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悪夢①

 


 あたしは風の如くビュンッと走って、ノンストップで教室へ向かった。


 バンッ!! 教室のドアを勢いよく開けてると、クラスメイト達の視線が一気にあたしのほうへ向けられ、注目の的になるは必然だよね。


「ハァッハァッ……ははは、えっとぉ、ごめんなさ~い」


 今できる最大限の笑みを浮かべながら頭をペコペコと下げて、そんなあたしを見てクスクス笑ってる友人のもとへ向かう。


「貧乏人って走ってないと死ぬの? ウケるよね~」


 全力疾走してきたあたしを小馬鹿にしているのは、スタイル抜群のギャル……熊谷梨花(くまたにりんか)。あたしの親友です。


「おはよ~う。舞ちゃん」


 汗だくのあたしを教科書で仰いでくれているのは、ふわふわして可愛らしい女の子……小日向美玖(こひなたみく)。この子もあたしの親友。


 この2人は貧乏なあたしに対してなんの偏見もなく普通に接してくれるいい子達。梨花にも美玖にも本当に何かと支えられてる。とっても大切な親友だから、包み隠さず何でも話しちゃうわけで──。


「ねえ、梨花、美玖。また意味不明な人に絡まれたんだけど」

「はあ? マジぃ? 舞モテ期到来じゃ~ん。マジでウケる~」

「舞ちゃん美人さんだもんね~」


 いやいや、違うじゃん。そういうことじゃないじゃん! 意味分かんないじゃん。仮にモテ期だったとして、こんなモテ期だったらいらねーよ! 非モテ非リア上等だっての!


「モテ期でもなければ美人でもない! 茶化さずに聞いてってばマジで!」


 明らかに不審者な老人と、これまた明らかに不審者な若者にさ、立て続けに絡まれることって普通ある? 無いよね? あたしって不運すぎない!? 貧乏ってもれなく不運が付き物なの!? さすがにちょっと哀れじゃない?


「あれ。てかさ、拓人は?」

「え? 拓人? 知らない。毎日一緒に登下校してるわけでもないし」

「大概いっつも一緒じゃん」

「拓人君と舞ちゃんって付き合ってないのが本当に不思議だよね~」


 え、拓人とあたしが付き合う……? ははっ、なにそれ。いやいや、ナイナイありえない。あたしと拓人はただの幼なじみだし、そもそも幼なじみ通り越してただの家族(七瀬家の一員)になりかけてる男だよ?


「お、噂をすれば……」


 梨花の視線の先にいたのは……寝癖がつきまくの拓人だった。寝癖を直す暇がなかったほどの寝坊をカマしたのか、何かに慌てて急いで来たのか、それにしても素晴らしい寝癖だな。


「拓人君、今日は斬新な髪型にしてきたね~」


『すごぉい』とか言いながら控えめに拍手してる美玖。さらっとディスる能力が高めな美玖はあなどれない。そんな寝癖つきまくり拓人とあたしの目が合った。


「舞っ」


 あたしに何かを言いかけた拓人は、男子数人に絡まれて身動きが取れなくなっている。揉みクシャにされまくって、ようやくあたしのほうへ来た。


「悪い。今朝寝坊した」

「え? あ、うん。そっか」


 いや、なんの報告……? 別にいいんじゃない? 学校には間に合ってるんだし。『え? だから何?』みたいな顔をしながら拓人を見ていると、梨花も美玖も大きなため息を吐いた。


「苦労するね~、拓人」

「舞ちゃん鈍感だからぁ~」


 なんのことだかさっぱり分かんない。


「あー、えーっと、ごめん。置いてっちゃって」


 とりあえず謝るか……と思って謝ったら拓人がクスッと笑いながらあたしの頭をポンッと撫でた。


「なんで舞が謝るんっ……んごぉっ!?」


 拓人の背中に思いっきり飛び乗ったのは拓人の友達で、チラッとあたしを見て満面の笑みを浮かべてる。


「ねえ、七瀬ちゃーん。今日こいつ借りてもいいかな?」


 いや、なんであたしに聞くの? 許可制でも何でもないし、ご勝手にって感じなんだけど。


「どーぞどーぞ」


 ── そんなこんなで、あっという間に下校時間。


「じゃーな舞、気をつけて帰れよ」

「うん、じゃーね」


 ニコッと爽やかに微笑んで手を振り去っていく拓人。


「ねぇねぇ、梨花ちゃん、舞ちゃん。今日カラオケ行かない? わたしが奢るよ~」

「マジぃ? 行く行く~」

「あー、ごめん。あたし無理だ」


 ロウソク買いに行かなくちゃいけないし、ホームセンター遠いから尚更早く行かないと遅くなっちゃうし。


「そっかぁ、残念」

「んじゃ美玖、私と2人で行こーよ」

「せっかく誘ってくれたのにごめんね? 2人で楽しんできて!」


 そんな会話をしてる時だった。


「すみませ~ん。七瀬先輩っていますー?」


 そう聞こえて振り向くと、後輩の男子が教室のドア付近に立っていて、あたしと目が合った。関わりがある子じゃないし、あたしに何の用だろう。


「どうしたの?」

「七瀬先輩を呼んでくれって頼まれて」

「へぇ、そうなの? 誰に?」

「いや、分かんないっす。他校の制服でしたよ」


 ── なんだろう、ものすんっごく嫌な予感がする。


「えーっと、あたしを呼んでって頼んできたのってもしかして男だった?」

「ああ、そうっすね」

「わりと整った顔してた?」

「いや、わりとって言うか……くっそイケメンでしたよ」


 おそらく嫌な予感は的中しているだろう。


「あのさ、その男は今どこに?」

「正門っす」

「……ああ、ごめん。あたしはいなかったってことにしてくれない?」

「え?」

「お願いっ!! このとぉぉりっ!!」


 後輩君に縋って、あたしは必死にお願いをした。もちろん必死すぎて顔面は崩壊してるだろうけど、そんなことはもう気にしてならんない。なんて言ったって、あたしの命が懸かってるから!


「ちょ、ちょ、わっ、分かりました! 近いっす! 顔怖いっす!」


 あたしのあまりの必死さにかなり引き気味の後輩君は、そそくさと去っていった。さて、呑気にしてらんないわよ? 七瀬舞。一刻も早くこの学校から去らないと……そう、逃げるのよ! あの男からっ!


「梨花! 美玖! また明日、じゃーね!!」


 あたしはブンブン手を振りながら、何か言いたげだった梨花と美玖を置いて教室を後にした──。

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