やっちまったなあ〜
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
ゆうこママが所望する“熱いアイツ”をようやく思い出したと思いきや、それが間違いだったことで、常松の焦りはピークを迎えた。
5000万円の鞄を証拠品として披露してえらいことになった元都知事よろしく額から冷や汗が噴き出す常松。
勘違いも甚だしい常松のせいで、ゆうこママの呆れ顔は、最早元々そういう顔だったのではないかというほど真顔に戻らない状況になっていた。
そんな中、ようやく正解に辿り着いた常松は、胸ポケットに手を入れた。
いよいよ、ゆうこママに、“熱いアイツ”を披露する時がやってきた。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
常松は、例のお札を胸ポケットから取り出すと、カウンターの上に置いた。
「これが、例の熱いあいつ・・・だと思います」
「やっと出てきたわね。これで話が進みそうだわ」
「すみません! 俺が何故か勘違いしてしまったせいで、余計な気を揉ませてしまって・・・」
「謝らなくてもいいわよ。常松さん、あなたってホント面白い人ね・・・GAGAちゃんが気に入る理由がわかるわね」
(やっぱ髭マスは俺のこと気に入ってくれていたのか)
「そう・・・なんですね」
何やら嬉しいような、嬉しくないような、正直どうでもいいような複雑な気持ちになってしまう。
「でね! このアイツなんだけど」
「あっ、はい!このお札が、何でしょうか?」
「シィッ!!」ゆうこママが人差し指を口の前に立てて続ける。
「ここでは、効力を得た札のことは、“アイツ”と呼ぶのよ! 誰が聞いているかわからないでしょう。増して次元パトロールの連中は地獄耳だから気をつけないとダメなのよ」
「そうだったんですか! ホントすいません。知らなかったものですから、以後、気をつけます!」
「そんなに畏まらなくていいわよ。でね、これって、ユリコちゃん、あっ、ユリコママが常松さんに渡したものでしょう?」
そう言われて、ふとユリコママの顔が浮かび上がってくる。まだ、さほど時間は経っていないが、何か懐かしさが込み上がる。
「そうなんです。俺を助けてくれるアイテムだと言っていました」
「うふふ・・・その通りなんだけど、このままでは、ただのお守りでしかないわ」
「と、言いますと・・・」
「効力について、GAGAちゃんは何か言ってなかった?」
(そういえば、なんか言っていたような・・・髭マスの波状攻撃が凄すぎて、何が大事なことで、何がどうでも良いことか・・・全く考えてなかったよ)
「効力があるのかどうか定かではないんですけど、このお・・これにマスターのCHUUU的なやつを注入してもらいました・・・本当に効力があるのかは不明ですけど」
「それは良かったわね! 私が言うのもなんだけど、GAGAちゃんのそれは凄いわよ! 常松さん、ホント運が良いのよ、彼に好かれるなんてなかなかないことよ」
「CHUUUが・・・ですか? そんなに凄いことをしてくれたのに・・・感謝の言葉のひとつも伝えられなかったな」
常松は、あの壮絶なやり取りも実は髭マスの愛情だったのかと悟った・・・が、あのタコチュウ唇を思い出すと、そうでもないようにも思えた。
「常松さん、何も知らないみたいだから、ここのことを教えてあげるわね」
突如、ゆうこママが願ってもないことを言い出した。
常松が訊きたかった情報なだけに有難い話だ。
「俺、このビルのこと、っていうか、こっちのことを全然知らないから助かります!」
思わず明るく元気な声になってしまう。
「わかってはいたけど、常松さんは迷い込んできたんでしょう?」
「はい、どうやら、そのようでして・・・」
「で、恐らくはユリコママのお店に入ったのよね? 偶然に入ったんでしょうけど、ユリコちゃんのところに入ったのは本当にラッキーだったのよ!」
「はい、そうですよね! ユリコママは美人ですから、ラッキーでした!」
違う意味で嬉しそうに、というよりバカ丸出しで答えてしまう常松。
「・・・・・あなた、本当にバカ・・・正直ですね。まあ、ユリコちゃんは男好きするイイ女だから否定はしないけどねぇ」
「あの〜、ママは先程から、ユリコママのことをちゃん付けしてますけど、お知り合いなんですか?」
「うふふ・・・そういうところは抜け目なく勘繰るのね・・・ユリコちゃんはね、昔うちで働いていたのよ」
「ええーーっ! そういうことだったんですかあ・・・でも、何だか納得です!」
「昔、このお店はスナックだったから、その時にお店を手伝ってくれたのが彼女なのよ。で、その後、店の業態を変えて料理屋にしたときに、彼女は自分のお店を持ったのよ」
「そういうことだったんですかあ・・・」
「彼女は、チーママとして、本当によく尽くしてくれたわよ」
「ユリコママって、なんでも卒なくこなしてる感じがしますよね」
「そうなのよ、だからきっと常松さんに助け舟を出してあげたのかもしれないわね」
「ユリコママに感謝しないといけないっすね」常松の目が潤んできた。
「話を戻すわね。端的に言うとね、そんな彼女の店に入ることが出来たから、常松さんは次元パトロールに見つからずに、私の店まで辿り着けたのよ。もし・・・」
そこまで言いかけたゆうこママは、常松の目をマジマジと見つめた。
「・・・・・もし?」唾をゴクリと飲み込む。
「もし、彼女の店に入れなかったら、とっくに終わっていたでしょうね」
「終わる・・・ですか? 俺・・・終わっちゃってたわけですか」
何やら、ゾクっとして声が小さくなってしまう。
「でも、ほら、今こうしてこのお店にいるんだから良かったじゃない」
ママが宥めるように言った。
俯き加減になる常松を見つめながらママが続ける。
「で、一応確認なんだけど、常松さんはうちの店に来る前は、ユリコちゃんのお店とGAGAちゃんのお店だけに入ったのよね?」
「ああ、そうですね。スナック亜空間とBarアイアンヘッドで飲みました・・・・・あっ! そういえばですけど、入っただけなら他にも」
「えっ!? 他のお店にも入ったの?」ママが眉を寄せる。
「ええ、実は・・・でもホント入っただけですよ。すぐに出ましたから」
「なぁ〜にぃーー!」ゆうこママが妙な声を張り上げた。
そのトーンから餅つきする二人組の芸人を彷彿させてしまう常松。
(んっ! やっちまったとでも言うのか!? そういえば、髭マスもあの店のことボロクソに言っていたような・・・)
困惑する常松に詰め寄るママ。
「で、どっちの店に入ったの? まさか!! ド派手なエロい電飾看板に誘われて“L L※注”の方に吸い込まれちゃったのかしら、それは不味いわよ! まさか豊満パワーにやられまくって来たんじゃあないでしょうねえ?」
※注:Barアイアンヘッドの真向かいにある『熟魔女バー LL』の通称
「ちょっと、ちょっと、待ってください! なんでそうなっちゃうんですかあ! 豊満パワーにはやられていませんから。っていうか、L Lには入ってませんって!」
「またそんなこと言ってぇ、豊満な女が大好きって顔してるくせにぃ〜、本当のことを言いなさい! でないと、ちゃんと助けられないのよ」
「いやいや、だから本当に入ってませんよ」
「本当かしら? 熟女なのよ、熟魔女! 常松さんの大好物なんでしょう」
なおも疑いの視線が常松に突き刺さる。
「ちょ、ちょっと、どこからの情報ですか! 俺の大好物がどうして会ったばかりなのにわかるんですかあ!」
「わかるのよ! 私クラスになると・・・顔に書いてあるのが見えてしまうのよ」
(そんな訳ねえだろって! だいたい俺、豊満とかに興味ないし・・・)
半分、諦め顔の常松は心の中でつぶやく。
すると、
「あらぁ、俺は別に豊満に興味ない・・とか思っちゃってるでしょう。お見通しなのよ!」
「えっ!?」
正直に驚いてしまう常松。
「ほうら、お見通しだって言ってるじゃないの」
「いや、だから顔に書いてあるとかはないですって!」
ゆうこママの波状攻撃に翻弄され、何を訂正するべきかわからなくなる常松。
顔に書いてあるとかないとかは、この際どうも良いことなのだが、
・・・常松は、豊満好きで、おまけに熟女が大好物だと認めてしまうのだろうか?
それよりも話の筋からすれば、常松が入ったという、あの店についての情報をママから得なければならないはずなのだが・・・・・。
果たして、常松は波状攻撃から逃れ、得なければならない情報に辿り着くことができるのだろうか?




