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道化師の思惑  作者: 水嶋つばき
5.別の誘惑
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5.別の誘惑-1

「それが、今朝のホームルームで退学したって言われて、驚いたんですよ。」

「退学?転校したの?」

「いえ。そんな話はなかったです。治療に専念するとか?そんな感じでしたけど。」

「どこ行ったとか分かる?」

「さぁ…担任に聞けば分かるかな?」

「一応、聞いてみてくれる?あいつ、来年サーカス団の移動が海外らしいんだよ。それで治療に専念なんだと思う。」

「分かりました。…何かあったんですか?」

「ああ。あいつの忘れ物。」

「そっか。じゃ、部活で。」


翌日、美作に聞いてみるも、退学したということで、教室は騒然となったらしい。

なんかあいつらしい。

何も言わずに去っていく。


「…颯汰。大丈夫?」

「ああ。」

「…ちょっとビックリ。」

「何が。」

「お前、取り乱すと思ってたけど、落ち着いてるなって思って。」

「まぁな。」

「………あ!!分かった!思い出した!」

「うるさい。」

「…まだ何も言ってねぇよ!」

「そうだよ!そうですよ!期待してますよ!これでいいか!?クソ!」

「何も言ってねぇって。……ふーん。そっかそっか。さすがだね。絆ってやつは。」


……そう。

仮に足取りが掴めなくても構わないと思ってた。

俺と武来には約束がある。


『優勝してメダルを首にかける』

『応援に行く』


ウィンターカップには、必ず会えると疑わなかった。

その約束だけが、今の俺を支えていた。

「大阪にいるらしいです」と、部活の休憩中に教えてくれた美作。


「なんか、そこに家があるらしく、専門医に詳しく診てもらうみたいっす。」

「そうか。」

「でも、住所までは分からないって言ってました。」

「いいよ。それだけ分かれば十分だ。」

「すみません。お役にたてなくて。」

「何で。十分だって。ありがとう美作。」

「……………」

「…どうした?」

「いや……先輩、雰囲気変わりましたね。」

「……は?」

「柔らかくなったって言うか…っと!!…すみません!失礼します!ごめんなさい!」


思わず水を溢してしまった。


「……なんだありゃ。」

「…ククッ!…可愛いねぇ。颯汰くん。」

「は?」

「誰かさんと別れて。誰かさんのことしか頭になくなったら、性格まで穏やかになるのな?」

「…そんなんじゃねぇし。」

「またまたぁ。駄々漏れだから。美作が気付くくらいなんだし。」

「……………」

「だから、はにかむな!!」

「……え。ごめん。」


ストレスまみれの生活がなくなり、自分のことだけを思えるようになれば、当然武来のことも頭から離れない。

ずっと武来の言葉を思い出していた。

俺を支えてくれた強烈な言葉の数々。

それがこの数ヶ月の間、俺の感情を癒してくれたのは言うまでもない。

その行動も。

すべてが俺の負担にならないように。

その笑顔で。

優しい気持ちにさせてくれる。

俺が昔、インタビューで語った言葉に感動したと言った武来。

バスケットを命と答えたそのインタビューは、俺も鮮明に覚えている。

あのときの俺は、バスケットだけが支えだった。

綺羅へのストレスがピークの時。

だから、バスケがなかったら、俺は生きる屍になっていただろう。

そうとは知らない武来が、あれを見て目を輝かせて俺を好きだと思ったと。

胸を張って生きてなどなかったのに。純粋にそれを受け止めた武来が凄いと思った。

今になって、その時の武来の言葉がよく理解できている。

毎日、いつ死ぬか分からない状況に怯えながら、胸を張って生き抜くと思ったんだろう。

最後の、命が尽きる最期の瞬間まで。

だから、一生懸命俺にぶつかってきたんだ。

やり残して後悔しないように。

胸を張って生きるために。

でも。


(俺はお前と生きたいんだ…武来…)


それだけを願う。

大阪にいると分かっても、行く気はなかった。

ウィンターカップまで、お前の望んだ俺の生き方を貫こうと思った。

バスケットが好きで。魅了されて。

俺がバスケに打ち込む姿に魅了された武来。

だから俺はバスケに集中すると決めた。

優勝するために。お前の好きな俺でいるために。

それまで身体を大事にして生きてくれ。

初めて傍にいて欲しいと俺が願った女。

必ず会えると信じている。


「おいキャプテン。早くミニゲームするぞ。」

「うわ。はい!集合!!」


そう思いながら、必死に部活に打ち込んだ。

部活後、公園のブースで孝太郎と1on1で汗を流し、3時間みっちりと内容の濃いバスケをした。

それから孝太郎の家に行って、シャワーを借りて飯食って帰る。

帰るのが面倒になったら、そのまま泊まっていったり。

両親が共働きで、単身赴任中の親父さんと看護師のお袋さんは、大体家にいないから、かなり羽を伸ばしていたりする。

3時間コースのときは、いつもその流れ。


「今日泊まるの?」

「んー。そうする。なんか疲れた。」

「そこの布団持っていって。俺、飲み物とお菓子持ってくる。」


孝太郎も慣れたもんで、泊まる雰囲気の時は直ぐに分かるらしく、客間の布団が出されている。

それを担いで、2階の孝太郎の部屋に行く。


「…で?颯汰。」

「ん?」

「大阪に行くの?」

「いや。行かない。」

「は!?行かねぇのかよ!だったらなんでわざわざ美作に聞いたんだ?」

「…諸事情により。」

「またワケ分からんことを…」

「…諸事情だよ!諸事情!!」

「何の事情だ!行ってこいよ!大阪!」

「いい。どうせ会えるって言ってるだろ。」

「……何赤くなってんだ。お前。」

「うるさいな。」

「………は?……お前さ。もしかして」

「うるさい。黙れ。」

「…わ…悪い……笑っていい?」


どうやら俺の心が読めた様子。

美作に聞いたのは、ただ、武来がいる場所だけでも知りたかったから。

武来の今を知りたかったから。

それだけ。


「…お前。笑いすぎ。」

「…いや…こんなお前を見るなんて…恋ってスゲーな。颯汰。……ククッ!」


もう、顔が熱くてしょうがない。


「俺だって戸惑ってるんだよ。」

「…何に?」

「分からない。…分からない自分に。かも。」

「何それ。」

「…武来のこと、あまり知らねぇ。ただ好きだってそれだけしかない。」

「それでいいんじゃねぇの?」

「よくない。あいつは俺のこといっぱい知ってるのに。俺は…ほんの少しだけで…」

「だから、それでいいんだって。勇ちゃんに惚れたきっかけさえ分かればいいんだよ。そうすれば、頭じゃなくて心で動く。」

「…なんか、いいこと言った。」

「だろ?俺の知らない勇ちゃんをいっぱい見てきただろ?お前だけにしか見せない勇ちゃんもいるはずだ。それだけ分かればいいんだよ。これからもっと知っていけばいい。焦るなよ。」

「…でも知りたい。」

「駄々っ子か!お前は!」


うつ伏せになって枕に顔を埋め、足をバタバタさせたらツッコミ入れられた。


「孝太郎。武来はちゃんと生きてるよな?」

「大丈夫だ。看護師さん、ピンピンしてたって言ったじゃん。」

「…でも、美作の話が本当なら、あいつは入院してるってことだよな。」

「そうだとしても、病院にいた方が安心だろ。きっと約束通り、元気に応援来てくれるよ。」

「そうだといいな。」

「よっしゃ!眠ろうぜ。」


真っ暗になった部屋で、ゆっくり目を閉じて、武来を思い出す。


『好きです。付き合ってください!』


この言葉を、俺は100回も聞いたんだ…

そう思うと凄い勇気と粘り強さ。

その台詞を、必ず俺が言うから。

それまで絶対に生きてて。


次の日から、俺はバスケに打ち込んだ。

武来に会ったとき、カッコいい俺を見せるんだ。

泣いたり

嫉妬に怒ったり

綺羅のことでイラついてたり

自分勝手に利用したり


(なんてガキなんだ…)


その他にもたくさん無様な姿を見せてきた。

それでも好きだと言ってくれた。

俺を救い、癒してくれた。

いつかあいつが言っていた。

俺の頭の中はバスケばっかりだと。

悪いか?って言ったら、『いえ、カッコいいです』と即答してくれた。

今は、違うよ。武来。

バスケに武来が加わった。

でも、今はバスケに集中して。

ウィンターカップに会えるまで、更にカッコよくなって見せる。

単純すぎて、バカな考えかもしれないけど。

俺は、最後に会った日の武来が頭から離れない。

相当な覚悟で言った告白だったはず。

100回というキリのいい回数を選んだあの日。

団の契約が終わる。学校を辞めなきゃいけない。

つまり、俺と離れなきゃいけない。

付き合っていれば、どこか繋がりを持てると思ってたはずだ。

あいつ自身、ストレス溜めていたのかも。

それなのに、俺はあっさり振ったんだ。

あの笑顔は、こうなるって分かってた笑顔。

冷静になればなるほど、手に取るように理解できてしまう。

単純バカだけど、武来を思ってくよくよするだけじゃダメなのは分かるから。


12月。

時間は早く進んでいく。

受験シーズンの真っ只中、就職組は、高校最後の戦いに挑む。

あるものは勝利し、あるものは敗退して幕を閉じていく。

高校生活悔いのないように全力を出しきって。

今度は、俺の番。

12月23日。

ウィンターカップが開幕。

その開幕戦一試合目を引き当てた俺。


「全員集合!輪になれ!」


新キャプテンは、この一週間だけ、俺にキャプテンとして仕切って欲しいと言ってきた。

俺は断ったが、後輩たちのために先輩の最後の勇姿を目に焼き付け心に刻むためだと。

それで来年からの糧になると。

本気で泣きそうだった。

厳しく接してきたはずなのに、後輩たちは俺たち3年のことを尊敬してくれている。

今まで共に戦ってきた仲間と円陣を組み、気合いを入れていく。


「とうとう始まったぞ。ウィンターカップ。俺を含む3年は、ここにいるレギュラーだけだ。なんとしても全国制覇したい一心で残ったバスケバカばっかりだ。絶対に勝つ。そして優勝するぞ!」

「おう!!」

「開幕戦第一試合。俺って神様だろ?」

「アハハハ!」

「あっちだってガチガチだ!今まで通りやれば勝てる!怖じ気付くな!」

「おう!!」

「ベンチ入り出来なかったやつらも全員一丸で戦うぞ!」

「おう!!」

「…っしゃ!!戦闘開始!!!」

「おぉーーー!!!」

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