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御用猫  作者: 露瀬
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相合傘 4

 夜の歓楽街へと誘う、ウォルレンとケインを見送り。


 後ろ髪引かれる想いで、リリィアドーネを、上町の、モンテルローザ侯爵邸に送り届けるべく、御用猫は、二人で歩いていた。


 これは、サクラが強硬に主張してきたものだったのだが。


 どうにも彼女の考えは分からない、普段は、リリィアドーネに近づくなと、事ある毎に言っているのに。


「ゴヨウさん、男女の逢瀬は、女性を家に送り届けるまで終わりません、常識ですよ、貴方も子供じゃ無いのですから、その辺りの配慮懇切というものを理解してくださいね、あと、送り猫などは以ての外ですから、分かりましたか、分かったなら、行きましょうリチャード、何ですかその顔は、今の話をちゃんと聞いていたんですか」


 リチャードのシャツを引きながら、やや足早に去って行く。


 貴族豪商の住まう上町の城壁内は、外に比べると、流石に静かなものだ。


 定期的に巡回する乗り合い馬車と、警ら騎士の他は、夜の町へ繰り出す使用人と思しき者達と、夜の逢瀬を楽しむ恋人達くらいであろうか。


 元々、この上町を囲う城壁は、クロスロードが都市国家であった頃の名残であった、中央戦国期と言われる、長きに渡る戦争により、周囲の小国を併合してゆくにつれ、都市クロスロードは、国家クロスロードの、その首都として肥大化し、人と物が溢れ、活気はあれど治安が悪化し、混沌都市とも呼ばれていた。


 しかし、戦後になり、戦で搔き集めた潤沢な資金にものを言わせ、大規模な区画整理と道路、上水の敷設、し尿廃棄物の処理の徹底と、強引な政策を押し広げ、クロスロードは、他に類を見ない大都市として、発展を遂げる。


 当時の国王、ラバニエールは、クロスロード中興の祖と呼ばれ、今も貴族学校の教科書に三大名君の一人として名を残していた。


「ん、もう、ここ迄で良いぞ」


 上町は、中央の城に近づくにつれ、森なのか公園なのか、誰か住んでいるのか疑わしい程に、閑散としていのたが、整備された街路施設と、手入れされた樹々が、ここに携わる人の多さと、莫大な維持管理費用を連想させた。


「そうだな、誰かに見られても面倒だし」


 御用猫の予想以上に、リリィアドーネの親戚は、家格が高そうだった。邸宅の門前まで二人で歩けば、どんな因縁を付けられるか。


(分かったものでは、ないだろうな)


 足を止めた御用猫に、リリィアドーネは、ふと、眉根を寄せたのだが。


「あ! ち、違う、違うぞ! そうではない、お前の考えているような事では無くな」


 両手を突き出し、慌てて否定を始める。


「その……今まで、こういった事は、送ってもらうとか、その、やはり……はずかしいのだ」


 両手の平を、腰の辺りでごしごし、と拭きながら、リリィアドーネは俯いて言い淀み、しばし沈黙した後、御用猫を見上げ。


 そっと、目を閉じ。


 る、前に、御用猫は彼女の頭を乱暴に撫でる。


「今日は、久しぶりに楽しかった、またな」


 リリィアドーネは、何か、頭の中でぐるぐる、と、感情が蠢いているような、混乱した様子だったのだが。


「うん、今日はありがとう、おやすみなさい」


 にっこり笑うと、お辞儀をしてから駆け出した。途中で何度か振り返っては、手を振りながら。


 彼女の姿が完全に見えなくなると、御用猫もそちらに背を向け。


「何ですか今のは、へたれですか、へたれ猫ですね」


 ぬるり、と現れた、みつばちに。


「痛い、いたい、酷い、ちょっと、本当に痛いですから」


 しがみつくように、腹を抱えたのだ。



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