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第十九話 前の家族には、申し訳ない

夕暮れも近づき、微妙な時間だったので、

俺たちは今夜は崖上《がけうえ》で過ごすことにした。

暗くなってから宿を探したりするには、

慣れてない街では治安なども不安だ。


明日の朝から入場することに決め、

メシの準備を始めた。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


ワイバーン(牛肉)を7分(2cm)幅に切る。

アルマジロ(玉ねぎ)、傘ネズミ(マッシュルーム)は薄切りにして、ミミズ(しめじ)は根元を切っ飛ばし、てきとうに分ける

フライパンに発酵魔石(バター)をぶち込み中火で熱し、玉ねぎがしんなりするまで炒める。牛肉、きのこも入れて炒める。

そこに、粉魔石(砂糖)、微粉末魔石(薄力粉)を入れ、ふわっと炒め、オークの血(赤ワイン)を垂らしてひと煮たちさせる。

濃縮魔石(コンソメ)、煮詰めた魔石(デミグラスソース)、ゴブリンも血(ケチャップ)も入れ弱火でしばらく煮込み、ケルベロスの魔石(塩こしょう)で美味しくする。

ボウルにコカトリスの卵を流し入れ、白濁魔石(牛乳)、究極魔石(マヨネーズ)をミチャチャと入れてグルグルこねる。

フライパンにゴブリンの汗(サラダ油)を入れて中火で熱し、混ぜた卵を半分くらい流し入れ、半熟に焼く。ついでに2つ作る。深めの皿に、お米、オムレツ、ソースの順に盛る。


「できたぞーふわっとオムハヤシライス特盛だぜ!」


湯気の向こうでトゥエラとテティスが目を丸くした。

森の中に、ほんのり焦げたバターの匂いと、ケチャップの酸味が漂う。


挿絵(By みてみん)


仲良し姉妹様に、特大サイズで提供されたふわっとオムハヤシ。

直径50cmはあろうかという深皿に、黄金色のオムレツがどーん!

その周囲をぐるりと取り囲むのは、煮詰まってとろみ増した濃厚デミハヤシ。

キノコも肉も、まるで宝石みたいに盛りつけられている。


「お…おっきい…です……!」

思わず鼻を赤らめ、口元を覆ったのはテティス。

「うおおぉぉぉっ!」

トゥエラは目を輝かせ、フォークを握ったまま震えている。

ふたりの目の前に置かれたそれは、もう“食べ物”というより“祝祭”。


テティスがそっとスプーンを差し入れ、端をすくって口に運ぶ。

「……んっ」

眉がきゅっと寄り、目がゆっくり細くなる。

「……ふわふわ、で……とろけ……っ」

ことばの途中で言葉が蒸発した。

トゥエラはというと、反対側からがっつりとほおばり、

「うっま!!」と叫んでそのままごろんと背中から倒れた。

空を仰いだ彼女の口元には、ケチャップがちょこんとついていた。


大喜びの娘達を見るのは、最高のツマミだ……。

そう呟いて、俺は焼酎(大五郎)をジョッキにドボドボ注ぎ、

氷も入れずにガブガブやった。

ほてった頬と、胸の奥がじんわり熱くなる。


「ああ、これこれ……これが一番うめぇんだよ」


空気が乾いているせいだろうか。

陽が落ちたばかりだというのに、

宇宙(そら)には、やけにくっきりと星が浮かんでいた。



なんの因果か、こんな世界に飛んできた俺だが――


こいつらが、こんなにも嬉しそうに、生きてくれるのなら。


……いや。

前の家族には、申し訳ない。


それでも。


俺は、今――

幸せだ。



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