第二十話 ああ、来たよ……絶対来ちゃったよ……
ここ数日の日差しに焼かれ、
浅黒さを増したおっさんであったが、
荒野の夜明けは寒かった。
トカゲに寄り添い毛布を被っていたが、
小用をもよおして起き上がる。
岩陰で用を足し、崖下を見やると……
行商人だか旅人だかわからん連中が、ぽつぽつと列を成していた。
やがて、朝靄のなかへと、その列は街の門に吸い込まれていった。
朝礼用のポータブルCDラジカセを置き、
娘達にも教えつつラジオ体操でコリを伸ばす。
ゴキゴキと音を鳴らし旋回する腰。
娘達は軟体動物のようにグニャグニャと動いていた。
「一・二・三・四……ほら息止めんなー!」
CDから流れる掛け声に合わせ、崖の上に広がる不思議な体操の輪。
トゥエラは途中で転がり、テティスは首だけ回して満足げだった。
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「俺らもそろそろ行ってみっけ?」
朝飯は敢えて食わず、
トカゲにだけ肉を与えて
未知の街へと坂を降った。
門扉は大きく開かれ、検問の様なものもない様だ。
入る者も、出て行く者も…
誰も気に留める様子はない。
うちの竜車は流石に目立ったか、
チラチラ視線を感じるが、
それでも…
東京の駅構内のような無関心な空気に
少し胸を撫で下ろす。
職業柄見てしまう建物は、
石を積み上げ、モルタルを塗りつけたような…
耐震なんて概念すらないような、
素朴な造りであった。
目地も甘く、鉄筋など期待できない。
だが、そうやって何百年と生き残ってきたのかもしれない。
“合理性”と“信仰”、それが入り交じった建て方だ。
職人として、妙に納得してしまう部分もあった。
人々をそれとなく観察すると…
猫のような耳の生えたガチムチ。
ワニみたいな顔をした女性…
うちのトカゲみたいな尻尾を引きずり歩く人
多種多様にも程がある。
港町にも獣人みたいのはいたが、
この街は、俺の様な普通の人間の方が少ない様にも見える。
そのくらいの人種の坩堝だった。
鼻がなくて口が縦に裂けたやつや、
頭にキノコを生やしたやつまで歩いてる。
一周回って俺が“珍獣枠”じゃないかとすら思えた。
とりあえず宿…
ではなく、あるのかわからない冒険者ギルドを探すことにした。
「ギャァギャァ」
とか
「ゴォォウゴゴォウ」
みたいな
猛獣?みたいな声が聞こえるが…
参ったことに、全部言葉として理解できてしまった。
「これも…チートなんけ?」
項垂れるおっさん
辺りを見るとはなく見ながら道を進むと、
ライチみたいな赤黒いフルーツを売っている露店を見つけた。
店主は、目の覚める様な美女…
の下半身がトグロを巻いた蛇嬢だった。
冷蔵保管出来るので、ひと籠注文し、ついでに冒険者ギルドがあるのか聞いてみた。
目と鼻の先にあった様で、
ギイィィ…と軋むウエスタンドアを、
「直してぇ」
と無粋な男が押し開け入っていった。
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味のあるテーブルが無造作に並ぶ、
とても役所にも斡旋所にも見えない、吹き溜まり。
背もたれの壊れた椅子や、焼け焦げたランタン、
使い古しの防具が転がるその空間は、まるで敗者の溜まり場だった。
一応奥には窓口はあるようで、
護衛を守りつつ進んでみる。
受付嬢はまともそうなびじn…(酒くっさ!)
で、応対も普通だった。
だがここで、予想外の事故が起こる。
ギルドカードの提示を求められたため、
ついうっかり…
「預けている」
と言ってしまった。
これを触れと出された水晶玉…
置いた瞬間噴き上がる虹色のスターマイン。
やっちまった…
戦慄が走る犯罪者予備軍更生場
故障か!?とか
偽造か!?とか
めんどくさい雰囲気に…
これって絶対…
絶対アレが階段降りてくるパターンだろ…
ギシ、ギシ……
奥の螺旋階段から、鈍い足音がひとつずつ響いてくる。
「ああ、来たよ……絶対来ちゃったよ……」
娘達は呑気にスターマインの余韻で「もう一回やってー!」と言っていた。




