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闇夜の死闘

 ツバメの残り火が消えると、再び闇が訪れた。

 月明りの下、細目の男をめがけて俺は跳躍した。

 俺の剣と男の剣がぶつかり、火花を散らせる。その横を彩達が駆けていくのが見えた。


 男は彩達を追おうか一瞬迷ったのか、剣にかかる力が微かに弱まった。

 それを見逃さず、俺は右足で男の腹を蹴る。男の体がくの字に曲がった。


「ぐっ!?」


 男が呻いたが、この程度では大した負傷にはならない。

 俺は再び白刃を閃かせ、男に迫った。剣の間合いに入る。その刹那。

 俺の頭を踏みつけるような力が加わった。


「くっ?」


 俺は接近を諦めて、たまらず飛び退いた。

 その俺を追う様に男の剣が宙を斬った。


 こいつ。戦い慣れている。王力はその力によって使いやすいものもあれば、扱いが難しいのもある。

 俺の炎狼は難しい部類だ。自立させるか、言葉で指示を出すか、あとは一瞬だけだが思考を再現するような動きまでしかできていない。

 炎狼と思考を共有できるまでには至っていないのだ。


 対して、こいつはどうだ。ほぼ動作なしで王力を使いこなせている。

 剣の腕前もだが、この王力の精度の違いが戦いに大きな差を生むことは確かだ。

 俺はツバメを斬られたことで、王力を消耗している。


 炎狼は一度、召喚してしまえば、王力を大きく消耗させるようなことをしない限り、持続して使える。

 董卓の持っていた牛頭の王力は消費量が激しいと聞いた。

 他の王力については消費量がどの程度かは分からないが、それほど連発はできないと思われる。

 

 俺の今の状態では、ツバメを召喚できるのは一回が限界かもしれない。

 この男との戦いに勝つためには王力は必要なのは間違いない。出し惜しみしていい相手ではないのだ。

 じっくり構えて戦いたいが、騒ぎが大きいうちに審端を押さえて撤収しなければならない。


 先手が必勝とは言えないが、先に攻めかかるしかない。

 俺はすぐに駆け出すと、男に迫る。男に目立った動きはない。思った通りの反撃に出てきた。

 剣と剣が激しく打ち合う音。それは一度ではなく、二度、三度と打ち合う。


 一旦、呼吸を整えるために下がろうと足を動かした。

 瞬間、頭上から押しつぶされるのではないかと思うほどの力が圧し掛かった。

 その衝撃はすぐになくなったが、完全な不意打ちに剣の構えを解いていた。


 男の剣が迫る。それが分かるのに、動けない。しまった、こんなところで俺は。

 剣が俺の胸を貫かんとしている。迫る死に俺の脳裏に様々なことが浮かんだ。


『安能様』


 小蘭が振り向いて俺に笑顔を見せた。


『燕ってかわいいですよね』


 軒下に巣を作っている燕を見て言った。

 ああ、そうだな。かわいいな。


「ツバメ」


 思考もしなければ、指示でもない。口からこぼれた言葉。

 それに炎狼は応えた。

 俺の影から飛び出したツバメが男の腕を食いちぎった。


「ぎゃあぁぁぁ!」


 腕を食いちぎったツバメはその腕を放った。

 今、なんとなく分かる。ツバメと繋がっているのが。俺はお前で、お前は俺だ。

 まるで、ツバメのことが手に取って分かるようだ。


 口から滴る血の味も、その目の前で狼狽している男も感じる。

 これが炎狼と思考を共有するというものか。ならば、行こうじゃないか。

 ツバメとなった俺は男に飛び掛かった。男はなんとか手にした剣でツバメを斬ろうとした。


 だが、俺自身の思考も途絶えてはいない。

 一気に踏み込み、男めがけて突進をした。

 これが炎狼を扱う者の極致。俺とツバメの思考が一つになったとき、男の腕は俺に斬られ、男の首はツバメに食い破られた。


 男が死んだことを確認すると、ツバメを体の中に戻した。

 死線を潜り抜けたことで俺はまた一つ強くなれた。俺は男の亡骸に礼をする。

 誰かは知らぬが、俺を強くしてくれてありがとう。


 心の中で礼を言い、彩達を追った。

 まだ騒ぎが大きいなか彩達を探していると、一つの部屋の戸から彩が顔をのぞかせてた。


「彩」

「馬岱様、こちらです」


 部屋に入ると、そこには見たことのある男の顔があった。

 女を二人はべらせ、寝床に横になったまま剣を突き付けられている。


「審端、久しぶりだな」

「な、なんだお前達? 何をしに来た」

「黙って聞け。お前が三年前に、韓遂の下にいた万吉を殺害するように仕向けたのは間違いないな」

「万吉? お前、まさか安能!?」


 驚いた声を上げた審端に向け、俺も剣を突きつけた。


「余計な問答は不要だ。知っていることを洗いざらい喋ってもらう」

「うっ……。たしかに万吉を殺害するように指示は出した」

「それはお前の独断か?」

「ち、違う。あれは、私ではない」

「ならば誰だ?」


 剣の切っ先を審端の胸に押し当てた。

 じわりと肉に食い込んだ刃に少しだけ血がついた。


「や、やめてくれ」

「ならば、言え」

「せ、成公英だ。だが、成公英は独断で動くような男ではない。おそらくは韓遂――」

「韓遂だと? 証拠はどこにある」

「か、韓遂だという証拠はない。だが、誓約書に書かせた成公英の筆跡は本人のもので間違いない」


 韓遂。あの男が小蘭を死に追いやったというのか。


「その誓約書はあるのか?」

「あ、ある。逃げるときに持って来たからな。証拠さえ残しておけば、もし――」

「黙れ。その誓約書を渡せ。もし、お前の言っていることが正しければ、お前を殺さないでおこう」

「くっ……。分かった。そこの箱に入れている」

「では、箱ごと貰っていく」


 俺が言うと審端は血相を変えてすがってきた。


「そ、それには証文や誓約書などが入っておる。全部持っていかれては」

「命よりも大事なものか?」


 俺は剣に少し力を入れて、審端の肌を薄く裂いた。


「分かった。命だけは」

「もし、その誓約書が偽物とわかったら、俺は死んでもお前を殺しに行く」

「分かっている。だから、早く、それを持ってここから出て行ってくれぇ」


 涙を流した審端から剣を引いた。彩が俺の耳元でささやく。


「良いのですか?」

「ああ。こいつも使われただけの男だ。殺す価値はない」

「分かりました」 


 彩達に箱を持っていくように指示すると、最後に審端に目を向ける。


「また会う時があれば、その時はお前を殺す。そうならないように立ち回るんだな」


 部屋の戸を閉めて、俺は何食わぬ顔で塀を上って屋敷の外へ行き、闇にまぎれた。



 宿に戻り、冥の寝所で持って来た箱から誓約書を探す。

 証文や誓約書が大量にあることから、審端の悪事に手を染めていた数がよく分かる。

 その中で一つの誓約書を見つけた。


 そこには、万吉を毒殺するように仕向けた内容と最後に成公英の名が書かれている。


「これが、その誓約書のようだな」

「やりましたね、馬岱様」

「いや、まだこれが成公英の書いたものか判断がつかない。冥、頼みたいことがある」

「筆跡の鑑定ですね」


 俺の考えを先読みした冥に俺は僅かに笑みを見せた。


「頼めるか?」

「もちろんでございます。筆跡の鑑定ならば、それほど難しいことではないでしょう」

「分かった。頼む」


 俺はそこまで喋ると、一気に気が抜けたのか、床に座り込んだ。


「さすがに危ない橋を渡った。だが、もう一息だ」

「はい。必ず首謀者を見つけ出します」


 そうだ。もう少しだ。成公英。韓遂。貴様たちが犯した罪を今から暴いて見せる。

 もし、小蘭の命を奪ったのがお前達なら、償ってもらう。死をもって。

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