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再来①

 


 ── 色々ありましたがわたくし七瀬舞は、なんとか無事に中学卒業を迎えることができました。


「舞ちゃん、クラスの皆で卒業のお祝い会やるって~。行こうよ~」

「あーごめん! あたしこれからバイト先に挨拶行かなきゃいけなくて」

「あ~、舞はもうバイト決まってるって言ってたもんね」

「原則4月以降からじゃなきゃバイトしちゃダメなんだけど、家庭の事情が事情だしって、特別に明日から働かせてもらえることになってさ!」

「ふふっ。嬉しそうだね、舞ちゃん」


 そりゃそうよ、美玖。ようやく自分でお金を稼げるんだから、嬉しいに決まってるじゃん!


「あ、これ、私と美玖の連絡先。スマホ買ったら連絡して~」

「ありがと~う」


 連絡先が書いてある付箋を受け取って、メモ帳に貼り付けた。


「んじゃ、またね!」

「「ばいば~い」」


 拓人にも声かけようかなって思って、チラッと拓人のほうへ視線を向けると、友達やら後輩やらに揉みくちゃにされていてあたしが話しかける隙もなそう。ま、拓人はいっか。さて、バイト先まで急ごう。


 今日は雲ひとつない青空で、少し肌寒い風が時々吹くけど日差しはポカポカしてて暖かい。とっても気分がいい。


 あたしの新たな人生がいよいよ始まるって思うと、ちょっと緊張してドキドキもするけど、それよりワクワクのほうが圧倒的に上回って、楽しみな気持ちのほうが遥かに大きい。


 本当は定時制にすら行かずに働きまくりたいんだけど、今のご時世を考えると高校は卒業しといたほうがいいって担任に説得されて……って感じなんだよね~。働きながら定時制に通って、せめて律達には最低限の普通な生活を送らせてあげたい。あの子達にはやりたいこと、行きたい学校、何一つ諦めてほしくないから。


「よぉぉしっ!! お姉ちゃん頑張るぞー!!」


 ── ・・・え?


「あ、あのっ! どういうこと……ですか?」


 気合いを入れて張り切りつつバイト先へ来たのはいいんだけど、なんでこうなった?


「え? だから七瀬さんもう働く必要もないでしょ~? よかったね!」


 はい? いやいや! どういうこと!? 働く必要しかないんですけど!


「ちょっ、店長!?」


 なぜか満面の笑みを浮かべ、テンション高めな店長があたしの背中をグイグイ押して、店内から外へ出されてしまった。


「じゃあね、七瀬さん! お幸せに~!」

「いやっ、ちょ、店長! てん……ちょ……う……」


 これは事実上の“クビ”……というやつでは? 働く前にクビになるってどういうこと? まだ何もしてないよ? あたし。そりゃこれから失敗やちょっとしたミスはするだろうなって感じではあったけど、まだ何も始まってもないのにクビになるって、本当にドウイウコト?


  これ、お母さん達にどう説明すればいいのよ……。


 口から魂が抜けかけながらも、鉛のように重くなった足を何とか動かして、まるでゾンビ化したような風貌で家へ向かった。


「はぁ、どうしよう。なんて言えばいいの……?」


 お母さん達にクビになったって説明をする時、どんなテンション感で言うか、なんて理由を述べるか、すんごく迷うんだけど。


『ハッハッハッ~。いやぁ、おったまげぇ! なぁんか知らないけどクビになっちったぁ~! めんごめんご~。ま、こういう時もあるよね~。ドンマイどんま~い! うへへっ』


 いや、違う。全っ然違う、これは違いすぎる。


 正直あたしだって急すぎてちんぷんかんぷんだし、クビになった理由もよく分かんないし、意味不明すぎる展開に混乱してんのよ。


『もう働く必要もないでしょ』『お幸せに』って、なんだ? バイトクビになったせいで早速不幸になってるんですけど?


「はぁーあ」


 海よりも何よりも深いため息を吐きながらいつ見ても、どこの角度から見てもボロボロな我が家が視界に入った。


 ヤバい、ただただ帰りたくない。うつ向きながらトボトボ歩いて家まで後少しって所まで来て仕方なく顔を上げた。


「……ん?」


 家の前に停まってる1台の高級車。それを見て立ち止まり、思考がピタリと停止する。だって、ものすんごく嫌な予感がするから。


『ヤバい、逃げろっ!』危険を察知した脳があたしに訴えてくる。脳というより、あたしの“本能”がそう訴えてくる。でも、不思議と体が動かない。なぜかは分からないけど、もう体が諦めてるって感じかな。あたしは、あいつから逃げられない。心の片隅でずっとそう思ってた。


 ガチャッと車のドアが開いて、後部座席から出てきたのは言うまでもなく──。


「よぉ、久しぶり」


 どーも、お久しぶり。できれば一生会いたくなかったけど、あたしの視線の先にいるのは紛れもなく“九条柊弥”だった。驚きもしなければ、嬉しくもないし、なんならタイミング悪すぎて最悪だし、何よりマジで会いたくなかった。


 無駄に長い脚でズケズケと偉そうに歩いて来る九条。で、相変わらずのイケメンだし無駄にいい匂いさせてやがる。完全に停止状態でただ突っ立っているあたしのもとへ不敵な笑みを浮かべながら寄ってきた九条。


「お前、俺になんか言うことあんだろ?」


 いえ、何もありません。


「言わなきゃなんないことあんでしょ~」


 いえ、微塵もありません。


「なぁにボケーッとしてんだよ。あ、久しぶりに会う俺があまりにもイケメンすぎて緊張してるとかぁ? ははっ、お前にも可愛いとこあんじゃ~ん」


 ははは、自惚れんなよ? クズめ。


「つーかさ、マジで言うことあんでしょ」


 ポケットに手を突っ込んで、あたしを見下すような目で眺めてる九条。その見下すような瞳が、あたしの神経を無性に逆撫でる。


「は? 別に言うことなんて無いですけど」

「あー、なるほど。そういう感じ?」

「なにが?」

「お前さ、誰に手ぇ上げたか分かってる?」


 ・・・もしかして、ビンタのこと!?


「いや、あれは、あれはそのっ」

「俺にビンタするとかマジでありえないっしょ」

「あ、あの、あれは本当にやりすぎたとはっ」

「おい七瀬、歯ぁ食いしばれよ」

「え、ちょっ……!?」


 真顔で手を振り上げた九条。『殴れる!』あたしは迷わずそう思った。目をギュッと強く瞑って、来るであろう衝撃に備えて身構える。



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