トロッコ問題を語ってみようか
──「どうにもならない予測」が人を疲弊させる
トロッコ問題が疲れる理由
──「どうにもならない予測」が人を蝕む
トロッコ問題という思考実験がある。
暴走するトロッコ。
分岐を切り替えなければ5人が死ぬ。
切り替えれば1人が死ぬ。
どちらを選ぶべきか。
倫理や道徳の議論として、長く語られてきた問題だ。
だが、この問題の本質は
**「正解があるかどうか」**ではない。
むしろ逆だ。
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トロッコ問題には「どうやっても後味が悪い」しかない
冷静に見ると、トロッコ問題には次の特徴がある。
• どちらを選んでも犠牲が出る
• 行動しても、しなくても責任が残る
• 結果は取り消せない
• あとから正解を証明する方法がない
つまりこれは
構造的に「どうにもならない」状況を
人為的に作った思考実験だ。
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実は「知らなかった場合」も結果は同じ
ここで一つ、重要な視点がある。
もしこの状況を
そもそも知らなかったとしたらどうなるか。
• トロッコは走る
• 誰かは死ぬ
• 結果は変わらない
物理的な結末は同じだ。
違いがあるのは、結果ではなく
脳内で発生する負荷と罪悪感だけだ。
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知った瞬間に、予測が止まらなくなる
トロッコ問題を「知る」と、人はこうなる。
• どちらを選べばよかったかを考え続ける
• 別の選択肢はなかったかと反実仮想をする
• 自分が悪かったのではないかと責任を引き受ける
これはすべて
未来も過去も変えられないのに、予測だけが走り続けている状態だ。
サイサイセオリー的に言えば、
これは セフティ(安全・危険予測)ベクトルが解除されない状態である。
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「どうにもならない予測」を持ち続けると、セフティは疲労する
本来セフティは、
• 危険を察知する
• 行動で回避する
• 結果を更新して落ち着く
というサイクルで動く。
ところがトロッコ問題のように、
• 回避できない
• 行動しても改善しない
• 更新もできない
状況では、
予測だけが宙ぶらりんで残る。
この状態が長引くと、
• 常に警戒が抜けない
• 脳が「まだ何か考えるべきだ」と勘違いする
• セフティが休まらない
結果として起きるのが、慢性疲労と不安だ。
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悪質な睡眠は、ここから始まる
セフティが疲労したまま眠りに入ると、何が起きるか。
• 寝ているのに頭が回る
• 夢の中でも判断をしている
• 夜中に目が覚める
• 起きても回復していない
これは単なる睡眠不足ではない。
**「予測を抱えたまま眠っている状態」**だ。
身体は休んでいても、
脳の警戒装置は解除されていない。
これが、体を静かに蝕む
悪質な睡眠の正体の成分の一つだ。
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必要なのは「考え続けること」ではない
ここで重要なのは、
「深く考えれば救われる」
「答えを出さなければ前に進めない」
「第三の選択肢は無いのか?」
という発想そのものだ。
トロッコ問題が示しているのは、むしろ逆。
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「どうにもならない」と認知させるのは、思考の終了宣言
考えられるだけ考え、
介入可能性を検討し、
それでも変えられないと分かったなら
そこで予測を止める必要がある。
これは思考放棄ではない。
逃げでもない。
思考を最後まで使い切った結果としての終了処理だ。
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トロッコ問題は、倫理問題ではなく「疲労の教材」
トロッコ問題を何度も考えてしまう人ほど、
現実でも
• どうにもならない未来を考え続け
• 過去の選択を反芻し
• セフティを休ませられない
傾向があるのでは?
トロッコ問題は、
正しさを競う問題ではない。
「どこで予測を止めるべきか」を学ぶ教材だ。




