↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御用猫  作者: 露瀬
97/150

恋模様 3

『かんぱーい』


 ごちり、とジョッキを打ち鳴らし、御用猫達は、泡立ちの悪いホップビールを一気に呷る。


 クロスルージュの酒場は、南町でも上位の大型店で、放蕩貴族や、金満商人御用達の店でもある。


 四階建ての石造り、それこそ城のようにも見える白亜の外壁は、色とりどりの魔力灯に照らされ「不夜城」とも呼ばれていた。一、二階が酒舗、三階と四階が客取り部屋になっている。


 別棟から現れる料理や娼婦は、どれも一級品で、高額な請求にさえ目を瞑れば、それこそ。


 夢のような、ひと時を過ごせるのだ。


 御用猫達は、常連や貴族用の二階席に通される。


 床の中央部が階段の、吹き抜け構造になっており、客席はそれぞれが少し離して設置してある。観葉植物で間仕切りがしてあり、内密な会話、というか、少しばかり恥ずかしい真似をしても、他の客に見られぬように配慮してあるのだ。


 料理の出揃った所に、燕尾服の支配人が現れた、確か、なかなかに気の利く男だったと、御用猫は記憶している。


「お久しぶりでございます、御用猫の先生、今宵は料理も酒も、特別に上物を取り揃えておりますので、ごゆるりとお楽しみ下さい、あぁ、もちろん、嬢も一級品でございますよ? 」


 やはり、遣り手であった。


 見た目に特徴のある御用猫とはいえ、名乗った記憶は無かったのだが。


「これで足りるか? こないだの金髪の娘を頼む」


 御用猫は、支配人に百万白金貨を一枚握らせる。


「えぇ、えぇ、勿論ですとも、最高の夜を保証しますよ」


 支配人の顔が、一気に綻んだ。


 目敏くも、その色を見とめたウォルレンとケインが、がたっ、と立ち上がる。


「俺も、適当におっぱいの大きい娘! 」


「俺はクレアちゃん! 」


「おい、アンナはどしたのさ」


 突如、がっくりと肩を落とすケインを、ばしばしと叩きながらウォルレンは笑う。


「センセ、こいつフラれたんよ、それがね」


 ぐふぅっ、と、ウォルレンは笑いを噛み殺す。


「ぶふっ、緊張して、くっ、役に立たなかったって、ぶははは」


「何それ可愛い」


「ふざけんな! あれは酒のせいだし! 今日は飲まねーし! 」


「もう飲んでるじゃねーか」


「なら飲んでんじゃねーよ」


 騒がしくなったテーブルからは、既に支配人は消えていた。


 まこと、確かな腕前である。



「……話は分かった、けど、そこから俺に頼み事ってのが、良く分からないな」


 御用猫達は、テーブルを囲むように据えられたソファに、それぞれが娼婦と腰掛け、依頼の打ち合わせを行っていた。


「まー、つまりですな、猫のセンセに、男を一人鍛えて欲しいと、そういう訳ですな」


 ウォルレンは、赤毛の女を撫でながら、ビールに口を付けた。


 赤毛の娼婦の方は、まるで乙女に還ったかのように、とろん、と瞳を潤ませ、ウォルレンの太股に手を載せて、しなだれ掛かっている。


(とりあえず、死ねばいいのに)


 ウォルレンの話では、彼ら二人の友人が、ここ、クロスルージュの娼婦に恋をしたというのだ。随分と入れ込んでいる様子で、足繁く通っては贈り物を渡し、愛を囁いたのだが。


「結婚するなら、強い男じゃ無いと駄目らしいんですわ」


 ケインの方は、何処となく強張り、美しい黒髪の女の顔も、まともに見られないようだった。


(口だけか、許す、強く生きろよ)


 御用猫は心のうちだけで応援すると、つるりと剥いた葡萄の身から種を取り出し、スプーンに載せて金髪の娼婦に差し出した。


「あの、ええと……いただきます? 」


 御用猫の膝の上で、居心地悪そうに肩を窄める女に、気にするなと言ってから、再度給餌を始める。


「なんか、猫のセンセは、特殊な嗜好があんよね」


「というか、最近この体勢じゃないと、何となく落ち着かない」


 ウォルレンは、くすくす笑うと、何やら思いついたのか、隣の蕩けた娼婦を膝の上に座らせた。


「おー、これはこれで良いかもな、ケインもやってみるべよ」


 突然に振られ、狼狽えるケインの膝に、向かい合うように黒髪の娼婦が座る、どうやら、乗りの良い女のようだ。首に手を回され、赤くなるケインを肴に、御用猫は、ウォルレンとジョッキを打ち合わせる。


「センセ、もう、あとは、明日でいいんじゃないかなぁ」


「奇遇だな、俺もそう思ってた、まじで」


 笑いながらビールを呷る二人を見て、御用猫の膝の上に座る金髪の娼婦、スイレンは思った。客の込み入った話に、嬢が口を挟むのはご法度であるが、話はきっちりと聞いて記憶するのが、良い娼婦というものだ。


 なので、スイレンは、最初から話を聴いていた。


 この店で働く同僚が、はしたなくも、客に身請けの条件を付けたというのだ。貧乏な農家に生まれ、家計の足しにと働く彼女には、信じられぬ話である。


 しかし、確かに、その女は変わっていた。


 そのような事も、有り得るかも知れない。


 恐らく、部屋に戻ったら、仕事の前にその辺りの事を聞かれるだろう。


 先日も相手をした、この傷顔の男は、恐ろしげな風貌の割に、どこか真面目な所があるのだ。自分から余計な事を話す訳にはいかないが、尋ねられたならば、隠すような事でもない。


 そうしよう、と、スイレンが決めたとき。


「よーし、スイレン君とやら、葡萄をあげよう、果物は美容に良いんだぞ」


「でたー、猫のセンセの餌付け芸だー」


 スプーンに載る、種まで処理された葡萄を、横合いから黒髪の娼婦が奪い取った。ペロリと指を舐めながら口にしたそれを、彼女はケインに口移しで食べさせる。


「あいたー」


「あいたー」


 狼狽えるのみで、何も気の利いた事の言えぬケインを見て、御用猫とウォルレンが額に手をやる。


 その騒がしい様子を見ていたスイレンは思ったのだ。



 この国の未来は、大丈夫なのだろうか、と。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。