第八話 段取り8割、現場2割ってなぁ…
手毬寿司は大好評だった。
赤飯の酢飯?
と訝しげに思われるかもしれないが…
これはアリである。
目を輝かせ手掴みで貪るように食べてたので、箸の使い方を教えてやった。
テティスは器用なのか、わりと早めに寿司を掴めるようになった。
トゥエラは…
箸に寿司を刺しまくり団子のように食っていた。
微笑ましい。
腹もくちくなり、あとは寝るだけ…というタイミングで、
テーブルにどどーんと、アイスクリームメーカーを召喚した。
以前、駅前の喫茶店d(ry… そのときの工事g(ry…
くるくると巻いたソフトクリームを、寝る前なので控えめに──少なめにして娘たちに配る。
数百年の人生で、初めて目にしたであろう不可思議な冷たい甘味に──
二人はまるで薬物中毒者のようなイった目で、ベロベロとソフトクリームを舐めていた。
……微笑ましい。
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明けない夜はない。
──だからなんだという話だ。
止まない雨もない。
「今日は晴れたな。」
簡単にTKGで朝食を済ませ、ログハウス造りを再開する。
「やっぱ味の素ちょっと振ると一味違うよなぁ」
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2階の外壁と梁、小屋組までを、頭の中で竣工させる。
「段取り8割、現場2割ってなぁ…」
どこぞのグラップラーのように、中国拳法家をやっつけ終わったイメージで、作業に掛かる。
「いやー屋根組、上手く行ったよ」
……などと、まだ2階の床の上でほざくおっさん。
夕刻には──中国拳法家は倒れ伏していた。
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「おとーさんそれじゃばきしらないひとはなにいってるのかちょっとわからないよ?」
トゥエラにマチェットナイフの背でつっつかれるおっさん。
「ふむ。」
棟木にまたがり、ニコチンを深く肺に取り込む。
2階の外壁組み上げ作業は、地上でやったのと大きくは変わらない。
回遊した場所が仮設足場の上だった、という違いくらいだ。
隅木 という部品がある。
これはピラミッドをを屋根に見立てて、あの角のライン、を支える為の骨組みだ。
四角い材料のうえがわを、屋根の傾斜に合わせ、三角に削ぎ割く
それが、頂点から建物の四隅まで降りてくる様に取り付ける。
もちろん、隅木が四本合わさる屋根の頂点の下には、柱が立てられている。
当初の図面では、
隅木は不要であった。
切妻屋根風に造るつもりだったからだ。
だが…
俺はもう見てしまった。
「いや…」
魅せられてしまった、だ。
玉虫色に厳かに艶めく…あの屋根材…もとい、「屋根じゃい。」を。
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時は遡る…
今朝俺は、居ても立っても居られなくなり、あの亀の甲羅の寸法を測りに行った。
方形の対角線、一片の長さは…10メートルぴったりだった。
顔を半分出した亀が、なんとも言えない表情で俺を見て来た。
「申し訳ない。と思う…俺の自己満足の為の建築で、お前の命を奪わなくてはならない。」
亀の目をまっすぐに見る。
俺の業は深い。地獄に堕ちるかもしれない。だが…
あの愛おしい娘達と幸せに暮らす為の家だ。
「わりいな。次は幸せに生まれてくれ…」
手足拘束のまま苦しめるのも可哀想に思い、
ひと思いに…と思い偲んでいると…
「カ…カカ…」
「カコマアァァァァァァァァァルウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
亀が喋った。
「変わった鳴き声なんだな、お前…」
早めに終わらせよう…せめて苦しませずに…と
工事現場の地面に敷く鉄板(分厚く大きい車両路などに敷き詰めるやつ)を首の上に召喚し、ギロチンのように…1発で逝ってくれ。
と思っていた時期が俺にもありました。
「ウゴケナイカコマーール」
「コレコワシテカコマール」
「ワレクッテモウマクナイカコォ…マーーール」
などと見苦しく甲羅を揺さぶりながら頭をピストンし…命乞いし始めやがった。
頭を出したり、縮めたり…
ズボボヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ…!
高速亀頭ピストンは、
娘達の教育上、絶対に見せられない。
「やっぱ殺すか?」
歯を噛み締めるが…
「カコマァァァルウゥゥ」
「ナンデモスルマァァァァル!」
「ナニガホシイカコマァァァルゥウ!!」
あまりにも哀れなので、
「俺はお前の甲羅が欲しいだけだ。つまり…お前を殺さねばならない。」
言葉には言葉で。
殺意には殺意で。
彼を見上げると…
「コォォォォォラアァァァァ!」
「ヤルカコマァァァァァル!」
「イラナママァァァァイルゥゥゥゥ!」
「いるのかいらんのか…どっちやねん。」
その後、亀と交渉し和解し解体した。
足元のコンクリートをだ。
奴は物凄い速さで、無様に…
わっさわっさわっさわっさと、おれんちのほうに、消えていった
道具を仕舞う。
カッターからピックから剥離剤までいろいろ使った。
職人というものは、壊す時のことなど考えていない(持論)
いかに壊れないように造るか、それしか考えていない(推論)
なので…いざ壊す時は…しんどいのだ。
「なんであの緊急事態で、ご丁寧にワイヤーメッシュとか入ってんだよ!!!」
ダダダダダダダダダダ……という鑿岩機のけたたましい騒音に紛れ、おっさんの叫びがかき消えていった。




