第十四話 待ち伏せ
ヒュッと風の鳴る音が聞こえた。
「きゃっ!?」
優に矢が刺さっている!
周りに人はいない。
どこか、建物から狙撃されたんだ。
「そこの扉に!」
わたし達は、とっさに建物の中に入った。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
矢は役目を終えて消えるが、ダメージは残っている。
「<ヒール>」
戦う場所として、街中は厄介だった。
さっきみたいに、漁夫の利を狙えることがあるかも知れないけど、遮蔽物の嵐だから、狙われると辛い。
「同じ事を考えてる人がいるんだね、二階から攻撃してくるなんて」
「右手の建物からだった?」
矢の刺さった位置から考えても、右側だ。
「うん。でも、もう移動してるかも」
相手も少数なのかな?
「スナイパーは、わたしたちのこと見てたと思う?」
「この建物に入るのは、見てたはずだよ」
相手が大勢なら、次にやってくることは……。
「……建物の出入り口を探そう」
調べてみると、入口の扉と窓がひとつある。
この部屋に追い込んだんだとすれば、突入があるはずだ。
「どっちから敵が来てもいいように、部屋の中心にいよう」
「うん」
ジリジリする時間が流れる。
聞き耳を立てていると、遠くから戦いの音が響いてきた。
そこに、ぽーんとSEが鳴ってメッセージが流れる。
「わっ!?」
「後五分で、戦闘エリアが縮小するぜ! ロケーションで確認してくれよな!」
「えええっ?」
ロケーションを使うと、街が四分割されていて、自分たちのいる区画が黒くなっていた。
「これって、このままここにいたらどうなるんだろうね」
「多分、死ぬとか強制敗退とかじゃないかな」
「じゃあ、移動しないと……」
でも、わたしたちは絶賛狙われ中だ。
また弓で攻撃されかねない。
「大丈夫かな?」
「相手も、移動してると思うけど……」
「じゃあ、わたしが先に外に出るね」
「うん、すぐ治すから」
一応、入って来たドアではなく、違う通りに出る窓から出て行く。
「…………」
大丈夫……かな?
すると、大気を切り裂く嫌な音が聞こえた。
弓だ。
でも、その矢はあらぬ方向に逸れていた。
完全回避だ。
「まだいる!」
「いいよ、もう突っ切ろう!」
優が窓から飛び出てきた。
「北に行こう!」
優が南を指さす。
「違う! こっち!」
恥ずかしそうにしながら、優が着いてきた。
わたしたちは、北に向けて走っていく。
その間に、2発撃たれたけれども、2発ともわたしに向けて撃たれたので、完全回避で切り抜けていた。
すると、大きな音がして、表通りを馬で走っていく人達が見える。
「ずるい! 馬なんて乗ってる!」
「いいから走ろうよ」
表通りは怖いので、裏通りを走っていく。
運が良かったのか、誰とも遭遇しないまま、ギリギリで北の区画に入り込んだ。
すると、また嫌な空気を切り裂く音が聞こえる。
「弓矢だ!」
この区画ギリギリのところで、待ち伏せを行っているパーティーがいるようだった。
今、この仕様を知ったばかりだろうに、すぐさま作戦を練って来るのは大したものだ。
「弓と魔法とスリング!」
相手は神官狙いのようで、優に攻撃が集中していた。
矢と魔法でダメージを負っている。
「また、建物に入ろう!」
優がダメージを受けているけれども、そのまま建物の中に入った。
すると、大きな盾を持ったタンクと、斧を持ったアタッカーが一階を守っている。
「くっ!」
狙い撃ちか。
相手の思うように動いてしまっている。
盾の光り方が違う、☆6装備かな? レベルが高そう。
「優は回復して!」
「<エクスヒール>」
1発で全快だろう。
そして、タンクが<ウォークライ>をした。
これで、五秒間タンク以外には攻撃できない。
でも、こういうときのスカウトだ。
「<オブストラクション>」
「なに!? スカウトだ!」
タンクの<ウオークライ>を<オブストラクション>で消す。
スカウトのオブストラクションは、有用だという情報が流れていたけれども、レベル5まで上げられる余裕のある人は少なかった。
「<スラッシュアックス>」
わたしは、それを完全回避する。
そろそろ、星海の武具の効果を使い切ってしまうかも知れない。
素で完全回避できなかったときに、完全回避を発動してくれるから、後何回大丈夫なのかはわからなかった。
「フェンサー、スカウトか!?」
わたしは、すぐに盾の横に回り込む。
「<クアドラブル・エアブレード>」
何度も試したけれど、わたしのクリティカル率は100%だ。
よほど、運に差のある相手じゃなければそうなるだろう。
鎧の隙間を狙った八連撃がタンクを襲った。
「スマン……」
タンクがそう言い残して消えていく。
「スカウトでその攻撃力!?」
「アーマーにはクリティカルだよね」
それを見たアタッカーは、不利を悟ったのか二階への階段に走っていく。
さっき攻撃してきた弓矢や魔法は、二階にいる後衛のものだろう。
合流しようというわけだ。
「<エクスヒール>」
アタッカーがもんどり打って倒れた。
強烈なダメージを負うと、こうなる。
わたしは、そのまま倒れているアタッカーにとどめを刺した。
「上に3人かな?」
「だと思う」
今の周囲のレベルだと、クリティカルすればほぼ一撃みたいだ。
耐久力のあるタンクでも一撃だから、間違いないだろう。
「弓と魔法と石だよね」
実際に食らった優が一番わかっている。
「じゃあ、階段を上るよ」
「うん! 行こう!」
二階に昇っていくと、当然というか、階段付近に敵が待ち構えていた。
魔法系と弓系と神官系だ。
一本伸ばしではなく、ちょろっと何かかじっているかも知れない。
「<セイクリッドヒール>」
「うっ」
「なんだ!?」
やっぱり、ヒールでダメージを食らうと混乱するっぽい。
「<ストーンブラスト>」
おっ!? 精霊魔法!
魔法がわたしに当たりそうになるけど、それはかき消された。
一日10回の魔法を打ち消す、星海の武具の効果だ。
「……!?」
じゃあ、敬意を表してシャーマンを倒そう。
「<クアドラブル・エアブレード>」
8連撃のクリティカルを食らって、精霊使いは消えた。
「<エクスヒール>」
神官が、弓系をヒールで癒す。
そして、弓系はわたしを狙って技を繰り出してきた。
「<トリプルスナイピング>」
3発か!
でも、わたしはそれを全て完全回避した。
「なにっ!?」
完全回避も、かなり高確率のようだ。
弓系が驚愕している。
「<エクスヒール>」
「ぐうっ!」
謎の回復攻撃を喰らって、弓系も消えた。
元々の体力が低かったのか、エクスヒールだと一撃のようだ。
「終わりだよ」
神官ひとりになるけど、杖を構えもしない棒立ちだった。
強制ログアウトしたかな?
「もしもし?」
ログアウトしてるっぽい。
「殺されるのわかってるなら、逃げるよね」
ログアウトしても、15秒はそのままアバターが残る。
それをさくっと倒して、わたし達はざっと20人をキルしていた。




