表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お隣のふにゃふにゃ王子様  作者: まあちゃん
22/356

メジャーとSperanza

一週間後、綾子の自宅に事務所の社長と結城と相川がやってきた。

綾子から、プロになりたい話と事務所の人が来ると聞いていた両親と村上を通じて同席するように言われた由岐と綾子は緊張した面持ちで3人を出迎えた。

特に由岐は、まさか社長まで来るとは思っていなかったので、事務所が本気で綾子の才能をかって綾子を欲しがっていることにこの時初めて気付いた。

反対するだろうと思っていた両親も

「由岐に好きな事をさせて綾子にはさせないと言えない」

「由岐をここまで育ててくれた会社なら安心して綾子を任せられる」

と言って綾子が契約することに反対する事なく、契約書にサインをした。

多分、大学も4年でキチンと卒業出来るように配慮した活動をする事、ユキの妹としてでは無くて綾子個人の才能を必要としていると社長が伝えた事も両親と由岐を安心させたのかもしれない。


綾子が契約してから2週間ぐらい経ったある日、渉、隼人、誠は相川に呼び出されて事務所に集まった。

「ギターが決まったから紹介するって言ってたけど、どんな奴なんだろう」

と渉が心配そうに言うと

「相川さんが見つけて来たんだ。そりゃ、スゴい奴なんじゃない?」

と隼人は言うと

「まぁ、どんな奴が入るにしても、これでやっと俺たちも動き始めるな」

た誠は言った。

「悪い悪い。遅くなって」

と相川が渉たちのところにやってきた。

「相川さん。新しいメンバーはどこですか?」

と誠が聞くと

「あー、今日はちょっと来れなくなったんだ。それよりも急なんだけど明日からスタジオに入って曲作りとレコーディング始めるから」

と相川は言った。

「え?でも、曲は…」

と隼人が言うと

「お前たちが作ってきた曲から俺が選んだ曲と新しいメンバーが作ってきた曲」

と言って相川は綾子が2週間の間に作った3曲を聞かせた。

「…スゴいですね」

と隼人が言うと

「レベルが違いますね。こんな曲俺たちには作れない」

と渉が言った。

「何を言ってるんだ。これからお前たちもそれぞれの個性を出した曲を作れるようになるよ。何せ、俺がお前たちを育てるし、これからはメンバー同士の良いところを盗んで吸収して成長していって、いずれ清雅やボレロと並ぶうちの事務所を代表するアーティストになるんだよ」

と相川は言ったあと

「まずは明日からスタジオに入って曲作りとレコーディングだ。それが終わったら出来たCD引っ提げてライブ…。どんどん予定は入って来るからボケッとしてる暇は無いぞ」

と言って笑った。


次の日、スタジオに着いた渉に相川は

「渉は曲作りの他にボイストレーニングも受けてもらうから」

と言った。

「ボイストレーニングですか?」

と渉が言うと

「お前はいい声を持ってるけど、今の歌い方じゃ音量に限界があるし、間違いなく喉を痛める。腹筋をつける事とボイストレーニング。お前は曲作りと平行してやってくからな」

と相川は言った。

「それから隼人。お前は体力作り。ドラムはスポーツと同じ。もっと筋力あげて長時間のライブでもバテない身体作れ」

と相川は隼人に言った。

「誠は…」

と相川が言いかけた時にスタジオのドアが開き

「すみません。遅くなりました」

と男が声をかけた。

「あー、やっと来たか」

と相川が言うと、渉たちはこの男が新しいメンバーだと思ったが、どうみても20代半ばは過ぎてる男にどう接して良いのか迷っていた。

「そうだ。まだ紹介してなかったな。こちらは篠田幸弘さん。お前たちのマネージャー」

と相川が言うと

「篠田です。仕事の事だけじゃ無くても困ってることとか悩みとかあったら何でも相談して。お互い、言いたい事は言って遠慮無しにやっていきましょう」

と篠田は言ったあと

「で、早速だけど前に相川さんに宿題を出されてたと思うけど、新しいバンド名考えてきたかな?」

と言った。

「はい、いくつかの候補を3人で出したのですが…」

と隼人は言って一冊のノートを机の上に置いた。

「で、最終的に2つに絞ったんですが…」

と言って大きく丸をしてある2つの文字を指差した。

「1つはフランス語でいつまでもって意味のpout_toujoursプール トジュール)です。いつまでも忘れない、いつまでも続く、いつまでも一緒、いつまでも変わらない…。永遠って言うよりもいつまでもって言葉の方がよく使うし身近に感じる気がしました」

と隼人は言った。

「Pout_toujoursね…。いいんじゃない?」

と篠田が言うと

「で、もう1つは?」

と相川は言った。

「もう1つはSperanzaスペランツァ)です。スペイン語で希望とか望みって意味です」

と隼人が言うと

「Speranzaか…」

と相川は呟いていると、再びドアが開いて結城が入ってきた。

「結城さん。お疲れ様です」

と篠田が頭を下げるのに続いて渉たちも頭を下げた。

「いや、社長に捕まって。みんなも待たせたな。新しいメンバー連れてきたぞ」

と結城がスタジオに入るように促すと綾子が恥ずかしそうに入ってきた。

「綾子!」

と渉たちが驚くと

「お前たちを驚かそうと思い黙ってたんだけど、今日からメンバーに加わる綾子だ」

と相川が綾子の肩をポンと叩くと綾子は

「よろしくお願いします」

と頭を下げた。

「何、かしこまってんだよ」

と隼人がが笑うと

「そうだよ。やっぱり綾子がいなきゃな!」

と渉は嬉しそうな顔をした。

「綾子ちゃん、よろしくね」

と誠が手を差し出すと

「仲間なんだし呼び捨てでいいよ。私も呼び捨てするから」

と綾子は誠の手を握り

「こちらこそよろしくね。誠」

と綾子が言うと、篠田は手をパンと叩いて

「早速だけど、事務所はユキと綾子が兄妹と言うことは重視しない。バレた時はバレた時だけど、こっちからわざわざ公表するつもりはないから。お前たちの実力だけで勝負しよう。まぁ、すぐに清雅やボレロに並ぶうちの看板になるように事務所もサポートするから安心して活動してくれ」

と言ったあと

「実は相川さんと篠田にも聞いて貰いたい話なんだけど」

と結城は相川と篠田を見た。

「どうしたんですか?」

と相川が不安そうに聞くと

「実は今日、ゾロレコードと社長が話をして…君たちのデビューなんだけどインディーズじゃ無くて初めからメジャーデビューになったんだ。だから、明日からスタジオも変わるから」

と結城は言った。

「え?何で?ゆっくり育てるって…」

と相川が言うと

「ゾロの方も動画を見て探してたらしいんだよ。で、うちの事務所にいるって気付いてゾロからデビューさせたいって話が出てきたらしくて…。何度か話し合いをして今日決まったんだ。相川がプロデューサーとして育てることも条件に入ってる。向こうもボレロのプロデューサーとして相川と付き合いあるし実力も知ってるから、相川に全面的に任せるって言ってる」

と結城は言った。

状況が飲み込めてない渉たちは

「あの…相川さん。俺たち…」

と心配そうに言った。

「あぁ、ごめんな。そんな心配する話じゃないから。逆に嬉しい話だ。ビッグニュースだよ。お前たち、うちの清雅やボレロをはじめとする大物ミュージシャンが所属するゾロレコードからのメジャーデビューが決まったんだよ!」

と相川は言った。

「え?何で?」

「嘘でしょ?知名度も何もない俺たちが?」

と渉たちが信じられないと言う顔をしていると

「お前たち、自分たちのライブ動画見たこと無いのか?」

と相川は言った。

「ライブ動画?…そういえば、高校の時違うバンドの奴が連れてきた友達が俺たちのライブを撮って動画サイトに投稿したいって言ってたような…」

と隼人が言うと

「その動画を見たゾロレコードがお前たちをデビューさせたいって言ってきたんだよ」

と相川は言ったが渉たちはまだ信じられない顔をしていたので、篠田が持っていたモバイルPCを開いて動画を見せた。

「再生回数が今日までで15万回越えてる…。それから、ここに書かれてるコメント」

と篠田はコメント欄を見せた。

「え?『こんなにスゴい高校生初めて見た』『ライブ見に行きたい』『CD出してないの?』…」

「『ギターが半端ない。あれって女の子?』『いや、ボーカルもいい声だし上手い』『って言うか、全てが高校生レベルじゃない』…」

と渉たちがコメントを読んでると

「『地方にいるからライブ行きたいけど行けない…。デビューしないのかな?』『デビューして配信始まったら間違いなくダウンロードする』『俺はCD買う』…」

と篠田もコメントを読んだ。

「こんな夢みたいな事が…。本当に信じていいんですか?」

と隼人が聞くと

「信じられない気持ちも分からなくはない。けど、俺たちも事務所も君たちに惚れて期待してるから声をかけた。レコード会社も同じ。君たちに惚れて可能性を感じたから実績も何も無いのにメジャーデビューさせたいって言ってきたんだよ。…それに相川さんなんてお前たちを見つけた時に化け物を見つけたって目を輝かせて俺に言ってきたんだぞ」

と結城は笑った。


その後、再開とデビューの余韻に浸る暇なく、綾子たちは曲作りに取りかかった。

アレンジを相川も含めて5人で考え、その合間に渉はボイストレーニング、隼人は体力作り、綾子と誠は曲作りと歌詞作りをした。

あっという間に時間は過ぎて、レコーディングスタジオでの録音も始まった。

個々の楽器を別々に収録する経験も初めてで、みんな初めは緊張し過ぎて上手くいかなかった。

でも、回数を重ねる毎に自分たちの納得できる収録が出来るようになり、その中でもメンバー全員が納得出来る物を選びレコーディングを終えた頃には季節が1つ終わろうとしていた。

「俺たち、真夏なのに真っ白だな…」

と渉が言うと

「そうだな。今年の夏は日焼けするほど日差し浴びたこと無かったもんな」

と誠も言った。

「怒られることも多かったけど、こんなに充実した夏は初めてだったよ」

と隼人が笑うと

「何言ってるんだ。これからが始まりだぞ。11月のCD発売までに出来上がったデモCD持って挨拶回り。それと平行してライブもどんどんやってくからこれからもスタジオ通いだよ」

と篠田が言うと

「ライブやるんですか?」

と誠が嬉しそうに言った。

「メジャーデビューするって言っても初めからホールで出来る訳じゃ無いからな。お前たちは動画では話題になったけど、名前も知られてないしすぐに売れるとは思わない。地道にライブハウスでやってファンを増やし、それと同時にそれぞれの技術も上げていく。まだまだ修行中って事を忘れるなよ」

と相川が言うと

「もちろんやるよ。初めは見に来る人も少ないかもしれないけど、お前たちならすぐにライブハウス満杯に出来るようになるよ。頑張ろうな」

と篠田は言ったあと

「それから…バンド名なんだけど。さすがにもう決めないとヤバいんだけど、4人の意見はまとまったか?」

と4人に聞いた。

綾子たちは顔を見合わせて頷いた。

「Speranzaでお願いします」

と隼人は言った。

「どうしてSperanzaにしたんだ?」

と相川が聞くと

「綾子が入る前ギターも決まらないし、俺たちはやっぱりデビューなんて無理じゃないかって思ってて。でも希望を捨てないで頑張ってたら綾子が入ってきて夢が少しずつ近づいてきて…」

と誠が言うと

「私もみんなと一緒にやりたいって気持ちはあったけど、家族の事を考えるとやりたいって言えなくて、でも希望を捨てないでいたら風向きが変わってきて…」

と綾子も言った。

「希望を持つことってとても大切な事だと思ったので、Speranzaでやっていきたいと思います」

と隼人が言うと

「そうか。じゃ、今日からお前たちはSperanzaだ。事務所にも伝えておくから」

「Speranzaって言う名前は良くも悪くも常にお前たちについて回る名前だから。名前に負けないように頑張れよ」

と篠田と相川は嬉しそうな顔をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ