そういうことかよ!
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
ゆうこママから執拗なまでの言葉責めを受けてしまう常松。
それはもう、スーパー台風が連続して襲ってくるかのような厳しい言葉責めであった。
おまけに、常松にしてみれば、身に覚えのない話ばかり湧いて出てくる始末。つまりは、その内容についてはほぼ濡れ衣状態であった。
冤罪を誘発した魔女狩りとは、このような仕打ちによるものなのかと思いつつも、問われている内容があまりにもシモシモ寄りである現実に戸惑ってしまう。
エスカレートするゆうこママの尋問は『髭マスの熱いアイツ』的なリーサルウエポン並みの破壊力あるパワーワードまでが飛び出す。これに耐えきれずにいよいよ観念してしまう常松。
「私は魔女です」などと100%冤罪であっても、そう言わざるを得ない中世の悲しい女性達の想いが常松の胸中を駆け巡ったのか、巡らなかったのかは定かではないが、ついに責め苦に耐えられずに、髭マスの“熱いアイツ”を注入されたことを自白してしまう。
その自白がよほど嬉しかったのか、喜んだゆうこママは、『CONGRATULATION’S!』と言わんばかりに、常松に祝杯を求める。
言われるままに乾杯するが、祝杯の意味が全く理解出来ない。それどころか『髭マスの熱いアイツ』を注入された証拠を見せろ! と無茶振りするゆうこママの暴挙に、たじろぐ常松。
証拠も何もそんな事実などは身に覚えの無い常松は、更に窮地に追い込まれるが、必死に足りない頭をフル回転させて、その証拠を捻り出す。
その証拠とは・・・何を指すのか・・・それは、
『前門の狼なのか、肛門の虎なのか』
何れにしても、お粗末すぎて見せられるほどのモノではないということを素直に告白する常松。
常松のお粗末なアイツではないとすれば、ゆうこママは何を見せろと所望しているのであろうか。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
ゆうこママから『お前は勘違いしている! そんなお粗末なモノを見たくはないが、お粗末っぷりには興味があるが・・・』
と突きつけられた。
思わず、戸惑ってしまう常松の思考回路は完全に停止寸前となり、バックアップモードにスイッチされた。
しかし、ゆうこママの攻撃は続く。
「逆に何をどのように勘違いされていたのかしらあ? まあ、とにかく、下の方のアイツは出さなくていいですから、見せなきゃならないモノを見せてもらえるかしら」ゆうこママが呆れ顔で答える。
(やっぱり、なんだか俺の方が一方的に何かを勘違いしていたことは間違いなさそうだな。一体どこで間違えたんだろうか・・・・・考えるんだ! 思い出すんだ、俺!)
常松は天然バカモードを解除すると、真顔でシンキングタイムに入った。
(ママの問い掛けを思い出すと、元々は髭マスに何かをされたのではなく、何かもらった、もしくは何かをしてもらったことを質問してきたはず、ということは、やっぱり、あれしかないよなあ・・・あのエアー的なやつだよな、んでもって、それって、なんのためだったんだ・・・)
常松の脳裏に髭マスとの濃厚な一部始終が走馬灯のように次々に浮かび上がる。
『バッチこーーーい!! ヘイ、ヘーーーイ、しまって、いこーぜー・・・・・』
『CHUUUU・・・・・』
『うおぉぉぉぉーー! 受けとめてやるぅーー・・・』
正直に言って思い出したくない恥ずかしい自分の叫び声や屁っ放り腰姿が蘇ってくる。
次の瞬間、脳裏に浮かんだ記憶をかき消すかのように頭をブンブンと振った常松は思う。
(やはり、これのことなのか・・・)
「ようやく思い出したのかしらあ」常松の仕草を見たママが問いかける。
「ええ、まあ、そうですね」
小さな声で呟いたが、それと同時にハッとしてしまう。
(ん!? ちょっと待てよ、あのCHUUUが正解だとしてだな・・・あれを、どうやってママに見せるんだよ、あれは、あの熱いアイツは見せることなんて出来ないだろう・・・どうするんだあ)
「良かったわあ、思い出してくれて・・・本当に記憶喪失にでもなったのかと心配しちゃったわよぉ」
(おいおい、どうすんだよ、これ・・・なんか考えないと・・・あっ! もしかして、あの気持ち悪いタコチュウのような唇の形を模写して見せてやればいいんじゃあないのか)
「はい、じゃあ安心して、ここに出してちょーだいな」
ママがカウンターの上に出してみろと言わんばかりに人差し指をカウンターに向けた。
「あれ?・・・」
「あれ?・・・って、何を言ってるのよ、ここに出してくれたら、私もしてあげるから、安心しなさいな」
(ええっ!? ここに出せだとおーーー! CHUUUのタコ型唇はただのモノマネなんだぞ、ここに出せって
何か妙だぞ? しかも、ママが私もしてあげる・・・だとおーー! それって、やっぱりなんかエロいことなんじゃあ・・・いやいや、そんなことある訳がない、冷静になれ、俺! ついでに下半身も静まれーー!)
常松のいろんなところのボルテージがスーパーサイ◯人になった時のあんな感じになってしまう。
それを理性でなんとか抑え込む常松の額には、あの有名な5000万円を運んだカバンがどう見ても5000万円のゲンナマは入らないだろうという疑惑の視線を向けられた時の元都知事と同じ量の汗が噴き出していた。
「いやあ、本当にこのカバンに入れたんですよ・・・チャックが閉まらないとかは・・・」
「常松さん、あなたは何を訳のわからないことを言っているのかしらあ」
「ああ、すみません、ついつい取り乱してしまいまして、何か全然違う記憶が蘇ってしまいまして・・・」
(いかんいかん、何やら元都知事が俺に降りかかってきたよ・・・危ない危ない・・・とか言ってる場合ではないぞ、ここに出せるモノってのは、俺が何か持っているモノなのかあ?)
と、元都知事の降臨しかかったおかげなのか、常松の記憶が正常に機能し始めた。
思わず、声が漏れる。
「あっ! そうだ、そうだった」
「もう、おかしな人ねえ、思い出すって言ったって、それほど時間も経っていないでしょうに・・・」
ゆうこママが、もう呆れ顔するのも飽きたわという顔つきになる。
(何故、今まで気がつかなかったんだよ)
「ちょっと、色々と勘違いをしていまして、申し訳ないです。俺って酒飲むとダメなんですよねえ」
そう言って、自慢のポール・ス◯スの名刺入れを取り出そうと胸ポケットに手を忍ばせた。
「ちゃんと持っていたのね、本当に良かったわあ、そのお札がなかったら、常松さんは元の世界に戻れなくなるのよお、まったくう、心配しちゃったわよ! 早く出しなさいな」
「えっ!?? あっ、そう・・・です・・・よね、ホント良かった・・・っす」
常松は瞬時に間違ったことを悟れらないように小さい声で話を合わせると、逆側の胸ポケットに手を入れ直して苦笑いを浮かべた。
(そういうことかよ・・・お札のことだったのかよ・・・)