまえる異常者である。
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軽やかにもつれた足で酒場に辿り着くと…
華やかなステージショーが煌めいていた。
自重を重んじるおっさんは、店主を見つけ、
虹券をかざし、酒と観覧席を求める。
弁えているおっさんは、店主にだけ見えるように…チラリと出しただけである。
大人の貫禄。
を…後方にキラーパスし、ステージにがぶりよる。
幕がふわりと開いた瞬間、
薄絹のように揺れるガウンが、舞台の灯に照らされてきらめいた。
中央アジアの伝統と異世界を縫い合わせたような、艶やかな衣装。
深い紫や藍、錆色が交錯し、繊細な刺繍が踊るたびに波のようにうねる。
裾から覗く足首には金の鈴。踏み鳴らすたび、かすかに音を立てて観客の鼓膜をくすぐる。
奏でられるのは、どこの国ともつかぬ弦楽器と、掌で叩く小さな太鼓。
呪文のようなメロディが空間を包み、女たちの舞はそれに呼応するように、
風のように、焔のように、自在に形を変えた。
まるで――異国の神が、夢の中で踊っているかのように。
酒に酔ったのか、舞台に酔わされたのか…
すっかりごきげんなおっさんは、
周りの客達の行いを真似て、ステージにチップを投げ入れる。
通貨の相場も覚束ない為、金貨を一握り投げてしまう。
ザワリ…
空気が変わる。
面倒なので説明は省くが、
石 鉄 銅 銀 金の十進法で、
要するに20万円ほど投げたわけだ。
驚きと、嘲笑と嫉妬と……
悪意。
「まずったなこりゃ…」
つい楽しくてやってしまった自分の失態を認知し、恥じる。
しかしもう遅い。
後方17時方向から迫る、殺意混じりの威圧。
身から出た錆…
覆水盆に返らず…
郷にいればg(ry…
後悔を先に立たせて、後ろを振り向けば…
怒りのせいか、
尻尾の割れたギルドマスターが立っていた。




