─19話─ 喫茶店バシリアン
─19話─
それは裏通りに存在した。
「マイ様、本当にここですか⋯?」
サユリちゃんが怪訝な顔をしている。
そうだね
私も本当にここなのか自信が無い
─ 喫茶バシリアン ─
看板には確かにそう書かれている。
しかしその見た目はまさに牢獄。
牢獄見た事があるのかって?
いや無いけどさ。
私たち3人は意を決してその門をくぐった。
ガラン
扉の鈴の音が重い
「⋯いらっしゃい」
いかにも無愛想な感じの男性二人がカウンターに立っていた。
この二人どこかで⋯
思い出した。
「迅雷の覇者」でのコウガとハクガだ。
コウガとハクガは双子の兄弟である。
監獄島バシリアンの衛士として門番を務め、バシリアンを狙う数多の者たちに対し、兄弟で繰り出す「双頭紅白拳」をもって返り討ちにしてきたのだ。
それは強力無比、残虐非道な拳である!(CV︰千葉繁)
あーもう既に帰りたい
この店が流行らない理由が分かり過ぎる。
というか分からない方がどうかしている。
おばあちゃん
経営というものを根本から見直した方が良いと思います。
「あの、ここのおばあちゃんに紹介して貰って来た者なんですが」
私はコウガとハクガに話しかけた。
ちなみにどちらがコウガでどちらがハクガかは分からない。
そもそもそんな名前かどうかも知らない。
「⋯聞いている。そこのテーブルへどうぞ」
コウガが答えた。
ちなみにどちらがコウガなのかは不明のままだ。
私たちはテーブルに座りメニューを見た。
わりとメニューが多い。
・森の妖精さんの煎れたてコーヒー
・天使の甘い香りのするオレンジジュース
・子猫のミイちゃんが作ったココア
・恋する乙女のふんわりフレンチトースト
・お菓子の家の小さな幸せを運ぶマカロン
それはキラキラメニューのオンパレードだった。
しかも挿絵にメニューをイメージした可愛いイラストが添えられていて、無駄にクオリティが高い。
いったいコウガとハクガのどちらが考えたのだ。
いやもうどっちでもいいや
サユリちゃんは
「私めはこの『そよ風が運ぶたんぽぽの綿毛のようなクリームソーダ』にします」
圭一君は
「僕は、そうですね・・・『ピッピとポロリンの追いかけっこカフェオレ』が良いかなと思ってます」
え、アンタら順応性高すぎやん?
私は⋯
『虹の架け橋を渡るレモンソーダ』か
『雪国に響く新雪の足音サイダー』
のどちらにしようか⋯
正直どっちでもいい
しばらくしてハクガが注文を取りに私たちのテーブルへやってきた。
ちなみにコウガではなく本当にハクガなのかどうかは不明だ。
「ご注文はお決まりか」
ハクガが聞いてきた。
サユリちゃんが全員分をまとめて答える。
「この『そよ風が運ぶたんぽぽの綿毛のようなクリームソーダ』をひとつ
『ピッピとポロリンの追いかけっこカフェオレ』をひとつ
『雪国に響く新雪の足音サイダー』をひとつ
以上でお願いします。」
ハクガが口を開いた。
「⋯復唱いたします」
復唱するシステムなんだ
けっこうな地獄だね
『そよ風が運ぶたんぽぽの綿毛のようなクリームソーダ』をひとつ、
『ピッピとポロリンの追いかけっこカフェオレ』をひとつ、
『雪国に響く新雪の足音サイダー』をひとつ
以上でよろしかったか?」
ハクガは表情こそ変わらない仏頂面だが、耳まで真っ赤になっていた。
ハクガ大丈夫?
そこへ圭一君が口を挟んだ。
「すみません、僕はやっぱりこの『ねずみくんが森の中で出会った大ぼうけんラテ』の方に変えていただけますか?」
おい圭一!
本当にあるのか?そのようなメニューが!
ハクガに言わせたいだけじゃないの?
ハクガが苦虫を噛み潰したような顔で答える
「⋯っ!こちらの『ピッピとポロリンの追いかけっこカフェオレ』は取りやめて『ねずみくんが森の中で出会った大ぼうけんラテ』に変更でよろしかったか」
今ちょっと舌打ちしなかった?ハクガ
「はい、それでお願いします」
もはや合ってるのかどうかも全く分からなくなってきた。
店の厨房に入ったハクガは嗚咽混じりに泣いていた。
ちなみに、どっちがハクガかは未だに不明だ。
それをコウガが慰めている。
「ハクガよ、今は屈辱に耐えるのだ。救世主が現れるまで我々はあらゆる困難に耐えねばならん」
「分かっている⋯だがコウガ!
お前の考えたメニューのせいじゃい!!」
あ、本当にコウガとハクガなんだね
しかもメニュー考案者はコウガ、と
心のメモ帳に書いておこう
彼ら兄弟は「迅雷の覇者」の中で、その無慈悲な双頭紅白拳を駆使して敵やモンスターを粉砕してきた。
それが現世ではキラキラメニューを作り、運んでいる。
どんな巡り合わせなんだか。
「おや、いらっしゃい。今日はありがとうね」
例の大きいおばあちゃんが割烹着を着て店の奥から出てきた。
「こんにちはおばあちゃん」
へー喫茶店に割烹着なんだ?
ちょっと朝に会った時より陰鬱そうに見えるけど大丈夫かな
「ゆっくりしていきな⋯」
おばあちゃんが水の入ったコップを3つ出してくれた
それを見ていた圭一が口を開いた
「おいばあさん、その水を飲んでみろ」
え!圭一君どした急に!?
⋯あ、いつの間にかメガネ外してる
おばあちゃんは何故か狼狽えている
「わ、私は飲んだばかりだから⋯」
この話どこかで見たような⋯
「なぜ飲めぬ、いいから飲め」
「く⋯くくっ!」
おばあさんは大汗をかいていた。
「よ、よくも見破ったなぁー!!」
おばあちゃん、武器を持ち出す
なんだこの展開
「お前のようなバアさんがいるか」
ジンケイが立ち上がった。
ジンケイ⋯
人を見た目で判断するのはどうかと思うよ?
今回はまあ良かったけど。
とにかくマズい
このままだと大騒ぎになる
「サユリちゃん!圭一君にメガネを!」
「ええ?はい⋯!?」
困惑しながらもサユリは圭一にメガネをかけさせた。
ジンケイは圭一に戻り大人しくなった。
サユリちゃんはまだ圭一がジンケイだって知らないんだよね
これでひとまずは良いだろう
あとは⋯おばあちゃん!
むう、こやつも憑依されているな?
どこの者だ!
分からないけど、標的は見えている
これは大したことない奴だ
やる!
私は指先にほんの少しだけ闘気を貯め、おばあちゃんに取り憑いているそれを撃った。
ジュッ!
瞬く間に憑依体が蒸発した。
おばあちゃんはキョトンとしている。
「お、おや?朝のお嬢ちゃん?いらっしゃい⋯」
今のはザコモヒカン辺りの転生体か何かだろう。
とりあえずこれで騒ぎにならずに済む。
(相手に触れもせず最小限の力で倒すとは、まさに暗殺拳そのもの⋯こやつますます手際が良くなっておる)
その一部始終を見ていたコウガとハクガが驚愕の表情を浮かべていた。
「なっ⋯!今のはまさか!」
「あれはまさしく救世主の技⋯!」
「ああ!間違いない!」
彼らは上気した顔でこちらに駆け寄り
私の前で膝まづく。
「救世主様!我らコウガとハクガ貴方様をお持ちしておりました!」
あ、これはヤバい
バロンムーブだ
「あーあのねーそういうのもう間に合ってるから!ははは⋯」
コウガとハクガは引き下がらなかった。
「いえ!我ら二人貴方様を今日までお待ちしていたのです!何卒我らを配下にお加えください!」
うーん困ったなー
女子高生がこんな成人男子を配下に加えていったいどうしろと。
良い話ではないか
こやつらを配下に加えれば図書室が使えずとも勉強の場に困らんではないか
⋯あ、確かに
でもおばあちゃんが微妙な顔してるよ?
「お前たち、この娘が気に入ったのかい?」
「はっ!我ら兄弟これよりこの方の配下に!そしてこの店をこの方の拠点に!」
「そうかい、この店はあんた達が経営してるんだ。好きにおし」
まだ許可してないのに話が進んでる
「しょうがないな~
私は二階堂マイ。
えっとコウガとハクガ?これから勉強会でちょくちょくお店に寄らせて貰うけど良いかな?」
「ははっ!マイ様の御心のままに」
こやつらバロンより重症かも知れん⋯
つづく




