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交渉②

「……分かってる」 

「あ? なんか言ったぁ~?」


 おい、ふざけんな。絶対聞こえてるでしょ、聞こえてるのにとぼけた顔をしながら“聞こえません”アピールをしてくる九条。


「ちっ」


 思わず舌打ちをしてしまった。いや、むしろ舌打ちをせずにはいられないでしょ、こんなの。てか、舌打ちだけで済んでるのが奇跡っていうか褒めてほしいよね。


「お前くらいだよ? 俺に舌打ちする女」


 珍獣を見るかのような眼差しを向けられるあたし。そんな目で見ないでいただきたい。あんたのほうが遥かに珍獣ですよ。


「で、なんなの?」

「ん?」

「『ん?』じゃなくて! なんなの!? あたしに何を望むわけ? あんたは!」

「あーー……」


 あたしをジッと見つめて、口を閉ざした九条。そんな九条にものすんごく嫌な予感しかしない。


「な、なによ……」

「うーん。今じゃないかな」

「え?」

「タイミング」

「は? 何が?」

「だぁから、今じゃないってこと」


 いやいや、意味わかんないって。今じゃない? タイミング? なんじゃそりゃ。


「……じゃあ、言うこと聞くって話は無かったことにっ」

「なるわけないっしょ~? 時期が来たら迎えに行く」

「はい?」

「そういうことで」

「いや、は? ちょっと、マジで理解できないんですけど」

「ハハハ~」


 ・・・こいつ、説明する気が全くないな。まあ、いいや。このままあたしのことは忘れてくれ、もう関わりたくないし。


「あの、もういいですかね。あたし行きたい場所があるんで」

「乗せてってやるよ。どこに行きたいわけ?」

「結構です、もうここで降ろしください。無駄に関わりたくないんで」

「んだよ。つれないね~」


 そう言いながら、あたしの肩に腕を回そうとしてきた九条の手をベシッと払い除けた。マジで馴れ馴れしいのヤメろ。


「触らないで」


 あたしがそう言うと、少し驚いたような顔をしてる九条。ま、おそらく女にこんな扱いをされたことがないんだろうね。むしろ、“いくらでも触ってください! ”的な女のほうが圧倒的に多かったんだろうなって思う。だから、女に拒否られることに免疫がないパターン。とはいえ、可哀想だのなんだのなんて微塵も思わないから、あたしは容赦なく拒否るよ? そう、全力で!


 正直、あんたに触れられるのは“不快”のみの感情でしかないよ、あたしは。そんじょそこいらの女と一緒にしないでくれる? このあたしを! あんたに微塵も興味ないから!


「くくっ。なんだよ、俺のこと意識してんの?」


 ・・・は? いやいや、どんだけポジティブなんだよ。羨ましいわ、そのポジティブさが。


 で、ニヤニヤしながらあたしの顔を覗き込んでくる九条を冷めた顔で見つめるあたし。


「残念ながら""鬱陶しいな""としか思えませんけど」

「ははっ。んなこと言っちゃって~、照れんなよ~」


 なぜか満足げな九条に深いため息しか出てこない。


「この御方が降ろしてくれそうにないんで、ホームセンターへ行ってもらってもいいですか?」


 あたしは運転手さんに直接話しかけた。


「柊弥様、いかがいたしましょう」

「ホームセンター行ってやって~」

「承知いたしました。では七瀬様、ホームセンターまでお連れしますね」

「……ああ、はい。よろしくお願いします……」


 あぁなるほど……あくまで九条柊弥の指示にしか従わないってやつね。ま、それもそうか。ていうか、こんな男に忠誠を誓ったのかな? この人。すごーい、信じらんないわー。


「つーかさぁ、ホームセンターで何買うわけ~? あんな場所、女子中学生が行くかねえ? 普通」


 言いたくない。“ロウソク”を買いに行くだなんて、口が裂けても言いたくない。こいつは絶対、嘲笑うに決まってる。


「べっ、別に何だっていいでしょ」

「言えないような厭らしいもんでも買うの~?」

「はあっ? んなわけないでしょ!」

「なぁに必死になってんだよ~、ウケる~」


 だぁぁーーもうっ! このおちゃらけた感じが本当に腹が立つ! うっざい!


 相手にするだけイライラするから、喋らないほうが無難だと判断したあたしは最後に九条を睨み付けて顔を逸らした。特に代わり映えのしない街並みを車内から眺め、ただただ無心になる。


「なぁ、怒った~?」

「ねぇねぇ~」

「お~い、七瀬ちゃ~ん」

「無視とか酷くなぁい?」

「短気は損気だよ~?」


 ひたすらあたしに話しかけてくる九条。このおちゃらけた喋り方なんとかならないわけ!? 本当にイライラするんだけど! でも、ここで反応したらあたしの負け。九条の思う壺だ、それだけ避けたい! がんばれ七瀬舞、無視を決め込むのよ! 絶対に!


「へえ、ふーーん? そういう態度……ね」


 九条がそう言った次の瞬間。


「ひゃあんっ……!?」


 脇腹をツーッと優しくなぞられて、自分でもビックリするほど変な声が出た。慌てて手で口を押さえたけど、そんなの何の意味も成さないってことは、自分が一番よく分かっている。


 ああ、穴があったら入りたい、隠れたい。とにかく、とにかく何か言わなくちゃ。九条がなんか言ってくる前に何か言わないと! ヘラヘラ小馬鹿にしてくるに決まってる、それはうざすぎて無理!


「あっ、あんた……さ……」


 バッと勢いよく九条のほうへ向いたのはいいんだけど、九条があまりにも真剣な表情をしてあたしを見ていたから、言葉が喉につっかえて出てこなくなった。沈黙が流れて、ただ見つめ合うあたし達。


 そんな沈黙を破ったのは九条だった──。

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