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御用猫  作者: 露瀬
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相合傘 3

人は、経験を積み重ねて成長してゆく。


だが、人は、喉元過ぎれば、熱さを忘れてしまうものでもあるのだ。


過ちを繰り返すのも、また、人であると言えよう。



「なんだろうな、この、断りにくい雰囲気は」


「おいおい、可愛い彼女と後輩にも関わりのある話だぜ」


「断るなんざ、男がすたるぜ、先生」


「な! か、彼女といわれても、まだ正式に将来を誓いあった訳ではないのだ、猫にも都合があろうし、私にも、勤めがある、その様な噂を立てられても、その、はずかしい」


「待って下さい、リリアドネ様、その指輪は何ですか、先日までは、その様な、いえ、リリアドネ様が装身具を身に付けたところなど見た事がありません、まさか、いけません、それは甘い餌を与えて女を誑かす、ゴヨウさんのいつものやり口です、リチャードも少しは見習って下さい」


 がやがやと、喧しい団体にも、常連客から苦情はこない。今日は人数が多いな、とか、サクラちゃんが居るじゃないか、ついてるぜ、などと。酒の肴に盛り上がっている、ふし、もある。


 マルティエも、売れ残りの心配がなくなりそうだと、上機嫌で。


 顔を顰めるのは、御用猫ひとり、であった。


「ですが、少し、興味があります、僕は田ノ上先生に師事する事が叶い、幸せですが、他所の道場の稽古を見た事がありませんので」


 是非とも、同行したい、と、リチャード少年は目を輝かせるのだ。



 事の起こりは、半年以上、前に遡る。


 リリィアドーネの父が、トベラルロ キットサイに討たれた事により、青ドラゴン騎士団の剣技指南役に、空きがひとつ生まれたのだ。


 青ドラゴン騎士団の、マイヨハルト駐屯団団長は、それから、新たな指南役を探していたのだが。各騎士団の中で、それなりの地位を持つ者達の、席の奪い合いが始まり、刃傷沙汰に発展しかけたのだ。


 マイヨハルト子爵は「電光」のアドルパスを頼り、彼の進言により、今回は、騎士団内から、新たな指南役を選ばぬ。


 と、シャルロッテ王女から沙汰が下された。


 そこで、マイヨハルトが思い出したのが、かの「石火」のヒョーエが田ノ上道場であった。


 娘が、かの道場に、半ば住み込みで通いたい、と言い出した時は不安であったが。それからのサクラの成長ぶりは、目覚ましかった。


 多少、乱暴になったかとも思われたが、最近は何やら、また少し大人しくなった、というか、色気づいたような気もするのだ。


 妻に聞いても笑うばかりで、マイヨハルトは、別の不安を抱える事になってはいたのだが。


 ともかく、田ノ上ヒョーエには恩返しのつもりで、彼と面識のあるウォルレンとケインを向かわせたのだが、素気無く断られてしまった。


 結局、元テンプル騎士団員が、東町で開いた道場を、二つ選び出したものの、道場主は両名共に、剣力、人品、甲乙つけ難く。


 せめて、どちらを剣技指南役に据えるのか。


(意見を聞きたい)


 との事だったのだ。


 元テンプル騎士とはいえ、十年以上も前の話であり、騎士からの評判よりも、市井でのうわさ話の方が信憑性が高いであろう。


 また、「石火」のヒョーエであれば、人柄を見抜く目も確かなのではないか。


 マイヨハルトは、再び、ウォルレンとケインを送り込んだ。


「でもよー、田ノ上のじいさまはー猫に聞けーの、一点張りでよー」


「せんせ、頼んますよ、可愛い彼女の、お父様の仕事を継ぐ相手なんだし、一発、見極めてちょうだいよ」


 その後は、いっぱつ、しけ込んで良いから、と、見事な同調で二人が言うと。


 ウォルレンの向かいに座る、リリィアドーネが身を乗り出し、ケインの隣に座るサクラが裏拳で。


 全く同時に、二人の人中に、拳をめり込ませた。


 御用猫は、いつもの癖で、出汁で煮込んだ鳥のつくねを、隣に座るリチャードに食べさせていた。



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