第十一話 暖炉完成してから出てこいよな…
やっぱり…少しづつ気温が下がっている。
気がする。
おっさんは作業ズボンの下にモモヒキを履いた。
娘達は元気に庭を駆け回っている。
簡素なピザ釜は外にあるが、これから冬が来ると仮定するならば、暖炉とオーブンは必要だろう。
腕の古臭い時計を見ると、日本は11月だそうだ。
「クリスマスチキンとか…」
IHのオーブンなら召喚できるのかもしれないが、どうせ暇なのでキッチンにレンガで作ってみる。
まぁあれだ、配管工がクリアしたときに入るやつ。
を小さくしたやつだ。
煙突は必須なのだが、甲羅の屋根に穴を空けるのは…
「外壁に出して上まで持ってけばいいべ。」
耐火レンガ積みは後回しにして、煙突用ステンレスパイプを家の中にグルグル配管してゆく。
自室とリビング、二階の娘達の部屋にも。
天井付近に配管されたパイプ。
これの意味は、暖房である。
暖炉やオーブンを使用した時の排熱が、家中を巡り、二階の外壁に空けた穴からでてゆく。
火を絶やさなければ、
家中ポカポカだ。
「暖炉…ねぇ。」
ぼんやり想像するが…
「レンガじゃふつーでつまんないかもな」
川や泉で石ころ集めでもするか…
樹海散歩に出かける。
「そういえば…かこまーるって…」
何度も叫んでいた亀を思い出して、
「あいつの名前とかだったのかなぁ?」
答えもない疑問を景色に投げかける。
そんな戯言は肌寒い風にかき消され、
誰も聞く者はいなかった。
もうこの樹海では迷子になることはあるまい。どこにいようが、少し木登りをすれば我が家の巨木は見つかる。
なのでいままで探索した記憶のない方向にあえてふらふら進んでみる。
巨木の上に住んでいると忘れがちだったが、
陽の光も届かない鬱蒼としたジャングル。
「こんな所に転生って、死ねってことだよなふつーに」
神様とやらが居るのかわからないが、空のあるであろう上を見て文句を言ってみる。
娘達はお留守番だ。
電子レンジの使い方も覚えたし、オカズもてきとうに作っておいたので数日はへいきであろう。
何百年も帰らなかったら、あの神殿みたいになっちゃうのだろうか…?
俺は五十路手前だし、頑張って生きても、せいぜいあと2〜30年の命だろう。
彼女らには寿命とかあるのだろうか…?
視界が悪すぎるところは草刈機で払ったりしながら進むが…
不意に飛び出してきた敷物になりそうな猛獣も斬ってしまった。
前方不注意による右直事故だ。
「暖炉完成してから出てこいよな…」
敷物を先にゲットしてしまった。




