常松の才能
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
常松と同じように、以前この裏世界(異世界)に迷い込んだ二人の男がいた。
二人の男の詳しい詳細はわからなかったが、この二人を区別するために、一人の男は“真性の方の男”と呼び、もう片方を“仮性の方の男”と勝手に呼んでいた。
特に常松が気になっていたのは、後者の“仮性の方の男”が無事に元の世界に戻れたらしいという噂。
この話が真実なのかどうかを、なんでもお見通しのゆうこママに真偽の程を確かめる。
常松が“仮性の方の男”を“仮性の人”と発言してしまったことで、ゆうこママは、“仮性の人=火星人”だと一瞬思い込んだが、お下劣な常松の性質を見抜き、すぐに火星ではなく仮性出会って、仮性違いだと思い直すのだった。
こうして、お下劣極まりない男というレッテルを貼られた常松だったが、気を取り直して前向きに謎の解明に立ち向かうため、『仮性の方の男を元の世界に帰した噂』の真相をゆうこママに問いただす。
しかし、ママの口から出たのは「あれは結果的にそうなった」という言葉だった。
その言葉に困惑するものの、元の世界に無事に帰還するための謎を解き明かすための行動としては間違っていなかったということを薄っすらと理解しはじめていた。
この裏世界の謎、そして仮性の方の男の真相は、すぐ手前まで近づいている。
しかしながら“仮性の方の男”も“真性の方の男”にしても、どこの部分が仮性で、どの辺が真性なのか、そのことに言及する者は読者の方々も含めていない、というより、いて欲しくないと作者は願っている。
そして本当の謎に近づくには、仮りでも真でもなく、常松自身が問われることになることを常松はまだ知らなかった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「結果的、ですか?」常松の脳裏にハテナマークが浮かび上がる。
「あの時は、私もまだ、あちらの世界、つまり常松さんの世界のことや、そしてあちらとこちらの世界が表裏一体になっていることも理解できていなかったから・・・もちろん、この辺りを我がもの顔で彷徨いている次元パトロールのことも実はよく知らなかったのよ」
「よく知らずに助けてあげたということですか?」
「助けたというか、ノリでやったら・・・ってのが正しいかもしれないわね。彼の話をほとんど信じていなかったけど、面白い冗談だと思っていたから、こっちも冗談話に付きあってあげたというのが本当のところなのよ」
「ノリで、ですか。あの、もしかして俺の話も・・・」
「大丈夫ですよ! 今の私はあの時とは違うのよ!」
「では、ノリではなくて、しっかりと俺を助けてくれるんですよね!」
「だから、こうしてアレに効力を付与してあげているでしょう。ただ、助けるも何も常松さん自身がしっかりしてくれないとどうにもならないから、少しは真面目に考えてくださいね」
(『少しは真面目に』って、やっぱりお下劣な男だと思われて、いい加減な奴みたいに思われているのかなぁ・・・)
「それから、さっきの質問だけど・・・」
「あっ、はい! 何か思い出しましたか!?」
いい加減に見える常松は、待ってましたと即反応した。
「出口のことだけど、私らからすれば“入口”になるのよね」
「ええ、確かにそういうことになりますよね」
「だけど、そもそも出口とか入口とかっていう概念が無いのよ。無いというのも少し違うのよね〜、その概念が通用しないっていう表現が正しいのかもしれないわね」
「概念が? 通用しない・・・というのは??」
小難しい話が常松の思考回路をショート寸前に追い込んだ。思考の許容範囲をはるかに超える衝撃波が襲う。
そして自分では気がつかないが、かなりの阿呆面になっている。
「やっぱり常松さんには難しい話よね。最も普段からシモの話ばかりしているみたいだから、まあ仕方ないわよね。私が言うことではないんだけど、エッチなことばっかり考えていてはダメよぉ、本物のバカになっちゃうわよ」
ゆうこママは盛りのついた中学生の母親のようなセリフを口にする。
日頃からシモシモのことしか考えていないという誤解が常松のメンタルを直撃した。
(完全にただのドスケベ野郎だと思われているじゃあないかぁー!)
「それは誤解ですよー! 確かに出口と入口の概念とかなんとかの話は難しすぎて、少し理解に苦しみますが、エッチなシモシモのことばかり考えてるわけではないんですよ!」
「まあまあ、そんなに取り乱さなくてもよろしくてよ・・・わかるわよ、男ですものねえ・・・はぁ〜ぁ」
(全然、わかっていないじゃあねえかー! っていうか、ため息吐いちゃってるし、なんで愛想を尽かしたみたいな空気感になっちゃってるわけー!)
「あのー、真面目な話、本当に俺はそんなにエッチなことばかり考えていることはないですから、信じてくださいよー!」
常松はすっかり、ゆうこママのペースにはまって自分を見失う一歩手前。
スケベの濡れ衣を着せられたにも関わらず、言い訳を通り越して弱腰感満載でママに懇願する始末。
「はいはい、わかったから、話を戻しますね」
(はいはいって・・・なんか嫌な感じだなあ)
「とにかく、以前、私があちらの世界から迷い込んだ人を結果的に助けたのは事実だから、まだ希望はあると思うわ」
「でも、元の世界に戻る方法というか、こちらの世界から出る場所って言うのかな、それはママでもわからないということですよね?」
「どうやら、表と裏の世界をつなげるルートというか、扉というか、その場所は決まった場所にある訳ではないのよ。それが移動しているのか? 何かのきっかけで出現するのか? よくわからないの」
「だからなんですね。“仮性の方の男”が無事に元の世界に帰還できたのが結果的というのは偶然に過ぎない・・・そういうことだったんですね」
希望の光がどんどんと小さくなっていく。
「でもね、100%の確証はないけど、なんとなく出現する場所はわかると思うのよ」
「えっ! 本当ですか!!」
「だって私、失敗しない・・・ではなくて、なんでもお見通しなので!」
(おいおい、どこぞの女外科医かと思ったよ・・・でもなんか心強いな)
「ママ、その場所について教えてください!! もちろん、確証はなくてもいいっす! 俺はママを信じますから!」
常松がそう言い放った後、店内にしばしの沈黙が訪れた。
「常松さん、あなたって凄いわね」ゆうこママが沈黙を破った。
「はぁ、俺がですか? 特にそんな凄いものは持ってないような」
「い〜え、異能と言っても過言ではない立派な才能を持っているわよ」
「そんな才能だなんて・・・恥ずかしながら、あまり他人様に褒められたことがないもので、自分ではわからないというか」
「ご自分でわからないのも無理ないわね。常松さんの凄さは、あなた自身がそれをわかって使っているわけじゃあないから・・・でも、誰でもが持てる能力ではないのよ」
「そんな特殊な能力を・・・俺が・・・ですか・・・」
足りない頭をフル回転させて考えてみる。しかし、答えは見つからない。
「うふふ・・・、そんなところが常松さんの凄いところなのよ!」
「俺、褒められるのは慣れてなくてですね。どっちかっつうと、常にシモシモもしもし、こんばんは! 的な下品な男ですから」
「それは否定しないわ!」
(マジかっ! えらく高いところから落とされてるぞ、俺!)
「もう慣れたから動じませんよおー!」
「冗談よ。ちょっと言い過ぎたみたいだから、お詫びに常松さんの凄いところを教えてあげるわね」
「いやあ、俺にそんな凄いところあったかなぁ・・・ホントお手柔らかにお願いしますよぉ」
(どうせ、また四次元殺法のような口撃がくるんだろうなあ、ここはグッと我慢だぞ)
ゆうこママは優しげな表情で口を開く。
「それはね、“人に好かれる”という才能よ。どんな条件下でも、あなたと接した人間はあなたを嫌うことはないはずよ。これはもう異常なレベルの才能、特殊スキルだわ」
意外にも常松の本質をしっかりと見抜いている。
「いやあ、そんなことはないですよぉ」
(なんか、妙だな・・・何故、俺は褒められているんだろう)
「よく考えてみて! こっちの世界で常松さんが出会った人たちのことを。私もそのメンツは知っているけど、みんなクセが強い人間ばかり。ユリコちゃんにしても、GAGAちゃんにしてもアクが強いのよ」
「確かに、その通りですよね。アクが強過ぎるくらいですけど」
「だけどね、そんな彼女たちは、真剣に常松さんのことを考えて、初めて会ったばかりのあなたの力になってくれたのよ・・・何故だかわかるかしら?」
常松は、そう問われて、二人とのやり取りを回想する。
(ユリコママには大切なアドバイスをもらって、しかも頼りになるアイテムまでもらったんだよな。そのユリコママが推薦してくれたアイアンヘッドの髭マスは、度肝を抜かれるようなことばかりだったけど、今にして思えば、この世界で気をつけないといけないことをたくさん教えてくれたんだよな。そして、次元パトロールに見つかる寸前のところで俺を逃してくれたんだった。二人には本当に感謝しなきゃいけないんだよなぁ)
「何故なのかはわからないんですが、ママの言う通り、二人とも本当に親身に俺のことを気遣って、そして助けてくれました。よく考えたら、俺はパニクって逃げてるだけで、あの二人に感謝すら出来ず、御礼もしていないんですよね」
「あなた、自分では全く気付いていないようだけど・・・常松さんには“人に好かれる”という特殊な力があるってことよ。魅了的な者ではなくて、一言では説明できないような不思議な力なの。しかも、その力はハンパないんですよ! “誰にでも好かれる”というのは、最早、レアスキルなのよ」
「えっ?・・・俺ごときが・・・ですか? なんか照れちゃいますよ・・・」
唐突に誉められた常松は、少し困惑するが、ゆうこママは真顔のまま。
いつもの持ち上げられて落とされるような雰囲気は全くなかった。
「謙遜しなくてもいいのよ。あっ、言い忘れていたけど・・・」
「んっ!? なんでしょうか・・・」
(ヤバい! また急激に落とされるぞ、全ての気を丹田に集中させて踏ん張るんだあ、俺!!)
「もちろん、私も常松さんのことを気に入っているのよ!」
ゆうこママは、そう付け足して、屈託の無い満面の笑みを浮かべた。




