第7話 政府にも正義はある
薬師寺はバカじゃありません。
私の裏切りはどうだい? ザマァないね! 悪に進もうってなら意地でも止めてやんよ!
貴音はムフーと自慢げに立つ。首相とその秘書は唖然とするも腐っても日本のトップ。
唇を噛みつつも臨機応変な対応を見せた。
「……ハハッ! 如何でしたか? 我が国の誇りのヒーローの登場演出は? 世界初でのサプライズ発表! 我ながらに良いモノだと自負しております! ではこのヒーローに質疑応答の時間を設けます!」
目の周りがピクついている、明らかに怒っているけど冷静に私の情報を引き出すつもりだ。
「なっ!? えぇ! 分かりました、お答えしましょう! 例えば〜私の美しさと強さとか! ……まあ私が知りたいですが」
時間稼ぎも虚しく記者が質問してきた。
「朝月新聞です。貴女が梶原貴音と証明できるモノはあるのでしょうか?」
「えーっ、現在DNA検査を行っており、明日の夕方頃には私が本物か、それとも貴音と思い込んでいる狂人かどうかわかります」
それが終わると次から次に来る、口が渇きだいぶ焦ったがなんとか乗り切った。
だけどその後に首相が私を怒鳴り散らす。
「あれは全世界に向けてだぞ! 約束を破りおって……これ以上、下手な事をしてみろ。一度失った信頼はそう易々と戻らんぞ、日本政府を敵に回したと思え」
指を刺し怒りのあまり肩で呼吸する薬師寺。
「……怪しい貴方からの信頼はあまり重視していません。私は半年間守ってきた、これからも守る。ただそれだけです」
私は余裕の態度を見せる為に、腕を組み見下す様に虚勢を張る。正直、心臓は早鐘を打ち指も震える。
これはなんだ……? 何の震えなのだ?
「ヒーローごっこ遊びは己の首を閉めるだけだ。所詮は、ただの民間人だという事を忘れるなっ。小童のお前が思っているよりも世の中は複雑だぞ」
そう言い放つと私の反論も聞かずにカンカン靴の音を鳴らして立ち去った。
悔しいが奴の言う通り私は民間人だ。難癖をつけられれば逮捕される可能性だってある。
それでも、人を守ることまで諦めるつもりはない。
……てかこのスーツくれんの? ならもらう、それはそれなので感謝はする。
「はぁ〜、どうなることやら」
私の手の届く範囲は守りたい。
国がミーティアンの差別をしようとするなら立ち向かう。この魂燃やし尽くしても。
そう呟きフヨフヨ浮遊して外に出ようとするが声をかけられた。
「すみません、お時間よろしいでしょうか? 私は本國文記と申します。少々……個人的な話がありまして」
振り返ったらまさかの副総理だった。また説教か? 第二ラウンド突入なのか? はぁ……
「これはこれは……副総理直々に私に何か? もう説教なら受けましたよ」
文句かと思ったがこの人の表情的に違うな……?
「えぇ、あなたが読まれなかった文章も目を通して、会見も見てましたから理解しています。とにかく着いて来てください」
「はぁ」
通されたのは人の気配のない物置部屋だ、机に椅子二つ。上座に座らされると彼も座った。
お見合いかな?
「あなたを拘束するために呼んだと思いましたか?」
っ!? で、できるのか? この私を!?
「……さすがにご冗談でしょう? 本題はなんのお話ですか? ナンパなら間に合ってますよ」
この部屋は明らかに私と会話する為に整えられている、その上逃げにくい上座に座らされた。
どうしたものかと私はキョロキョロと見渡す。
「はっはっりそんなに警戒なさらなくても大丈夫ですよ」
「失礼ですが、それを決めるのは私です。実質孤軍奮闘なので油断もならないのです」
「それを解決したいと思いお声をかけさせて頂きました。ここでの会話は内密にどうかお願いします」
そう言った瞬間驚愕の行為を行う。
なっ!? 身体から本が出てきたぞ……ミーティアン?
何が目的だ、本國文記。
「これは……貴方もミーティアン?だとしてもなぜ私に見せた?」
「私もそうでしょう、能力は本のページに物をしまうことが出来ます、入れた時の状態が保持されます」
もう慣れた手つきでページから熱々の湯気立つアップルティーに、キンキンに冷えたフルーツタルトが出てきた。
何故だ、どうして私の好きなケーキと飲み物を知っている。
毒なのか……? いやそこまで回りくどい事はしないはずだ。
ポカンとしていると本國が口を開く。
「あなたの好きな甘味とお聞きしたので親交の証にと思いまして。一応名店のものです、どうぞお召し上がりください」
フォークも抜かりなく用意していたらしい、私のデータをどこから聞いたのか知らないが、前ののめりになり感心した。
「すごい……こりゃあ日常生活に便利だ」
「戦闘や護身にも多少は使えます」
チャキッと拳銃を取り出してマガジンを抜き弾が込められている事を見せてきた。
本物だ、どう言ったルートで手に入るのか……
「おお! ハイジャックとか楽に出来そうですな!」
「それは日本を背負っていく方が仰る事じゃないですよ……」
変な笑いが出た。
「それを言われちゃあ何も言えませんな」
「本題に戻りますが政府にも反薬師寺がいる事を知って欲しかったのです。なので手の内を全て明かしました。私たちの排除する動きがあれば、私は内側から止めますのであなたは外からお願いしたいのです」
そう深く頭を下げられた、反射的にそれ以上に頭を下げた。
勘違いだった、この方もヒーローだ。
「疑り深い性格で申し訳ありません。本当にありがとうございます! 若造の私が言う事では無いですが互いに頑張りましょう!」
「えぇ! 互いに最善を尽くしましょう」
そう握手すると連絡先を交換し、怪しまれない内に窓から飛び出してマスコミの海からも逃れた。
私は安堵した、政府にも仲間がいる事に。尚更、守らないとと気を引き締めていく。
私一人じゃない。それだけで少しだけ空が軽く見えた。
本國はもっと馬鹿じゃありません。




