熱〜いアイツ
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
常松と髭マスの間に、何やらムフフな、あーんなこととか、こーんなことがあったのではないかと勘繰りを入れまくるゆうこママ。
しかも、どうやら破廉恥方面の最終列車に乗れよと言わんばかりに、ズバリ直球勝負で聞き出そうとするその姿は、恐ろしい中世の審問官を思わせるほどである。
身に覚えのないことを話せる訳もなく、もしもあったとしたら口にすることはなく墓場まで持って行くつもりの常松は、当然否定する。
それはもう、一世一代の否定を試みる。
しかし、常松の否定的な、というより否定に徹する言葉に苛立ちを見せるゆうこママは、『本当は何かされたんじゃあないのかいぃぃー!』という台詞を顔に書いたような表情になってしまう。
常松に戦慄が走る。
迫り来るゆうこママの圧アーンド圧・・・・・最早、魔女裁判の異端審問官と化したゆうこママの絨毯爆撃によって為す術を失ってしまう。
果たして、常松は魔女裁判的な審問に屈してしまうのであろうか!?
無かったことを本当にあったかのように、超絶に熱〜い愛を交わしあった的な感じで、薔薇的な回答をしてしまうのか!?
そんなビジュアルは想像すらしたくないぞ! だから頑張って足掻いてくれ、常松!
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「ねえ常松さん、何を言っているのかしら。だったら、ここへ何をしに来たの? ただの冷やかしってことなの?」
ゆうこママが凄まじい形相となって常松に迫る。
(うぉー、凄い圧だぞ、これってやっぱり俺が髭マスと何かしたと思い込んでいるのか?? いやいや、何もやましいことなんかしていないんだから、怒られる筋合いはないぞ!)
「あの、すみません。俺がマスターと、その如何わしいことをした的なことを隠していると思われているのでしょうか?」
「隠しても無駄ですよ! ほぼほぼ、お見通しなんだから!」
「いや、あの、本当に何も無かったんですよー、信じてください。俺は彼とは何もしていませんから」
常松は浮気の弁解みたいな言葉を並べてしまう。
「ま〜だ、しらを切るつもりなのね、ネタは上がっているのよ!」
世の中において、浮気の弁解みたいなものは、逆効果だと相場は決まっているのである・・・残念ながら。
(おいおい、この人はなんのネタを仕入れてきたんだよ・・・完全に濡れ衣だというのに・・・)
「自分の胸に手を当てて聞いてごらんなさい」
(自分の胸にも何も・・・あっ! もしかして、アレのことかな? 髭マスとなんかやましいことをしたのは、アレくらいしかないぞ・・・しかし、あれはモロなやつではなかったし、言うなれば“エアー”的なやつだしなあ)
常松はアイアンヘッドでの髭マスとの戯れを思い出すが、該当するようなことは記憶にない。
というか、ないのだから当たり前なのだが、ゆうこママの機嫌を損ねるのは不味いわけで、何かを無理矢理にでも思い出すしかないと考えた結果の結論が中途半端に浮かび上がった。
(しっかし、アレはなあ・・・)
「あら、何を思い出しているのかしらぁ〜? 熱〜い何かをしてきたんでしょう、ゲロっちゃいなさいなぁ」
「いやぁ・・・熱いやつって言われても、そんなのは、ちょっと・・・」
(なーんか俺、彼女に浮気相手のことを全部調べられて尋問されているみたいだぞ・・・っていうか、何なんだこれは?? 最早、俺のことは薔薇系のそれ確定って思われているのかよ! っていうか、今更だけど髭マスって、やっぱりあっちの方ってことなのかよ、まあ相当ハードな感じが漂っていたからなあ・・・)
「で、熱〜いアイツを、しっかりともらっちゃったんじゃあないの〜、いやあねえ〜」
(熱いアイツって、なんだよ! “アイツ”ってのは・・・なんか想像したくないなあ、マジでっていうか、こりゃあ、中途半端な答えじゃあ納得させられないんじゃあないのかぁ、俺!? 大丈夫なのか、俺!?)
ゆうこママの攻撃のレベルが特級レベルに跳ね上がったことで、常松は脳裏に蘇った“エアー的なアレ”如きの回答では火に油を注いかねないと悟った。
この攻撃を回避するには、何やら相当の禁術否、禁忌レベルの回答を用意しなければならないのではないか、直感でそう感じとったのである。
(こうなりゃあ、もうヤケクソだ! 俺が髭マスの熱〜いアイツと激闘しまくったとかなんとか、アイツの出力解放は熱いなんてもんじゃあなくて宇宙戦艦ナントカの波動砲並みだったとか、フィニッシュはきとう、じゃあなくって機動戦士を操縦している奴の決まり文句のように『いきまーーっす!』と雄叫びを上げちゃったとかなんとか、そんな答えを言うしかないよなあ・・・仕方ねえなあ、覚悟を決めるか!)
異端審問の激しい拷問に屈っしてしまう中世ヨーロッパの罪のない人々の如く、常松は観念した。
「わかりましたよ、ママ・・・さすがですね。千里眼をお持ちのようなその推察力には敬意を表しますよ。そんなママに隠し立てなどは意味がないですね。それでは全てをお話ししましょう! ママの仰る通り、髭のマスターにはいろんなことをされてしまったのですよ・・・それはもうすんごいことを・・・・・です」
「ようやく、白状する気になったのね〜、私の口からは滅多なことも言えないのよねぇ。だから、ちゃ〜んとアイツのことを話しなさいな〜」
(“アイツ”って、本当は何なんだよ! やっぱ、鈍く黒光りするアイツのことなのかぁーーー! 想像したくないなあ、マジで・・・)
「あのぉ、念の為、あらかじめ言っておきますが、俺は被害者なんですよ! そこのところはちゃんと理解してもらえたらと思うのですが・・・」ぼやきとも取れる言い訳を試みる。
「・・・・・わかっているわよ・・・常松さんが悪いわけではないことは・・・当然理解しているわよ〜、常松さんにはなくてはならないものだから仕方なかったのよね、欲しがっちゃっうのも頷けるわよぉ〜、だからGAGAちゃんも常松さんの気持ちに応えてあげたんだから」
(このママは・・・全然理解していないな、マジで。よし、こうなればもうヤケだ! いただいちゃったことにしよう・・・注入されちゃったことにしてやろうじゃあないか! ママの度肝を抜いてやろうぜ、俺!)
「えっ? 欲しがる? 否、あの特別欲しがった覚えはないんですけど・・・ホント、熱いアイツはそれほど欲しかった訳ではないんですがあ・・・無理矢理にというか、そういう流れというか・・・とにかく俺はマスターにされるがままに、いろんなことをされちゃいましたよ・・・注入されちゃいましたよ! それはもう強引に・・・」
常松は、無かったことを有るかのようにクリエイトして巧みに話すような能力には乏しかった。そのため、何だか妙な描写表現になってしまう。しかし、それが逆に、今回のようなあっち系というか、熱いアイツを語る場合に限っては、無かった話に生々しいリアリティを付与させることになってしまった。
「あらぁ、やっぱり、ちゃ〜んとやることはやってきたんじゃあないのよぉ〜❤︎ 満足したのかしらあ〜」
(このママは、何を言っちゃってるんだよ、他人事だから、面白がっているんだろうけど・・・もう小さいことは気にしないで、ワカチコ状態になるしかないんだな、俺は・・・)
「ええ、まあ・・・ホントその、ご想像にお任せします」
恥ずかしさとやるせ無さが入り混じったような、何とも言えない気分になって俯き加減に呟いた。
どちらかというと、恥ずかしさと若干の妙な悔しさが混じってやるせなくなっているというのが正しいのかもしれない。というか、ホントどうでもいいのだが・・・。
そんな常松の気持ちを知ってか知らずか、ゆうこママの表情は明るくなり、心なしか肌艶もツルツルな感じなって、カウンターの下から酒桝を二つ取り出した。
そして、壁棚から日本酒の一升瓶を徐に掴み取った。
女性には重たく大きな一升瓶を慣れた感じで傾けて、カウンターに置かれた酒桝に注いでいるママを常松は無言で見つめる。
(俺のウイスキーソーダ、まだ残っているんだけど・・・俺にもこれを飲めということかな)
「常松さん、良かったわね! アイツをいただいちゃったんでしょう。お祝いしましょう!」
「えっ!? 熱いアイツで・・・お祝いですか??」
「そうよお、だって、アイツをもらって来なかったら、ここへ来る意味がなかったのよお、ホント良かったわぁ」
(なんだ、それは? 髭マスの熱いアイツをいただいてしまうと、お祝いすることになるのか? トンネル開通祝い的な? もしかして貫通祝いってことなのか? 貫通されていないんだけど、いいのか? ちょっと高そうなお酒だけど・・・祝い酒なんかいただいてしまって・・・っていうか、アイツはいただいていないんだけど・・・)
常松は思考回路がショート気味になってしまい、理解が及んでいなかった。
「ほらあ、ガツンと乾杯しましょう! 升酒なんて、なかなかに乙でしょ〜」
「ああ、そうですね」常松は酒桝を持ち上げる。
「じゃあ、GAGAちゃんのアイツに! カンパーーーイ!!」
ゆうこママは乾杯の発声とともに升酒を勢いよく日本酒を口に流し込む。常松もその勢いを借りるかのように動揺しながらも升酒を口に運ぶ。
「美味しいわねえーー、常松さんもグイっといっちゃってえー」恐る恐る一口飲んで一息入れた常松に煽りを入れるゆうこママ。
常松は混乱しながらも、ワカチコモードで口を開く。
「しかし、そんなに開通したことが喜ばしいんでしょうか? お祝いなんかしてもらうのは何だか申し訳ないというかあ、これってお赤飯炊いちゃう風習みたいな感じなんでしょうかねえ?」
「開通? 何のこと?」
「いや、あの、俺の関門が開通で、それでもってお祝いの升酒が・・・」
「関門が開通って、何を訳のわからないことを言っているのよ〜、おかしな人ねえ」
「あっ! だから、その、マスターのアイツをいただいたってことのお祝いなんですよね?」
「そうよお、常松さん、もらってきたんでしょう? 熱〜いやつをぉ」
「あっ! まあ、そう・・・だと思いますが・・・」
「そうだと思いますって、記憶力ないんですかあ? 大丈夫なんですかあ?」
(おいおい、これって、俺のことをバカだと思っているんじゃあないか!?)
「記憶力っていうか・・・ですね。その、アイツってのがイマイチ、どのアイツだったのかなあと、そのいろいろなことがありすぎまして、そのうちのどれがアイツなのか、ちょっと確認をしたいかなあ、なんて思っちゃったんですけど」
「あら、そんなにいろんなことされちゃったんですかあ? まあ、それはあんまり想像したくはないわよね。じゃあ、とにかく証拠を見せてくれればいいんじゃないですかね。ほら、もらってきたアレを出してごらんなさいな、鑑定してあげますから、ほらお出しなさい」
「ええっ!!?? 出せって・・・見せるんですかあ! というか、鑑定するって・・・いや、それはちょっと、その、あんなものをここで披露するなんて荒技は、その経験がなくてですねえ、っていうかあ、そんなお見せできるような代物じゃあありませんし・・・」
常松は額から流れ落ちる汗を両手で拭いながら思案する。
(このママはおっかないなあ、何を言い出すんだよ! 見せろってのは、アレだよな、前門の方の奴ではなくて、当然この流れだと後ろの方の狼の方だよなあ・・・そんなものを見せられる訳がねえだろう、マジで・・・だけど、なんかこの展開は不味いな。何か流れを変えられないか・・・後門の方ってことは、黄門様の印籠みたいなモノで誤魔化すとか・・・って、そんな物は持っていないしなあ・・・)
せっかくの思案がとんでも無い方向へ流れようとしていた。その流れを止めるようにママの言葉が降り注ぐ。
「常松さん、そんなに焦ったように狼狽えちゃって、どうしたのかしらあ? 大丈夫よ、ほら、大切なモノだってことは私もわかっているから、変な真似はしないわよ」
(変な真似・・・って、そんなこと言われると、余計に疑わしくなるじゃあないかよ・・・何をする気なんだ、やはり鑑定されちゃうのか? まさか“ドS”なのか!? 俺を調教する気なのか!? まさかとは思うが、これはもう、そっち方面だった時のことを考えて鉄壁のディフェンスを繰り出さないと取り返しがつかないことになるかも)
「いやあ、流石に見せろと言われても、ちょっと下半身の方については、狼の方も虎の方も全く自信がないので、そのご勘弁を・・・」常松は髪の毛を軽く掻きながら申し訳なさそうに言い訳をする。
「ちょっとお〜、何か勘違いしてないですかあ? 下半身だなんて、まさか常松さんのお粗品なアイツを見せる気でいたんですかあ? あんまり笑えない冗談ですよお〜、お粗末っぷりがどんなものなのかは気になりますけど〜」
「・・・・・・・えっ?? どういうこと・・・・・・でしょうか?」
(まさか・・・勘違いだというのか? どの辺りが勘違いなんだ? ・・・っていうか、俺のアイツがお粗末だって・・・何故わかるんだ?)
思いもよらないゆうこママの言葉に困惑する常松。
果たして、自分の勘違いに気がつくのだろうか?
そして、ママが所望するモノとは何なのか?
そのモノと熱いアイツの関係とはいったい・・・・・・・。
むしろ、常松は勘違いだったにせよ、お粗末なというより恥ずかしいアレを披露する気満々なのか!?
次回、全ての謎が明らかになる・・・・・・はず。




