火星人なわけでは・・・
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
カール・ゴッチ直伝のジャーマン・スープレックスを妄想させられた常松。
そんな妄想を抱きつつも、シャーマンの血筋だと自称するゆうこママの奇蹟を目撃する。
その奇蹟はお札に効力を与える技であった。ようやく裏世界(異世界)らしさのあるエピソードとなったことでホッと胸を撫で下ろす常松と作者。
しかし、常松のポンコツ思考回路は同時に、オールバック&サングラスのオッサンが繰り出す超魔術『キテます』を脳内に呼び起こしてしまう。
脳裏に浮かぶキテますオヤジの残像が、せっかくのシリアス感を消し去る中、なんでもお見通しのゆうこママは、三枚の内、一枚のお札が裏世界的な効力を発揮出来るようになったと告げた。
残りのお札の内、どちらかは髭マスによって桃じ・・り、ではなく桃の刻印を宿し、“鬼門封じの札”に進化を遂げたはずなのだが・・・。
それを知ってか、知らずか、ゆうこママは残り二枚にも効力を付与する勢いでお札を睨む。
その効力とはいったいどのようなものなのか、それはこれから明らかになる。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
シャーマン・ママゆうこの不思議な力によって、お札が眠っていた真の力を発揮出来るようになった。
酒を飲んでいるとはいえ、脳みそはしっかりしている常松は、目の前で起きた奇跡によって、さまざまな想いを呼び起こした。
それは、ハッキリ言ってどうでもいい過去の記憶であった。
どうでもいいことを思考してしまうのは、常松の得意技だが、そんな中、ひとつだけ重要なことを思っていた。
「あの、ちょっとよろしいですか」
「何かしら?」
「色々とつまらないことを考えてしまいましたが、ひとつだけ確認したいんですが・・・」
「何かしら?」
「髭のマスターの熱いアイツのことなんですが、マスターのアイツによってですね、えーと、このお札に何かしらの刻印を施してもらったはずなんですが、それはどうなってるのかな〜、なんて思いまして」
(アレとかアイツとか、喋っている俺の方が混乱しそうになるぞ)
「大丈夫よ。全部見えてるから。GAGAちゃんの桃の刻印でしょう・・・そこのアレにしっかりと刻まれているわよ。まるで、私の形の良いお尻のように見事に刻まれているわね」
(えっ! 『私の尻』だとお・・・)
ゆうこママの言葉に思わず反応してしまったが、これも性というやつであろうか・・・。
(髭マスも自分の尻のようだと言っていたじゃないか、いったいどっちの尻に似ているというのだ)
などと心の内で思う常松の場合は、性ではなくて、ただのバカの反応であった。
「それで、その桃の刻印はどうなのかってことを知りたいのかしら」
「ええ、先程見せてもらった不思議なスキルは、マスターが刻印したアレにも行使するんですか?」
ゆうこママは、桃の刻印の札を手に取って、透かすようにして見つめた。
「鬼門封じよね。素晴らしい効力が備わっているわよ。やるじゃないの、GAGAちゃん」
「そんなに凄いんですか!」思わず歓喜の声をあげた。
「GAGAちゃんって、お尻の形は私には全く及ばないけど、アレにこんな力を付与するなんて、たいしたものだわ。桃は、古くから魔物や邪気を払う果実と言われているのよ。だからこの刻印は、いざっていう時に降り掛かる災いを少しの間封じてくれるわ」
「じゃあ、ピンチの時に使ったら有効ということですね」
「でもね、ここにあるお札は三枚とも一回使ったら効力は無くなるから、よく考えて使わないとね」
「そうなんですね、使いどころをよく考えないといけないのかあ。でも、このお札があれば、次元パトロールから逃げ切れる確率も上がるってことですよね!」
「そうね、常松さんには、無事にあちらの世界に戻ってもらわないといけないから」
「感激です! 俺なんかのためにそこまで考えてくれるなんて! さすがは、形の良いお尻を持つママですよね」
「ちょっとぉ・・・私のお尻のことを想像しないでちょーだい。セクハラで訴えるわよ」ゆうこママの表情が強張る。
「えっ! あっ、調子に乗ってしまってすみません! どうか気を悪くしないで下さーーい! 深い意味はなくて、ですね、ママを褒め称えるつもりで、ついペロッと口に出してしまいましたーー! 軽率でしたー、申し訳ないっす!!」
「冗談よ〜、そんなに気合い入れて謝らなくても大丈夫ですよ」
(冗談なのかよ・・・ママの冗談は心臓に悪いんだよな。だけど発言には気をつけないとだよな)
改めて、自らを戒めるが、能天気な性格というか性質はそう簡単に治らない。
「私までつられてお尻の話なんかしちゃったけどぉ、そういうシモの話に付き合うのはこのくらいにしとくわよ」
(いやいや、俺じゃあないだろう。ママが勝手にお尻の話を切り出したんじゃないのかよ!)
「アハハハ・・・、そうですよね」
心とは裏腹にそう言って、頭を掻く仕草をした。
「話を戻しますわね。お札は三枚しかないから、この先ピンチに陥った時、もう駄目かもって思った時にお札を額に擦り付けて願いを念じるのよ」
「よく肝に銘じます! ところで、もう一つ、お聞きしたいんですが、この世界の出口がどこにあるのかママはご存知なんですか?」
「あら、一気に核心に迫ってきたわね」
「確かママは、以前、俺と同じ世界から迷い込んだ仮性の方の人(※注1)を無事に元の世界に帰したって聞いたんですが・・・」
※注1:この世界に迷い込んだ二人の男を区別するために、髭マスがつけた渾名。元の世界に帰れた方が“仮性の方の男”。次元パトロールに捕まった男が“真性の方の男”と呼ばれている。
「えっ、何ですか? か・せ・い?? 火星人を帰したんですかぁ、私が?」
(しまった! “仮性の男”って呼び方は、髭マスがつけた渾名だったよ。ママが知っているはずないんだった〜、しかもお下品過ぎてまた叱られてしまうぞ!)
「あっ、すみません! 火星人ではないんですけど、仮性の方の、なんて言われても誰のことなのか分かりませんよねぇ」
「火星人がどうしたんですか? 私に何か関係があるのかしら」
「いやっ、違うんですよ」何が違うのか不明だが、ついつい言い訳の枕詞を発してしまう。
「違うって、どういうこと?」
「誤解のないように言っておきますね。以前、この世界に迷い込んだ男が二人いたと聞いてですね、それで二人を区別するために呼び名を決めた・・・あっ、決めたというか、髭のマスターが勝手に名付けたんですけど」
「その渾名が、火星人ってことかしら?」
「まあ、そういうことになります・・・です」
(ここは、もう“火星人”で通すしかないぞ、俺!)
「ふ〜ん・・・あっ、そうなんだぁ〜、無事に帰った男の方を、火星人って呼ぶわけね〜、ふ〜ん」
(なんか全く納得していないような口ぶりになっちゃってるぞ、もしかして、これもお見通しってことなのかあ)
ヒヤヒヤを通り越して、再び額に汗が迸る。さらに目が泳ぎまくっているのだが、常松本人はそれに気づいていない。
恐る恐るママを見遣ると、呆れ顔ってこういう顔だよなと誰もがわかる表情になっている。
(やっぱり、お見通しなんだ。すでにお下品なのがバレてるぞって顔になってるよ・・・)
「はいはい、それで、その“仮性の方”を私が帰してあげたと・・・」
なんでもお見通しのママの言葉は氷の刃となって突き刺さる。
「・・・あっ、はい・・・火星人、いや仮性の方の火星人が・・・元の世界に帰れたって聞きました」
やっちまったぞという動揺が言葉に震えを与えてしまう。
しかし、ゆうこママの口撃は続く。
「ところで、もう一人の方の火星人を何と呼んだらいいのかしらあ? まさか、真せ・・・」
「すみません! もう勘弁してください! お下品な奴だと思われたくなくて、もうこの際、火星人ということにしようかと思ってしまいましたあー!」
ゆうこママの言葉を遮って常松が謝罪をぶちかました。
「うふふ・・・、わかっているから良いのよ。常松さんって、ほ〜んとお下品でいらっしゃることは、とっくにお見通しだから・・・ネ!」
(おーーーい! 『ネ!』じゃねえだろー! もう完璧にお下劣極まりない男のレッテルを貼られてるじゃあないかあ! 謝った甲斐がないじゃないかあー)
「ママ、勘弁してくださいよぉ、まあ、確かにシモシモなネーミングで呼んでいたことは認めますが・・・」
「だから、良いのよって言っているでしょう。せっかく付けた呼び名なんだから、私もその呼び名を使わせてもらうわよ。それで問題ないでしょ!」そう言って、何故かウインクをかっ飛ばすゆうこママ。
「なんか、モヤモヤが残るんですが、そうしていただけると、その、助かります。すみません」
「だから、謝る必要はないのよ・・・それよりも、その仮性ほう、じゃなかった、その男を私が元の世界に帰したって話だけど・・・」
「そうでした。その話が知りたいんですよ! つまりママは、あっちの世界の入口を知っているということですよね?」
「ああ、あれはねえ、結果的にそうなったのよ・・・」
「えっ!? 結果的にというのは、どういうことでしょうか?」
(結果的にそうなったってことは、元々はそういうつもりではなかったってことなのか? それとも何も考えずに偶然そうなったってことなのか!?)
ゆうこママがテンション低めの声で発した言葉の意味は?
そして、もう一人の男の呼び名をママは口にするのだろうか!?




