第十五話 特製軍艦:ウニく&魔塩クリーム
「ただいまー」
「おかえりなさい」
俺は帰ってきた。
娘たちに笑顔で迎えられ、頬が緩む。
持って帰った謎の果物類をテーブルに並べると、俺は迷わず酒へ走った。
数日間呑めなかった(いや、ちょっとは呑んだ)鬱憤を晴らすように、
ソファーにふんぞり返ってアルコールに浸る。
もしゃもしゃと果物をかじりながら、
困ったような顔で俺を見るふたり。
「なんか変わったことあったんか?」
そう聞くと、ふたりはそろって首を振り、
「なにもないの」とトゥエラが小さく答える。
まぁ、平穏無事ならいいさと胸を撫で下ろすと──
「ごはんなにもないのー!」
トゥエラの腹の虫が、グゥ〜っと主張していた。
なんということでしょう……
例のリフォーム番組のテーマが脳内に鳴り響く中、
ふらふらとキッチンへ向かってみると──
そこには、大きめの鍋が6つ。
すべて、ピカピカに空っぽ。
底まで舐めたようにすっからかんになって、床に無造作に転がっていた。
まるで、竜巻でも通ったかのような光景──
いや、きっと小さな暴食の怪獣が、ここを通ったのだろう。
まだまだ酒に呑まれたい気分ではあったが、あんな可愛い顔で頼まれたならば動くしかない。
おっさんは重たい腰を上げ、足取りは軽く準備を始める。
現地で血抜きし、皮を剥いで解体してきた
サーベルタイガーである。
心臓付近にあった純白の魔石は…
甘い塩だった。
なんというのだろう?うまく説明できないのだが…ひと舐めしただけで、あと何もいらんなと思える、旨みのある塩だった。
各部位をスライスし、酢をいれない旨塩シャリに乗せる。
とっておきは、ウニと肉の軍艦巻きだ
そして絵皿に飾った罪深きメニューは…
肩ロース《かた》炙り塩だれ寿司
筋の入り方は荒々しいが、繊維は意外と細やか。
皮下脂肪を薄く残して、表面をバーナーでサッと炙る。
脂がじゅわっと溶けた瞬間、例の「甘い魔石塩」でつくった塩だれを一刷毛。
シャリに乗せれば、香ばしさと塩の旨みで、まるで上等な焼きしゃぶの一口サイズ。
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モモ肉低温調理の握り
赤身が多く、淡い酸味を含んだ野性の香り。
火入れが重要なので、湯煎でじっくり58度で90分。
中はロゼ色、周囲はしっとり。
肉の表面を極薄に切り出し、たたいた山椒の葉とともにシャリへ。
脂に頼らない、赤身の強さが活きた一貫。
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サーロイン:とろ炙りにんにく醤油寿司
肉の王様。分厚い脂身と肉のサシが美しい。
ごく薄にスライスし、バーナーで表面だけ炙る。
仕上げに、にんにくを一晩漬け込んだ醤油を垂らし、香りを立たせる。
ジュワッとした脂とシャリが溶け合う“異世界の大トロ”。
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ヒレ:レアステーキ握り
超希少部位。繊維が極端に柔らかく、淡泊で上品な味。
岩塩と粗挽き黒胡椒を軽くまぶし、表面だけ強火で一気に焼いて旨味を閉じ込める。
スライスしてシャリに乗せ、仕上げは森で見つけた紫蘇の葉をひとひら。
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外バラ:甘辛煮の巻物
筋が多いが、煮込みで化ける。
醤油、みりん、酒、魔石塩で作ったタレに刻み生姜を加え、圧力鍋でホロホロに煮込む。
細かく刻み、甘辛のそぼろ状にして、塩シャリと巻き寿司に。
ほんのり炙って香ばしさUP。
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特製軍艦:ウニく&魔塩クリーム
背脂をクリーム状に攪拌し、魔石塩で味を調える。
濃厚な塩ミルクのような味わいをウニと重ねて軍艦に。
上から刻んだハーブと山わさびで香りを立たせる。
完全に高級店の一品。




