7.言葉の誘惑-7
何がOKなんだ…
若干呆れながらも、部屋に入れる。
と。
「…なんだ?その荷物。」
「押し掛け女房です!」
「……帰れ。」
「あ。ヒドイ。フラないで。」
大荷物をゴロゴロ引っ張りながら入ってきた。
「あのな。俺、今日は忙しい。帰ってくれ。」
「………やだ。」
「やだ!?」
「やだからやだ!」
「武来。…頼むから。……男の独り暮らしの部屋に簡単に入ってくるな。」
「だって、夏目先輩だから安心です。」
(一番危険だろ!自覚してんだよ!)
「………帰れ。」
「いーーやーー!!離してください!!帰らない!帰らないです!!イヤだ!!」
ギリギリの理性を持って腕を掴みズルズル引っ張ると、足を踏ん張って抵抗し始めた。
しかも、みるみる泣きっ面になっていって。
「…先輩!見て!これを見て!パスポート!」
「…それがなんだ。」
「私も行くぅ!!付いていくんだから!!」
「………は?」
荷物と一緒に廊下へ放り出したところで、とんでもないことを言い出した武来。
また意味が分からず、固まった。
「スキあり!」
「あ。」
固まったのを見て、武来が部屋の中に入っていった。
溜め息を吐きながら、廊下に置かれた荷物を持って自分も中に入る。
「……武来サン?」
「はい。」
「付いていくって何?どこ行く気?」
「アルゼンチンです。」
「…クソ…孝太郎か!あいつ!」
「何で黙って行くんですか?」
「…お前が言うか。第一」
「私は付いていくって決めたんです!離れて行かないでください!全部のお話聞いて、やっぱり幻滅したんですか?」
「何でそうなるんだよ。俺の気持ちは言ったはずだ。幻滅なんかしてない。」
「だったらどうしていなくなるんですか?遠征とか嘘ついてまで。」
…いや。ちょっと待て。嘘ついてない。
何がどうなってるんだ?
「…なんか。喉乾いちゃった。…先輩。飲み物ください。」
マイペースだな…こいつ…
再度溜め息を吐き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取って彼女に渡す。
美味しそうにゴクゴク飲んだら。
「…うわーーん!!なんか悲しい!先輩が怖いくらい優しすぎる!」
「なんだよそれは!…なんでいきなり泣くんだ!まったく…」
「先輩!行かないでください!日本にいてくださいよぉ…」
「だから、試合があるって言ったろ。」
「私が悩んでるからイライラしてるんでしょ?だからって遠い外国で暮らすなんてあんまりです!」
「……は?暮らす?」
「先輩が好きです!でも、勇気が必要なんです!私にとっては人生がかかってると言っても過言じゃないんです!」
「武来落ち着いて。あのさ、暮らすって」
「なのに先輩は一人で逃亡しようとしてる!言い逃げです!卑怯です!」
「武来。俺の話を」
「だから私は付いていくって決めたんです!もう迷わないから離れないでください!」
「……だぁぁぁーー!!うるさい!!」
うん。
多分、根本的に何か間違えてる。こいつ。
時計を見ると、21時を回っている。
準備をして早目に寝ておかないと、時差ボケで試合に影響が出てしまう。
根本的に間違えてる話。
それからチラッと嬉しくなることも言ったな。
立ち上がって荷物を纏めながら武来に話し掛けた。
「お前、孝太郎から何を聞いた?」
「…先輩がアルゼンチンに行くって…私に話さないで行く気だって。会えなくなっても知らないよって言われました。そんなのイヤだって思って…」
やっぱりか!孝太郎のヤツ、確信犯!
「武来の早とちり。もしくは、孝太郎の言葉が足りない。それだけの話。」
「……へ?……って!騙されないですよ!行かせませんからね!」
「うわっ!…ちょっと離せ!」
「離しません!!」
(理性が持たねぇよ!クソ!)
急に後ろから抱き付かれてビックリ。
嬉しいって思ったりしちゃったじゃねぇか。
引き剥がして首根っこを掴まえて、元いた位置に座らせる。
そして、孝太郎にも見せた予定表を顔面に押し付ける。
「はい。遠征試合の予定表。それを見て。」
「やだ!」
「また言った。見ないことには話が進まねぇの!
…アルゼンチン、移動に二日。試合に二日。それで合計四日。その後はどこで試合って書いてる?」
「……アメリカ…?」
「そう。わざわざ日本に戻らない。アメリカの試合が終わったら、日本に帰国する。誰がアルゼンチンで暮らすんだよ。俺は遠征だと言ったはずだ。」
「……これ、本当ですか?」
「…全日本のマーク入ってるだろ。正式な予定表だ。本物です。」
「え。でも、孝太郎先輩が…」
「俺を信じて欲しいところですねぇ?武来サン?」
「…………」
どうやら、誤解が解けた様子。
そこでもう一度溜め息。
荷物を詰め終わり、武来を見下ろす。
目が合うと、ビクッと肩を揺らした。
「…お……女に二言はない!!付いていきます!」
「却下だ。」
「即答!?どうしてですか!」
「アルゼンチン、治安悪い。アメリカも。そして、俺たちは男子寮のような場所で寝泊まりするんだ。狼の巣窟。」
「…ケダモノ!!」
「そうだ。ケダモノ。そんなところに連れていけねぇだろ。」
「…あれ。でも、会えないって2週間だけってことですか?」
「…いや。そこは本当に会えないと思う。帰国したらISNの合同トレーニングが始まる。」
「…会ってくれないってことですか?」
「…今までのように時間がとれなくなるからな。お前がゆっくり考えるにはいいと思った。だから何も言わずに行こうと思ったんだ。」
しゅーん…と肩を落とした武来。
彼女の考える事を否定したんだから無理もない。
「…さ。送っていくから。行くぞ。」
「先輩、戻ってくるんですよね?私、今は一緒にいたいです!」
「……………」
はぁーーー。…もう限界なんですが。
本当に煽ってるとしか思えない。
タチの悪い小悪魔だ。
「………武来。」
「はい。」
「付いていくって決めた?もう迷わないから離れないで?そんなこと言ってたよな。
…俺のいいように解釈すれば、お前は腹を決めて、俺と付き合うって宣言してるんだけど?」
「…………!!」
「そう捉えてもいいわけ?」
「………ッッ。」
「男の部屋に簡単に入ってくるなと言っただろ。俺、理性限界なんだけど。付き合ってくれる?それなら俺はここでお前を押し倒すぞ?」
「……………」
ほら。もうガチガチ。
はぁーーー。何度目だ?この溜め息。
武来の腕を掴むと、玄関に向かって歩き出す。
だが。また抵抗。
足を踏ん張って動かない。
……ったく。もう一回脅すか。
「……勇。抱くぞ?」
「…いいよ。」
…………クソ!
……自爆した!!




