第23話 自覚
「……」
そんな女に惚れるなんて、オレステスも苦労する。
ちょっと同情したい気持ちが湧いてきた。――とはいえ彼を慰めたところで、逆に傷を抉るだけだろう。男同士、それぐらいのことは察したい。
ベッドから起き上がって、俺は全身の動きをチェックした。
身体の痛みはどこにもない。……当然か。一回死んで、蘇った後なんだ。傷が残ってたら訴えてやるぐらいである。
「よし、んじゃ行くか。向こうの様子も気になって仕方ねえし」
「えっ、もう? 少しぐらいはトウキョウの見物したかったのに……」
「俺はそういうのに頓着しねえ男だよ。強請るんだったらオレステスみたいなやつにやってくれ」
「――」
一瞬で訪れた沈黙。祭りの後とはこのことか。
俺は慌てて、ヘルミオネに謝罪の言葉を口にする。本当はもう一言つけ加えたい気持ちもあるが、今そこまで言う必要はないだろう。
「……やっぱこの二人、お似合いじゃねえのかな?」
オレステスとヘルミオネ。
少なくともまだ、彼女の方は意識するところがあるんだろう。罪悪感を、一つの好意と解釈すればの話だが。
だってどうでもいい人間に対して、罪の意識を感じたりはしない筈。
個人的には脈ありだと思う。まあ男の俺がそう思ってるだけなんで、女性であるヘルミオネについては全く別だろうが。
「――」
不意に、孤独を思う。
俺は何一つ、自分で手に入れたものなんてないんじゃないか?
何もかも、他人から奪ってばかりじゃないか?
「……ネオ?」
「お、おう?」
「珍しいね、考え事してそうな顔で」
「俺だって物思いに耽ることはあんだよ。ほら、アテナ様の部屋に行くぞ」
「あ、ちょっと!」
心配するヘルミオネの横を、仏頂面で通過する。
頭の中にあるのは、自分に対する嫌悪感だけだった。