不審者①
「気に入った」
「……へ?」
「おぬし、嫁に来い」
── は?
「いや、今の言い方は少々語弊があったかのぉ?」
「……あはっ、あはは……えっと、ははっ。あっあの、あたし急いでてっ」
「ワシの“孫”の嫁に来い」
── は?
いやいやだから……はぁあんっ!?
このおじいちゃんとの出会いが、あたしの人生をとびっきり大きく変えることになるとは、思ってもみなかった──。
「ふーん。お前がジジイの言ってた女?」
「……へ?」
「まぁまぁだな」
「……いや、なんなの? ていうかあんた誰?」
「うーん、中の上くらいか」
「……は?」
「もしくは上の下……か? まあ、言うほど不足はなさそうだな。ま、俺の女にしてやってもいいけど?」
── これがあたしとあいつとの、最悪な出会い。
あたし七瀬舞は、ごくごく普通の女子中学生(中3)。
顔も体型も可もなく不可もなく、つまりはとても平凡な女ってやつ。
良くも悪くも“ふつうの可愛らしい女の子らしさ”みたいなものは残念ながら持ち合わせておらず、彼氏いない歴=年齢というよくありがちなパターンを更新中。
まぁべつに焦りもなければ、彼氏が欲しいって願望? もない。日々の生活が大変で恋愛にかまけている時間がないのも事実。
それに、何度か告白されたこともあったけど常にちゃらんぽらんな男を間近で見ているせいか、男という生き物はもれなく全員ちゃらんぽらんなんじゃないかって、最近真剣にそう思いはじめている。
だからあまり彼氏が欲しいとは思えないのよねぇ……。
そもそも可愛く甘えるのとかあたしには無理難題すぎるし、ちょっと下心がみえみえな男子とかね……とくに苦手っていうのもある。
さて、皆さん。なんとなくお気づきでしょう。
あたしはピッチピチな女子中学生にも関わらず、すでに若干男嫌いになりつつある女だということを。
あ、ちなみに身近にいるちゃらんぽらんな男っていうのは、あたしのだらしないお父さんのことね?
べつにお父さんと仲が悪いとかいざこざがあって~とか、そういうややこしい問題があるわけではないのでご安心を。
ただ、お父さんみたいな男とは絶っっ対に付き合いたくもないし、絶っっ対に結婚もしたくないなーって純粋にそう思ってるだけ。
── 中3の夏
暑い中いつもどおりスーパーをハシゴしていた、もちろん徒歩で。ほんの少しでも安い物を求めてね。
この際だからはっきり言っちゃおうかな。
うちは““クソ貧乏””です!
今にも崩壊しそうなオンボロ借家に住んでいる。とはいえ、陰気くさい貧乏一家ってわけではないのよ。むしろ能天気……いや、明るい家庭かな?
めちゃくちゃ幸せ! というわけではないけど、べつに『あたしって不幸だな~』だなんて思ったこともないかなぁ。まぁ不遇だなとは思うけどね?
けどまぁ、底なしの明るさを持つ両親のおかげで、それなりに楽しい毎日を過ごせているし、意外とこれはこれで充実しているのでは……?
まぁでも、一言言わせてもらう。
““お金はあるに越したことはない””
そう断言する!
さてさて、そんなクソ貧乏一家であるうちの家族をささっと紹介しようかな? 微塵も興味ないかもしれないけど、ちゃんと知っててもらわないと後々困るかもしれないし? 今のうちに紹介しておいたほうが断然ラクだし……ってことで!
父、七瀬湊。死ぬほど売れない小説家で、夢を諦めきれず跑きに跑きまくっている。ちなみにルックスは悪くない、むしろビジュ良くて癪に障る。
そんな父は「ちょっくら創作意欲高めてくるわぁ」が口癖で、この言葉を盾に日々フラッと出かけている。
どこでなにを高めてきているのかは知らないけど、大抵缶ビールを片手にご帰還するのがお決まりだから、缶ビールを飲みながらほっつき歩いてるただのニートだと勝手に解釈している。
子供が4人もいるんだから諦めも肝心でしょ、働きなさいよ……とぶっちゃけ内心では思ってるけど、今のところ口に出したことはない……たぶん。
まぁこれで浮気なんてしていたら軽蔑どころか『頼むから死んでくれよ』とさえ思ってしまうかもしれない。
母、七瀬百々子。死ぬほど売れない小説家の嫁で、夢を諦めきれずヒモ状態になっている旦那を献身的に支え、パートを掛け持ち働きまくっている。
子供が4人もいるんだから、旦那に働くよう諭すのも嫁の役目では? ……と内心思ってはいるけど言わない。
がんばり屋というか根性があるというか、そんな母はとてもふわふわしていておっとりタイプ。あたしとはまったく真逆で癒し系の可愛らしい人。
「──い、舞? 次どこ行くの」
弟(長男)、七瀬律。ぶっきらぼうというか、感情の起伏が少なくて冷静沈着タイプ。来年中学生になる律はすでにあたしの身長を余裕で抜いていて、たまに彼氏だと勘違いされたりしてお互い迷惑してる。
「なぁ舞ちゃん、俺腹へったんだけど。もう帰ろうぜ~? どうせどこで買っても金が無ぇのには変わりねぇじゃんか、意味ねえって」
弟(次男)、七瀬慶。思ったことをさらっと悪気なく発言するタイプでとにかく生意気なクソガキ。小学4年生の慶はまぁまぁな問題児で、喧嘩をしては怪我をするなんてしょっちゅう。この血の気の多さは誰に似たのやら。
「まいおねえちゃん、ボクちょっとつかれたちゃった……おんぶしてくれる?」
弟(三男)、七瀬煌。うるうるした瞳で上目遣いをしてくるハチャメチャ可愛い末っ子。来年小学生になる煌は、男の子なのに女の子に間違われるほどキュートで、園児からも先生からも狂ったようにモテてている……末恐ろしい。
「律、次はあそこのスーパーね。あのね慶、1円を笑う者は1円に泣くの。少しでも安いところへ行くのよ、わかった? ほら煌、お姉ちゃんがおんぶしてあげるからおいで?」
とまぁ、我が家はこんな感じですね、はい。
── 中3の秋
「舞、高校はどうするつもりなの?」
慶が破壊した壁を障子紙で補修しているあたしに背後から話しかけてきたのはお母さん。
ちらりと振り向くと、お母さんはどことなく気まずそうな表情を浮かべている。まぁお母さんがそんな表情になる理由はただひとつよね。
「あぁうん、高校ね? まぁ行くなら定時制かなー? って思ってるよ。バリバリ働きたいしね~」
なんて話をしていると缶ビールを片手に上機嫌で帰ってきたお父さんがヘラヘラしながら近寄ってきた。
「お、その壁やったの慶かぁ~? いやぁまったくアイツは誰に似たんだかぁ」
なーんて笑いながらあたしの頭を撫でて仕事部屋に吸い込まれるように入っていくお父さん。
あたしは真顔で撫でられた頭をパッパッと払った。ちゃらんぽらんが移ると困るからね。あ、べつに毛嫌いしてるわけではないよ? 本当にちゃらんぽらんが移るのが怖いだけ。
ぶっちゃけあんなふうにはなりたくないでしょ。
俺様御曹司は逃がさない(俺逃が)
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