恋模様 2
「つー訳で、いっちょ、猫の先生の力を貸して欲しいのよ」
「お願いしますよ、俺らの仲でしょう、貸せよ」
「うわぁ、誠意が感じられない」
マルティエの店でテーブルを挟み、御用猫と向かい合うのは、青ドラゴン騎士の二人。
金髪の美青年、ウォルレンと、赤髪の好青年、ケインだ。
二人共に、今日は稽古帰りなのだという。
いつぞやの、剣術指南役選定騒動、その結果、青ドラゴン騎士は、定期的に田ノ上道場に足を運び、その指導を受ける、という事に相成った。
さしもの田ノ上老も、シャルロッテ王女直々の頼みは断り切れなかったとみえる。
弟子では無く、出稽古という形ならばと、田ノ上ヒョーエは妥協案を受け入れ、週に何度か、青ドラゴン騎士達に稽古を付けていた。
最初のうちは、かの「石火」のヒョーエに指導して貰えると、多くの騎士が集まったのだが、その殆どは、余りの苛烈な稽古に、心と身体を折られた。
身体の方は物理的に、だったが。
ともかく、大半の者は二度と田ノ上道場に足を運ぶ事なく。今では、二十名強の騎士が交代で、道場に顔を出す程度だったのだ。
しかし、当然ながら、残った騎士は、気宇壮大な若者ばかりで、田ノ上道場には随分と久しぶりに、活気というものが満ち満ちていた。
(なんだかんだ、この二人も残ってるんだよな……多少は、この国の騎士も見直すべきか)
ウォルレンとケインは、腕前だけならば、青ドラゴン騎士団でも上位に位置するだろう。
ケインは、のびのびとした素直な剣、ウォルレンは、単純に才能がある。二人共に、熱情を持って稽古に励めば、直ぐに御用猫よりも強くなれるだろう。
だろうが。
「本当、でも田ノ上のじいさまは勘弁だよなー」
「あり得ないよな、妖怪かなんかだろ、あれは」
「いや、しかし良く続いてんな、俺だったら初日、いや半日で逃げ出す自信あるね」
「それがなー、王女サマに釘刺されてっからなー、これ以上人数減らしたら減給なんよ」
「最近は、二人掛かりでリチャード君の稽古だぜ、良い先輩作戦よ、どうよ、最強だろ」
「うわ小賢しいわ、引くわ……おっと、ほら、リリィ、あーんして、あーん」
「んぁ」
甘辛く煮込んだ芋と豚肉の皿から、小さく切り分けた芋を摘んで、ひざの上のリリィアドーネに食べさせる。
「おいし」
そうか、良かったね、と、御用猫が頭を撫でると、彼女は、んふー、と、鼻息を漏らし、後頭部を擦り付けてくる。
「なぁ、センセ、さっきからずっと、突っ込みたかったんだけど、それ、なに? 」
「紹介しよう、リリィアドーネさんです」
「猫の先生、まじ半端ないな「串刺し王女」をそこまで調教するとか、すげーわ、尊敬だわ」
ウォルレンとケインが、海亀の産卵でも目にしたかの様に、感動の面持ちで御用猫を賞賛する。
先程、上手くリリィアドーネを丸め込んだ御用猫は、今までの分を返せとせがむ彼女を甘やかし、膝に乗せ、まるでチャムパグンや黒雀のように餌付けしてみた。
最初こそ恥ずかしがり、抵抗していたリリィアドーネであったが。何か楽しくなった御用猫は、事ある毎に彼女に触れ、甘い言葉を囁き、過剰な接待漬けにしたのだ。
ついに彼女の羞恥心が許容量を超えたのか、いつの間にか、幼児のような口調で彼に甘えるようになっていた。
「これはこれで可愛いだろ? そう思わない? 」
「センセ、現実見なよ」
「多分、目が覚めたら串刺しだぜ」
「ちょっと、よせよ、本気で怖いんだから」
「話は明日にすんべ、クロスルージュに七時でよろしく」
「生きてたらな! ワハハ」
がたんがたんと、席を立つ二人を見送り、御用猫は、この窮地から脱する方法を模索する。
未来は誰にも分からない、それは見えないのだから。
ならば、ならば自らの手で切り開いてみせる、と、御用猫は決意する。
すきーすきー、と、無邪気に笑うリリィアドーネの頭を撫で。
とりあえず酒を飲ませよう、と御用猫は思うのだった。




