第4話:史上最強の「おもてなし」
「九条様、索敵網に反応。駆け出しの冒険者パーティー三名が、第一エリアに侵入しました」
ヴェロニカが端末のホログラムを操作しながら、淡々と報告する。九条は銀色の魔導端末を構え、画面越しに侵入者たちの装備をチェックした。
「……ふん、安物の銅剣に使い古しの皮鎧か。画に締まりがない。 だが、最初の『獲物』としては悪くない。ルル、準備はいいか?」
「おう! オレ様の恐ろしさを、アイツらにたっぷり教えてやるぞ!」
ルルはヴェロニカに整えられたばかりのパリッとしたマントを翻し、鼻の穴を膨らませた。しかし、九条が命じた「配置」は、玉座の間ではなく、ダンジョンの入り口近くにある小さな中庭だった。
一方、冒険者たちは緊張に震えていた。 「おい……ここ、不気味なくらい綺麗すぎないか?」 「罠もモンスターもいない……。逆に怖いわよ」
彼らが中庭に足を踏み入れた瞬間。魔法の照明がパッと切り替わり、柔らかな陽光のような光が差し込んだ。 そこには、小さな石のテーブルで、優雅に(本人は威厳たっぷりのつもりで)お茶を飲む二頭身の魔王と、その背後に立つ完璧な秘書。
「——遅かったな、人間ども。オレ様のティータイムを邪魔するとは、いい度胸だぞ!」
ルルが事前に九条から叩き込まれた「冷酷な魔王のセリフ」を放つ。だが、九条の指示はここからが本番だった。
『ルル、今だ。不敵に笑いながら、ティーカップを落とせ』
九条の通信が入り、ルルはわざとらしくカップを落とした。 ガシャン、と床に転がるカップ。ルルは「あ……」と素の表情に戻り、慌ててそれを拾おうとして、自分の短い足に躓いて転び、そのままコロコロと冒険者の足元まで転がっていった。
「「「…………えっ?」」」
冒険者たちが呆然と見下ろす中、ヴェロニカが音もなく進み出た。
「失礼いたしました。当ダンジョンの主は少々……その、『破壊的』に不器用でして。お詫びと言ってはなんですが、皆様に特製の蒸しパンと温かいお茶をご用意しております」
ヴェロニカが魔法でテーブルセットを拡張し、焼きたての香ばしいパンを並べる。 九条はその一部始終を、最高のカメラワークで配信に乗せていた。
『よし、ルル。そのまま涙目で冒険者の剣先を見上げろ。……ヴェロニカ、パンの蒸気越しにルルの瞳を映せ。不純物ゼロの「困り顔」だ。 10年経っても語り継がれる歴史的初対面になるぞ』
「……うう、クジョー……これ、カッコ悪いよぉ……」
ルルが半泣きで震える姿を見た瞬間、冒険者たちの手から剣が滑り落ちた。
「……なにこれ。攻撃できないんだけど。っていうか、なにこの生き物……尊すぎない?」 「魔王っていうか……精霊? 天使? ね、ねえ、一緒に写真撮ってもいいかな!?」
彼らの心から、戦意は一滴も残らず消え失せていた。 画面の向こうでそれを見ていたエルナは、猛烈な勢いでコメントを連投した。
【ダメ! その子に手を出さないで! パンを食べて早く帰ってあげて! 私も行きたい……!】
「……フン。攻略完了だ」
九条は端末を閉じ、満足げに呟いた。 「暴力による支配はいつか終わるが、『画』による支配は永遠だ。 ヴェロニカ、彼らからしっかり『入場料(魔力)』と『SNSへの拡散』を回収しておけ」
「かしこまりました。……ルル様、転び方が少々あざとすぎましたよ。次はあと2ミリ、自然な角度で転んでください」
「もう、オレ様最強なのに……恥ずかしすぎるぞーっ!」
二頭身の魔王は赤面しながら、結局冒険者たちに蒸しパンを配り歩くのだった。




