死剣 人取り 23
「……お手柄だったな」
「役に、立つ女だと……言ったでしょう? 」
そうだな、と、御用猫は頷く。
最後の最後に、ガンタカの隠形が崩れたのは、みつばちの放った癇癪玉のおかげだった。
小指の爪ほどのそれを、親指で弾いたのだという。
志能便として、修行を積んだ、みつばちの指弾とはいえ、直接にガンタカを狙ったのなら、躱されたか、弾かれたかしたのだろうが。
足元を狙った、殺意無き技に、ガンタカは反応出来なかったのだ。
確かに、役に立った、他に表す言葉がないほどに。
御用猫は、両の手袋を外すと、横たわるみつばちの頭の下に敷き、少し冷い額から、髪の毛を剥がしてやる。
「馬鹿なやつですね……死体が動くのは、自分が、一番、知っていたでしょうに」
「少し休め、傷に障るぞ」
御用猫は、隣に腰を下ろし、みつばちの頭を撫でる。
「先生……お怪我……」
「良いから、少し寝ろ、俺のは擦り傷だ」
脇腹の傷は、肋骨で剣が滑ったおかげで、内臓に傷は付いていないだろう。
ガンタカには、既に、骨を断つ力は残されていなかったのだ。
軽傷では無いが、死にはしない。
「嫌です……約束が、ありますから」
まだ、眠りたくは、無いのだと。
「心配すんな、怪我が治ったら、聞いてやるよ」
「先生は、嘘つきです」
みつばちは、少し、辛そうに、目を閉じた。
「後悔は、一瞬だとか言って、嘘です……もっと、ずっと……色んな事」
御用猫は、震えるみつばちの手を強く握った。
温かい。
まだ、温かい。
「普通の、女の子みたいに、恋だの、愛だの、も、したいです」
「出来るさ」
弱々しくも、みつばちは、手を握り返し。
「……先生が、教えて、くれますか? 」
「それはやだ」
御用猫は、きっぱりと断った。
「何でですか、胸が無いからですか、さらしを取れば、多少はありますよ」
「血が止まってるからかな? 」
そもそも、腹を刺されて死にかけの人間が、これ程に喋る事が出来ようか。
「変り身の術です」
「変わってねーだろ、刺さってるし」
内臓の位置を、ずらして受けたのだと、みつばちは言う。
馬鹿げた話だと思ったが、腹の中に呪い札が埋めてある、と聞いた時は、流石の御用猫も、志能便の業の深さに、呆れる他はなかったのだ。
「でも、約束は約束ですからね」
「それは、聞いてやるって言っただろ? 」
意外な返事だったのか、みつばちは言葉を止めた。
いつものように、感情のこもらぬ瞳で見つめてくる。
いや、僅かに、こころの灯が見えるだろうか。
「……良いんですか? 」
「隙を作る為に、わざと刺されたんだろ? ……下手すれば、死んでたんだ……感謝こそすれ、文句がある筈ないだろう」
そうですか、と、みつばちは目を閉じた。
「先程、犬笛を吹きましたから、知能は低いですが、犬並みの聴力をもつ、黒雀が来るはずです、先生も、治療の呪いを、かけてもらってくださいね」
「わかったから、いい加減、休め、痛くない訳じゃ無いんだろ」
みつばちの頭を撫でながら、目と口を閉じていれば、可愛い奴なのかも知れないな、と考えた。
「先生が、優しいのは、珍しいですから」
勿体無いです、と、こちらも珍しく、歳相応の笑顔を見せる、みつばちに。
御用猫は、前言を撤回したのだった。
幽霊の、正体見たり、枯れ尾花
枯れ女、正体見たりは、後ろ帯
誰が決めたか裏表
明日のお天道、裏表
御用、御用の、御用猫




