相合傘 5
漸くに、復帰できたと言うみつばちと、連れ立って歩き、御用猫はマルティエの亭に戻る。
何時もの忍び装束では無く、落ち着いた濃いベージュ色のワンピースに、薄い上着を羽織っていた。普段着、という訳ではなく、市井に紛れる為の目立たぬ服装、というだけだろう。
いつもは団子に纏めてあるので、意外に白く、嫋やかなうなじが見えていたのだが、髪を下ろしているために隠れてしまっていた。
少しだけ、それを残念に思いながら、御用猫は訊ねる。
「それで、腹の傷は、もう平気なのか? 」
「いま、さっき、酷い事したばかりですよね?おかしくないですか、それとも、そんな加虐趣味なんですか」
相変わらず、感情のこもらぬ瞳と棒読みであったが、御用猫はなにか、懐かしささえ覚えた。
「社交辞令だ、気にすんな」
「もっと酷いですよね」
合鍵を使い、店の裏口から中に入る、まだ、皆は寝ていないだろうが、木製の階段を軋ませないように、注意しながら登ってゆく。
部屋の扉を開けると、御用猫の目に、彼のベッドで、腹を出して寝る、卑しい森エルフの姿が飛び込んできた。
はしたなく足をひらき、卑しく膨らんだ腹を、ぽりぽり、と、寝ながらにして掻いている。
御用猫は、何事も無かったかのように服を脱ぐと、適当に椅子の背もたれに放り投げた。
「とりあえず、調べ物を頼みたいんだ、明日話すから、起きたら飯食って、いのやに行くか」
「分かりました」
御用猫は、卑しいエルフをベッドの端に寄せると、そのまま横になる。卑しいエルフは、顔をしかめて一度唸ると、御用猫の剥き出しの肩に噛み付いてきた。
妊婦程に腹を膨らませていながら、まだ何か、食っている夢でも見ているのだろうか、あむあむ、と甘噛みを始める。
気持ち悪い熱と、べたべたと流れる唾液の不快感に、御用猫は起き上がり。卑しいエルフをシーツで包み、ベッドから降ろすと床に転がした。
もぞもぞと、しばらく芋虫のやうに這いずり回ると、芋エルフは、部屋の角で落ち着いたのか、寝息を立て始めた。
御用猫は溜め息を吐き、再び横になると、しゅるしゅる、と衣擦れの音を残し、今度は、みつばちがベッドに乗り込んできた。
「優しくしてくださいね」
「うわ面倒くさい」
下着姿で絡み付いてくるみつばちに、思わず、素で感想を述べる。
「何でですか、胸が小さいからですか、感度なら良いはずです、というか感じなくても喘ぐ練習してきましたから」
「演技する気満々じゃねーか、やめろよ、男にそういう事バラすんじゃねーよ」
大丈夫です、天井の染みを数える間に終わりますから、と暴れるみつばちを押さえ。
(こいつ、よもや、怪我したのも演技じゃないだろうな? )
と、御用猫が疑問に思ったのも、無理からぬことだろう。
みつばちは、ぴた、と動きを止めると。
「先生、約束は約束ですって言いましたよね?」
もちろん、と御用猫は返してから。
「約束は守るさ、だがな、それが履行されるのは何時なのか、を、決定する為には、両者の合議合意が必要なんだ、知ってたか」
「ずるい」
ちょっとだけ、ちょっとだけだからと、再び暴れるみつばちも、しばらくすると大人しくなり。
今宵は、添い寝するだけに終わったのだが。
御用猫には、彼女の顔が、それなりに幸せそうに見えた。




