第一章8 大妖精ルネ
第一章 記憶喪失
_いよいよこの時が来た。
今日はラァールクロウスの契約者を見つけに行く日だ。朝食はもう済ませた。
朝ステラは寝癖をアイロンで整え太ももまである長い髪を赤の生地に黒い一本線のボーダーが入った長いリボンでヘアバンドのようにしてから縛る。ステラは首から上の髪色が白でそこから下は右の分け目が灰色、左が黒という変わった髪色だ。灰色と黒が混じらないように真ん中を縛った後ピンで留める。
この可愛らしいヘアバンド式リボンは昨日部屋に戻る際トュリから貰った物だ。そして朝起きたとき雪乃ちゃんが部屋に来て「これ、トュリから」と相変わらずの無表情で私の衣服をわざわざ部屋へと持ってきてくれたのだ。トュリ、雪乃どっちがたたんでくれたのか衣服は綺麗に整えてある。貰った衣服は仕立て屋でトュリが頼んだらしい、常連のようだ。ステラは衣服をカーペットの上で一枚ずつ広げ、まじまじと目を輝かせ見つめる。
「え、可愛い」
それは世界で一つしか無いオーダーメイドの服だった。コートの前を留める黒い金属、裾は薔薇のような丁寧に刺繍が縫われており、小柄なステラを包み込むように膝まである長さの紅色フード付きロングコート。白い手の甲のとこだけ丸い穴が開いているグローブ。暖かい首ネックと同体の胸と肩が少々露出してる黒いトップス、袖が長い。黒い短パン、黒いソックスに黒いブーツ。黒三昧だ。トュリは自分と同じ真吸血鬼であるステラの為に寒さ防止として衣類の全てに体温が逃げないように作るよう頼んだのだ。ステラの大好きな赤と黒を意識した世界でたった一つの衣類だ。
「コートこれ前閉めたほうがいいのかな・・・」
衣類を全て拝見し終えるとコートの金具の事を気になり始めるステラ。しかしどうでもよくなったのか開けたままで全身鏡の前へ控えめに恐る恐る姿を現す。驚く事にサイズもぴったりだ。
「流石はお兄ちゃん、でもいつのまにサイズ測ったんだろう。」
それだけは考えるのを止めた。まだステラのベッドの上ですやすや眠っているラムを起こそうとする。
「ラムー?もう朝だよ起きてー」
起きない。
「ラムー!おーいラムー!」
「・・・ラム?」
寝ぼけ瞼を擦り、外の景色を一度見しステラの顔を眠そうに確認するラム。
「起こしちゃってごめんね」
「ラムゥ~・・・」
ふわふわと宙へ浮かびステラの手の中へ潜り再び目を瞑る。朝が弱いのだ。
「トュリ達のとこに行こう」
ドドドドドドドドドッ!!!!
廊下を猛ダッシュで走る人影がステラの目の前を横切り風を鳴らす。一瞬何が起きたのか目をパチクリしその影が向かった方向を確認する。
「またタバコ吸いやがって!!!」
「ちょちょちょッ!ギブ!ギブ!」
一週間前と同じ禁忌の行動を起こした宇宙。それに対し殺意マックス、弩怒りマックスで宇宙の首を絞めるシャルト、お互い水浸しの二人がそこにいた。
「雪乃もいい迷惑してるわ!!朝から忙しいってのに何してんのアンタはッ!お陰様で水浸しよ!タバコの煙と共に天に召されなさい!」
まだ首絞めてる。
「ヴッ本当にわリィ!許せ!天にまだ召されたくないっす!!グェッ」
死にかける宇宙。
「次は無いっていったはずよッ、さぁこれでようやく天国に_」
「おはようございます」
「「え」」
ステラがいつの間にいたのか二人揃って声を合わせる。
「おはようございます?」
今度は疑問系に二度挨拶するステラ。ようやく我に返ったのか首絞めを止めステラの前へ歩み寄るシャルト。勿論宇宙はご愁傷様状態。何回天国、いや地獄に行ったのだろう・・・。
「ステラちゃんいつの間にッ。おはよう、宇宙のせいで見苦しい所見せちゃってごめんなさいね。あまりにも無様過ぎてつい・・・さぁ行きましょう。」
宇宙は気絶したまま放置された。
「ところでそのお洋服似合ってるわステラちゃん」
「有難うございます」
少し照れながら頬を掻く。
「トュリが一生懸命考えてステラちゃんがいつ目を覚ましていいように用意してたらしいのよ、多分サイズは私が測ったから合ってるわね。」
「そうだったんですね、てっきりトュリがサイズ測りしたのかと」
「いくら兄妹でもアウトよ」
「ですよね」
朝から雑談をしていた二人だった。廊下歩く途中で尋が此方へ駆けつけて来て「宇宙さん何処行ったか分かります?」と宇宙を探してる尋にシャルトは「あぁさっき天に召されたばかりよ。処分しといて」と死んだ目で対応する。それに失言し再びシャルトの言うとおりに宇宙を探しに行った尋である。
「あーもう、水浸しじゃない。雪乃~乾かして」
「・・・」
無言で例の対応の物を乾かしたりする不思議な能力を使いシャルトの身に付けてるものや髪を完璧に乾かす。
「ところでトュリまた寝坊かしら。」
苦笑いしながら言うシャルト。ところが噂をしているとトュリが共同室へやってくる。
「今日は寝坊じゃないです。」
しぶしぶとトュリは痛いところを突かれたとうっすら苦笑いする。
「準備は出来た?」
「はい、後は乗るだけです。」
「さぁいきましょうか。」
午前9時半。アウル森前まで着いた。
「ここがアウル森_」
一般の森と変わらないが約100mくらい先からは森の木の高さがとても高い。
「あれは?」
「見て分かる通り途中で木が高くなってる森があるだろう?あそこからがアウル森だ。」
「へ、へぇ」
研究施設からステラ、トュリ、シャルト、宇宙、雪乃(運転手)でここまで長い丸のような白い車で来た。尋は研究所の留守番役だ。森の荒れた道、川などその状況に合わせて変化できる特別な車だ。
「もう少しでアイツが現れるはずだが」
「アイツって?」
「大妖精だ。」
アウルの森には森を管理する番人がいる、それが大妖精なのだ。
「大妖精に森に入る許可貰わないと道に迷って後々大変な事になる」
「めんどくさいものねぇ。争いはごめんだわ」
「何で許可を貰わないといけないの?」
何で森に入るのに許可を取らないといけないのだろう。
「アウル森の二つ名が迷いの森と呼ばれている。森には悪戯妖精と言って人間、もしくは森に入る者を嫌ってわざと魔法をかけ迷わせ最終的には殺す。だから森の番人に許可を貰って迷わないように保護魔法を掛けてもらうんだ。」
「まぁ私は争いが苦手なだけで本気出せば妖精なんて宇宙みたいに一発で逝かせてあげれるけどね。」
後ろにいる宇宙がやめてくださいという言葉を心にしまいつつも青ざめた表情をし顔を逸らす。
トュリの言う通り、もし許可を貰わず森に入ると悪戯妖精に殺されてしまう。決して妖精とは皆が優しくてほわほわしてる神秘的な生き物ではないのだ。肉食で時には人を食らう妖精もいる。実に恐ろしいとステラは肩を手で撫でる。
「ここであってるよね」
雪乃が言う。確かにここからは本当に木の高さが異常なくらい高い。ステラは初めて入るアウル森に少しだけ恐怖を抱きつつも興味深々でわくわくしている。
その大妖精とやらはいつくるのやら_
「久しいな、ウィリアムズ研究施設の者達よ。」
上からハスキーボイスの女性の声がした。
薄い緑と混じる白いショートヘア、白まつげに青と赤のオッドアイ、肌はステラよりも白く背は140あたりであろうか。胸から上まで露出した少し透明がかったレースのワンピースをふわりと踊らせながら芝生の地へ足を着く。
「ルネ_」
そう彼女が大妖精ルネール、通称ルネと呼ばれているアウル森の番人だ。
「ん?見かけない女がいるな?」
大妖精ルネはステラに顔を近づけまるで天然記念物でもみるかのように物珍しそうに下から上まで見つめる。
「_胸がでかいな」
「そこかよ!!お前と言い勝負できるぜ!」
宇宙がルネにナイス突っ込みをする。そして最後に余計な一言を言いシャルト、トュリに睨まれる。ステラも思わず目を点にする。
ルネはステラより遥に背が小さいのでルネは上目遣い状態で偉そうに腕を組み仁王立ちをしている、本人は無意識。
「こいつは僕の妹だ・・・」
トュリは宇宙に呆れたと言い一つため息をする。ルネは驚いた顔をする。
「貴様に妹なんていたのか」
「いたんだ。」
「そうか。改めて自己紹介するが私は大妖精ルネールだ。よろしく。」
「よ、宜しくお願いします!」
ステラは急いで一礼する。
「ところで本題に入ろう。私に用があって来たのだろう?」
「勿論だ、ここを通してほしい。」
何故森に入りたい?と理由をトュリにルネは問う。
「妹が記憶喪失でな、緊急でラァールクロウスの契約者を探している。色々あるんだ。話が長くなる」
トュリはルネに長い長い話をした。
「なるほど、小娘大変だな。ならよかろう通れ」
ルネはトュリの説明に納得しステラ達に保護魔法を掛けた。暖かな青い光が皆を包む。
「さぁ通れ、何かあったらすぐに私を呼ぶんだぞ。」
「あぁ、有難う。」
「し、失礼しますね」
トュリは低く手を振りそっぽ向いて車にのる。ステラはルネに頭を下げトュリ達の後をついて車に乗る。
「あ、あれ」
さっきまでいたはずのルネがいないことにステラが気付く、改めて本当に妖精なんだなぁと関心して前を向く。
「どうした?」
なんでもないと言いずっと手に抱えていたラムの頭を撫でる。
さっきまで森だらけで通る道もわずかだったのに森は両恥へ傾き私達に道を開く、保護魔法のおかげであろう。
そして何か手に違和感を感じた。
「_起きた?」
「ラム!」
「ふふやっと目が覚めたんだね。」
ラムは二度寝というやつをしたせいか凄く寝起きがいい。そんな可愛らしいラムをまたステラは撫でる。