第十七話 広東麺だっぺ
時は流れ、おっさんは幾許かの安息日を過ごした。
娘達は元気だ。
トゥエラは庭で、マチェットナイフを振るって薪割りに励んでいる。
うず高く積み上がった燃料の山を見上げて──
「……作りすぎだっぺ」
薪置き場も、そのうち建てねばならないらしい。
一方、テティスはというと──
なにやら泥団子遊びかと思いきや、モルタルをこねて固めたボールのようなものを何十個も並べ、ぶつぶつ呟いていた。
「なにしてんだ?」
尋ねてみると、「xtkりwlhl…」
わけのわからん呪文めいた言葉を唱えながら、ボールを差し出してきた。
「魔法を込めながら練ったら、コレとコレがとっても頑丈になったんだってさー」
背後から、トゥエラの通訳が飛んできた。
地球の科学と異世界の謎パワーが…混合するだと?
俺は差し出された野球ボールくらいのモルタルに玄能を打ちつけてみた。
カッキィィィィィィィィィィィィィン……!
「― ―なんだコリャ」
石を叩いた音じゃない。地平線の果てまで響くような…澄んだ…高い音色。
ィィィィィィィィィィ…
いつまでも消えない残響。
やばいなコレ
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岩石が部屋の中空を漂う。
フォークリフトかチェーンブロックかと思案していたのだが…
魔法で解決するようだ。
恥ずかしそうに鼻を隠しながら、テティスが片手を石に向け、プルプルと気張っている。
トゥエラにコッソリ聞いてみた所、魔法の使用中はずっと尿意の限界を感じるそうだ…
魔法使いって大変なんだな…
最初に平べったい板みたいなやつを床に敷く。
そこに柔らかめに練った、マルタル【魔導モルタル】を程よく盛り、スネ肉をゆっくりと降ろしてもらい配置する。
「このむにゅっとはみ出たとこは…」
ちょいちょいと目地コテを使い整える。
トゥエラが園芸用シャベルで次のマルタルを盛ってくれる。
「お次はモモ肉とバラ肉…」
真剣に作業しているのだが、なんかアホみたいだ。
ランプ肉とネック肉を空間を空けて積み、最後に要石となるサーロイン肉を…
石同士のパワーバランスが完璧に向き合いカチリと噛み合った。
この上にどんな重量物が乗ったとて、もう崩れることはないだろう。
仕上げのツノのついた石を置いたら、完成だ。
煙突を繋ぐ作業が残っているが、そろそろ腹も減るだろうし、
休憩にしよう。
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さてさてメシだが…
家の中はそうでもないが、ちょっと寒い気がするし体のあったまりそうなー
「広東麺だっぺ」
鍋に水を張り火にかけたら、魔石汁と魔石汁と魔石汁と魔石汁に、粉末魔石と海鮮の出汁、微細魔石を加えよく混ぜる。
圧縮魔石をいれたフライパンで生姜のみじん切りを、いい匂いになるまで炒める。
鬼肉 百足 触手怪物を適当にきって炒めたら、粉砕魔石を振って、白菜 青菜 椎茸 人参 タケノコを加えサッと炒める。
フライパンに作ったスープを加えダマにならないように手早く混ぜながらトロッとするまで煮る。
隣で茹でておいた麺を湯を切ってドンブリに入れスープと具を回しかければ完成!
トロみのある餡で蓋をされた、いつまでも冷めない灼熱のようなラーメン。
ドンブリのままでは危険なので、お椀によそってやる。
それでもアツアツの湯気が立ち込め、
子供達は必死にふぅふぅしながら麺を啜る。
うずらの卵的なものが見つからなかったのは残念だが、大抵の野菜や肉は森で調達出来るので、料理が捗る。
おっさんは娘達よりも小さい器で、食事というよりはツマミを楽しみ、紫蘇焼酎で流し込む。
急いで炎を灯さねばならないような寒さでもないので、今日の作業はここまでだ。
酒精の低い睡眠薬を嗜みながら、おっさんには多少の懸念があった。
このログハウスは高気密、高断熱仕様の建物だ。
暖炉で火を燃やすのはロマンだが、中毒の恐れがある。
積み上がった石を眺め思案していると…
「ゔぃrじぇんgぉsjr…
「おとーさん、この石生きてるってさ」
トゥエラが言った。
「バラバラになったんだぜ?死んでるだろ?」
冗談かと思い苦笑で返すが…
「cえうちtwlcうs…
「ほら見て、息してるって」
微かに…よーく観察せねばわからない程に…
岩石は躍動していた。
まさか…と思い、煙草に火をつけながら、オイルライターをモモ肉の上に置きジョッキで蓋をする。
常識で考えれば酸欠になり火が消えるはずだが…
炎はいつまで経っても灯され続けた。
「まじかよ…」
一酸化炭素中和し、酸素を吐き出している?
永久に空気を汚さない暖房器具の爆誕の瞬間であった。




