覚醒! レアアイテム 三枚のアレ
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
以前、この裏世界に迷い込んだと噂される男がいた。
“仮性の方の男”と呼ばれるその男をゆうこママが元の世界に帰したという話そのものは本当だった。
しかし、真相はノリで助けたら結果的にそうなっただけの偶発的な事例なのだと知る。
“仮性の方の男”がどのようにして元の世界に帰って行ったのか、その方法を知りたかった常松は、たまたま偶然ノリで助けただけで、確かな術を持っていただけではないという真実を突きつけられてしまう。
テンションが下がりまくる常松だったが、『天然ポジティブシンキング』を発動。
――そうは言っても元の世界に帰還させたことは事実であり、ゆうこママ本人もその方法は薄々理解していることを仄めかしたことで、僅かだが希望の光を垣間見ることができた。
ゆうこママによれば、この裏世界と表の世界をつなぐルートは、決まった場所にあるわけではないという。
それは移動しているのか……何かのきっかけで出現するのか……解明はされておらず規則性があるかどうかも微妙なのだが、そこはシャーマンであるゆうこママの第六感が、おおよその出現場所を示してくれるはずだと勝手な期待を寄せるのであった。
そんな時、モヤモヤ感満載の常松に、ゆうこママからお褒めの言葉を大量投下される。
あまり他人から褒められたことがない悲しき中年にとっては、唐突なベタ褒めにやや動揺はするものの、素直に受け止めるのであった。
常松には凄い才能があり、それは最早レアスキルともとれるのだと褒めちぎられた常松に感動の波が押し寄せてしまう。
しかし、よく考えてみれば、この物語にそんな感動的なシーンは全く似合わず、誰も予想し得ない展開となってしまったのは、作者の無理矢理ないやらしさ(※注)が招いた結果であった。
※注:「このまま『お下劣シモネタ作家』という異名だけが残るのは悲しいので、たまには他の先生方のような感動シーンも無理矢理にでもねじ込みたい!」という浅はかな出来心。
読者の皆様からすれば、いきなり感動しろと言われても「お下劣シモネタ小説のくせに生意気だぞ!」と、の◯太のダチのスネ◯の名台詞のような罵声が飛び交うことは必至であった。
しかし、やっちまったものは仕方ない……。
ちょっとくらいは感動するような展開があっても文句は言われまい・・・と作者は思うのであった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
思いがけず、ゆうこママに褒めちぎられ、さらに“常松のことを気に入っている”と聞かされた常松は、この物語には似つかわしくない感動とほっこり感で心が満たされていた。
(俺の才能はレアスキル並みに凄いのかぁ。参ったなあ、俺ってそんなに人気者だったとはなぁ……もしかして愛の告白とかされちゃったりとかぁ、なんか艶っぽく迫られちゃうかも)
案の定、有頂天になりかけた常松にゆうこママが襲い掛かる。
「それはないわよ!!」
(やべっ! ママはなんでもお見通だったことを忘れていたよ)
「常松さんがこれ以上調子に乗る前に、大事な話を続けましょうね」
「なんか、すみません。調子こいちゃいましたー!」
「理解が早くて助かるわ。でね、例のお札の件なんだけど、まだ効力を付与させる必要があるんだけど、どうするの?」
「あっ、そういえば、まだ付与されていないのがありましたね。是非、お願いします!」
「でも、さっき私の愛の告白がどうのって調子こいたエロい妄想を抱いていたみたいだから、やめちゃおうかしら」
「ええーっ! そんな殺生なぁ。お願いしますよ、お代官さまーー! どうかお力をお授けくだされー!」
久しぶりに、水飲み百姓が憑依した常松はカウンターテーブルに頭を擦り付けて懇願する。
「まあ、あんまり褒められることに慣れていらっしゃらないようだから混乱したのね。仕方ないから今回は見逃してあげるわ」
「あざーーーっす!! ホントすみませんでした! 助かります」
ゆうこママは、カウンターテーブルに並べられた三枚の札を指差した。
「常松さん側から見て右のアレは、GAGAちゃんのタマタマな魂が込められた『封の力』が宿っているわ」
「例の桃尻じゃあなくて、桃が刻印されていたやつですよね。確か“鬼門封じのおふ”、あっ、アレとかって言ってましたが……」
「そうよ。これからGAGAちゃんの付与した鬼門封じの効力を私の霊紋の力を加えて上書きするわよ」
ゆうこママは、髭マスGAGAのアレ(※注)に左手をかざす。
ママの左手が青白い光を放ち、アレが輝き始める。すると、消えていた桃の刻印が再び浮かび上がった。
※注:“髭マスのアレ”とは、髭マスが効力を付与した桃の刻印がされたはずのお札のこと。なんか卑猥な響きに聞こえるが、シモシモ的な物体を指してはいません。
「さあ、これで、悪しき存在を一時的に封じることが出来るわ。常松さんが触れた相手の動きや力を短時間だけ封じることが出来るはずよ。但し、強敵には数秒しか効かないから注意してね」
「心強いです!」
表の世界ではあり得ないであろうママの御業を見て素直に驚いたが、余計なことを口走らぬよう短く返事をかます。
「そして、真ん中のアレは、さっき私が霊紋の力を与えたもの。ジャーマンスープレックスの話に邪魔されて効力の説明がまだだったわよね? まあ、常松さんが余計なことを言わなければ脱線しなかったんですけどねー」
「あっ、すみません。ホント、つまんないどうでもいい話を切り出してしまってごめんなさい! どうかご勘弁を!」
(いやいや、脱線したのはママの方だと思うんだけど・・しかし、ここは我慢だぞ常松。ママの機嫌を損ねないようにしなければ)
常松は焦らず下手に出る。
「まあ、いいのよ! 確かにあなたの誘いに乗った私のせいでもあるから・・・で、話を戻すと、真ん中のアレは“影渡りの力”が宿っているわ。使えば、一度だけ“影”の中に身体を忍ばせることが出来るの。つまり、影を渡って移動が可能になるのよ」
「すげえ、そんな効力があるとは! これなら次元パトロールから逃げる時に有効ですよね」
「そうよ、だけどこの力って、常松さんの日陰だらけの人生そのものって感じよね」
(ーーー!! おーーい! この人は平然と飛んでもないことを言うなあ、なんか哀しくなってきたぞ)
「あら、ごめんなさいね〜。ギャグのつもりだったんだけど、その表情だと・・・図星だったみたいね」
若干、涙目の常松は声を振り絞った。
「いいんですよ! 本当のことですからーーっ! でも、ちょっと哀しくなってしまいましたよ」
言いながらも、それまでの日陰者人生の日々が走馬灯のように脳裏を疾走する。
「ホント、冗談ですから気になさらいでねぇ〜」ママは謝罪の言葉とは裏腹に半笑いになっている。
(このママは別の意味で怖えなあ……でも、シャーマンというだけあって、あの霊紋の力はすげえんだよなあ)
「じゃあ、一番左のアレにも力を付与するわね。さっきのお詫びにいつもより多めに回し、ではなくて、力を振り絞るわね」何故か照れ笑いしながら、傘を開いてクルクル回す仕草のママ。
(・・・お正月じゃあないんだから)
真顔に戻ったゆうこママが、一番左のお札に左手をかざす。
先程の青白いとは違い、ゆうこママの左手が炎のような赤オレンジ色の光を帯びている。
赤オレンジの光がお札を包み込む。
常松は思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(おおおーっ、なんかわからんが、凄い霊的な何かがこの空間全体に充満しているような……)
「さあ、付与できたわ。これで三枚すべてに真の力が備わったわね」
左のお札を見ると、朱色の文字のようなものが浮かび上がっているのがわかる。
「この三枚目のやつは、今までと何か違う感じですけど、いったいどんな力があるんですか?」
ゆうこママは、赤オレンジ色に染まっていた左手でアレを掴み取って答える。
「“真眼”の効力が備わっているわ。使うと隠された真実を一時的に視ることが出来るのよ。偽装とか、幻惑の類も見破ることが出来る。だけどね、視すぎると精神に負担がかかるから使うときは短時間にしないと精神がもたないわよ」
「そんな凄い力が・・・俺にも使えるってことですよね?」
「うふふ・・・そのために私が霊紋の力を付与しているのよ」
「なんか、俺、いけるような気がしますよ! これで元の世界に戻れるかもしれない」
「ここにある三枚それぞれの効力の根源は、あくまでもユリコちゃんが想いを込めた力なのよ。私は、単にその力を凡人でも引き出せるようにしてあげただけなの」
「凡人でも……ですか?」
「平たく言えば、常松さんでも使えるようにした、ということですよ」
「凡人……って、ハッキリ言われると切ないなあ……まあ、どうせ長年、日陰の人生でしたからねえ」
「はいはい、そんなことで落ち込んでる場合じゃあないわよ。常松さん、あなたには試練が待っているんですからね。……しかも、この後すぐ!!」
「ええーーっ! そんな世界陸上でC Mに入る前のMCみたいなことを唐突に言われても……」
ゆうこママは身を前に乗り出すと、鋭い眼光を放って常松の顔をマジマジと見据える。
「いいですかぁ! これから、とーーっても大事な話をしますから、耳の穴をよーーくかっぽじって聞いてくださいね!」
ママの言葉が今まで以上に重たく、能天気な常松の心にも突き刺さった。
しかも、この場の空気は一変したように重たく感じられる。
(試練って、なんだよ……俺って既にいろんな試練を乗り越えてきたような気がするんだけど、まだあんなの以上にきっつい何かが降り掛かるというのかあ!?)
韓国ドラマでお馴染みの“都合の良い展開”のように、裏世界のレアアイテムを手にした常松に風雲急を告げる事態が待ち受ける。




