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御用猫  作者: 露瀬
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相合傘 12

「しかし、マイヨハルトの坊主も、おかしな人選をしたもんだ」


 みつばちの酌を受けながら「電光」のアドルパスは、眉の付根を、冗談のように太い指で揉み解す。


「随分と昔の話なのでしょう? それに、お話を聞く限り、こと、が大きくならないよう、内々に治めたのは団長自身、かように言える事でも無いのでは、ありませんか? 」


 姿勢正しく、盃に口をつけるアルタソマイダスは、酒を嗜む姿さえ絵になるものだ。ただ、酒精自体にはあまり強く無いのか、先ほどから、舐めるように、ちびちび、と飲んでいる。


 御用猫は、痛む身体を強張らせながら、腹を膨らませて横たわる、エルフの頭を撫でている。普段ならば、卑しい、浅ましい、悪魔との合いの子、などと、心の中で嘲弄する御用猫だったが。今日ばかりは、多少なりとも感謝せねばなるまい。


 若い衆三人は、身動きする事もかなわず、仲良く寝室に転がされている。


 相部屋なのは問題か、とも思われたのだが、この客神悪鬼二人が泊まってゆく、と言うのだから、致し方無いのだ。


 あの有り様では、万が一にも、間違いを仕出かすこともあるまいし、逆にリチャードが襲われる事はあるかも知れないが、それはもう、狂犬に噛まれたと、諦めてもらう他にないのだ。


 上座では、クロスロードの生きる伝説二人が相手とあって、流石のみつばちも、何やら居心地が悪そうだ。ちらちら、と、こちらに向ける視線は、救難信号か、とも思えたが。


 とりあえず、みつばちが大人しくなるなら、それはそれで好都合か、と、御用猫は放置している。


「しかし、指南役どうこうは、置いておくとして、その二人、ちと、気になるのう」


 田ノ上老は、ロッドと黒江の関係に興味をもったようだ。


 基本、彼も暇なのだろう。


 御用猫にしてみれば、放置すれば良いものを、と思わなくもないが。


 二人共に、剣指南役としては不適格、と、マイヨハルトに報告するのならば、確かに、もう少し詳しく理由を述べる必要があるだろうか。


 そんな事を思いつつ、御用猫が盃を空けると、アルタソマイダスが徳利を持ち上げてみせた。


「いえ、自分は、手酌で構いませんので、どうぞお気遣いなく」


「なあに、それ、気持ちの悪い」


 くつくつ、と笑いながら、少しだけ身を寄せ「剣姫」が酒を注ぐ。


 おそらく、この光景をテンプル騎士が目にしたならば、間違いなく腰でも抜かすのだろうが。


 彼女、アルタソマイダスは平民の出であったが、剣さえ握らなければ、どこぞの姫君だと言われても、信じてしまいそうになる程の、優美な気品と器量を備えていた。


 今は、物腰柔らかくはあるのだが、彼女の視線をじっと、向けられるのは、少し、恐ろしい。


 御用猫は、思考の海へ逃避する事にした。


 ロッドが黒江の婚約者を殺害した理由は、彼女が、黒江を殺そうとしたから、だと言うのだ。結婚の約束までした女性に刺された、というのだから、黒江が何かをしたのだろうか。


 現場を目撃したロッドは、傷を負い、蹲る黒江に、短剣を振り上げる女性を見て、思わず手に掛けてしまったらしい。


 当時の二人は、切磋琢磨し合う好敵手であり、大の親友であり、そして。


 その女性を巡る三角関係であったとも、アドルパスから聞き及んでいる。


 歳は十も離れているが、可愛がっていた後輩の凶事、しかも、理由が理由だけに、腹を切らせるのは忍びない。


 アドルパスは、迷った挙句に、自らの就任直後に血は縁起が悪い、と、理由をつけ、彼方此方に根回しをして、二人を騎士団から放逐するにとどめた。多少なりとも悪評は流れたが、王宮内では、「電光」も人並みに保身を図るようだと、安心する者さえ居たのだ。


 権力に興味を持たぬが、影響力だけは莫大。


 権謀術数渦巻く伏魔殿には、そんなアドルパスを不気味に思う者たちは、思う以上に存在したのだ。


 言わば、アドルパス自身が泥を被ったようなものだったのだが、それについては、全く気にもならなかった。


 ただ、二人のその後について、アドルパスも、どこか気にはしていたのだろう。態々、激務の合間を縫ってやってきたのだろうから。


 たぶん。


 楽しげに酒を酌み交わす旧友二人を見ながら、御用猫は疑問符を頭に浮かべたが。


 そろそろ、日頃の鬱憤を、酒とともに吐き出しそうな顔付きに変わってきた、アルタソマイダスから身体を離しつつ。


 今夜は長くなりそうだ、と独りごちた。



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