第十三話 漁夫の利作戦
「砂緒はやらせない! <セイクリッドヒール>!」
「なにっ!?」
「ぐわああぁぁっ!」
神官らしき姿の優が、セイクリッドヒールでダメージを与えてきたことに、相手は混乱していた。
pvpに慣れているほど、予想外な動きなんだろう。
セイクリッドヒールは範囲回復だから、ダメージも範囲ダメージになっていた。
「ヒールで攻撃!? なんだこれは!?」
相手が驚いているのを見て、わたしはちょっと落ち着いてきた。
陣形を組むように、盾役が前に出て来るのを見逃さない。
わたしは、盾の横に回り込むようにしながらスキルを放つ。
「<クアドラブル・エアブレード>」
4連撃×2回攻撃の手数技だった。
タンク相手には、一撃が重い攻撃の方がいいんだけど、その全てがクリティカルになるなら話は別だ。
一瞬で8回クリティカルを食らったタンクは、盾と一緒にデータの藻屑と消えた。
「フェンサーだ! 魔法で落とせ!」
相手のリーダーは、焦りながらも的確に指示を出している。
多分、初めて見た技だと思うけど、pvp慣れしてそうだ。
「<ナイトブリンガー>」
アタッカーらしき大剣使いが攻撃してくるが、その攻撃があらぬ方向に逸れた。
完全回避だ。
「完全回避か! 高レベルだぞ!」
アタッカーが叫ぶ。
魔法使いらしき人が、短い詠唱で魔法を構築する。
「<バインドアイス>」
攻撃魔法じゃ無くて、状態異常できたか!
やっぱりpvpに慣れている!
わたしの足下が氷り始めるけど……星海の武具の効果で一日10回は魔法無効だった。
「えっ!? レジスト!?」
氷が消えてしまう。
そして、相手の神官がアタッカーのダメージをヒールで癒していた。
リーダーらしき双剣使いは、ポーションで回復している。
この人は、魔法も使いそうだな。
「<セイクリッドヒール>」
そこに、もう一発、優のセイクリッドヒールがぶちかまされた。
優は回復魔法系のスキルをいっぱい取っているので、ダメージがえぐいことになっている。
「連続で!?」
相手のリーダーが困惑している。
<セイクリッドヒール>は、技の隙、いわゆるディレイが長い魔法だから、連続してきたことに驚いたんだろう。
神罰の杖の効果で、ディレイが短くなっていた。
初見殺しだったかも知れない。
回復していなかった魔法使いと神官が、データの藻屑になった。
「くそっ! なんだこれは!?」
アタッカーが毒づいている。
でも、わたしは、もう魔法を唱え終わっていた。
「<ワルキューレブラスト>」
残っていたふたりを、ワイドショットな精霊魔法で倒す。
リーダーらしき人は、こんな馬鹿なという顔をして消えていった。
これで5ポイントかな?
「やったー! 砂緒ちゃんやったよ!」
「いえーい!」
ハイタッチする。
ちょっと緊張したけど、初戦はやり過ごせたようだ。
「いけるよ! この杖すごい! 回復力がすごくアップしてる!」
「良かったー、いきなり敗退かと思った」
優の攻撃が上手くはまっている。
相手の前衛のHPでも半分は削れていそうだった。
「でも、これだとすぐに相手がいなくなりそうだね」
生き残ってもポイントが低い感じかな?
まぁ、それでもいいんだけど。
「じゃあ、思い切って大通りに出てみる?」
「ううん、ダメダメ! 大通りは乱戦だろうから、このまま路地裏で待ち構えようよ!」
「ちょっと聞き耳してみる」
スカウトのスキルである聞き耳をすると、聴覚が鋭くなる。
小さな音や遠くの音を聞くのに便利だった。
「あんまり……大通りに面したところでは、戦闘が行われていないかな?」
「みんなそこまで行き当たりばったりじゃないんだね」
戦闘の音は、カンカンキンキンと聞こえてくるから、人はいるんだろう。
「この辺にも人がいるだろうから、探しに行こうか」
「待ち構えているのかな?」
「バトルロイヤルの基本は、戦わないで待つことだと思うけど、ポイント制だからなぁ」
「建物の中に入ろうか?」
アイテムとか落ちている可能性はある。
一旦隠れるにも都合がいいだろう。
「待って! すぐそこで戦闘が始まった!」
「……っ!?」
優が、耳を澄ますようにしながら黙り込む。
そして、ウンウンと頷いていた。
わたしは、そっちの方向を指差す。
優が、指で丸を作った。
漁夫の利作戦だ。
相手が傷ついているところを狙おう。
「ウォークライ!」
「エクスバーン!」
戦いが始まっている。
わたしは、近くの建物を指さした。
中に入って、窓から魔法で攻撃しよう。
優は理解したようで、わたしに着いてくる。
「二階に昇ろう」
「ちょっとずるい作戦だけど、ドキドキする」
階段を上りながら、そんなことを話す。
そして、戦いがある真上の部屋から下を覗いてみた。
わたしたちには気が付いていない。
やるなら今だ。
優と頷き合う。
「<セイクリッドヒール>」
「<ワルキューレブラスト>」
「ぐわあぁぁっ!」
「なんだっ!?」
いっぱいいた敵が、タンク二人だけになっていた。
呆然とお互いを見ている。
わたしは二階から飛び降りると、元気そうなタンクの方を攻撃する。
「<クアドラブル・エアブレード>」
タンクが、その場で塵になった。
残りは一人だ。
「くっ! 汚いぞ!」
「だって、バトルロイアルだよ?」
「<エクスヒール>」
「ぐわあああっ!」
残ったひとりも、優の魔法にやられて消えていった。
10ポイントくらい入っただろうか?
現在の順位とかは見られないみたいだ。
優も、わたしの真似をして二階から飛び降りてくる。
「おっとっと」
ちょっとよろけるのを助けた。
「危ないよ」
「あはは、ありがとう」
割と順調なんじゃないだろうか?
たまたまという部分もあるけど。
「路地裏が迷路みたいになってるから、足音で探そうか?」
「この作戦で行ってみよう」
わたしたちは、足音を殺すようにして路地を走り始めた。




