忠告
「先生……」
穏やかな笑みを浮かべたまま、こちらを見つめる錬金術師。
それの眼差しを受けながら、半ば無意識に呟いた。
「先生がなんでここに……」
「勇者、お師匠様と知り合いなの?」
魔法使いの問いかけに、勇者はハッと我に返った。
目の前にいる相手を、知ってはいる。
だけど、それは勇者ではなく、『俺』だった。
「いや……」
だが、何と答えていいか分からず、お茶を濁した。
「魔法使い」
そんな勇者と魔法使いの会話に、錬金術師は割り込んだ。
「少し彼と話がしたい」
「何をするつもりですか」
「何もできない。分かっているだろう?」
「……」
魔法使いは警戒心を剥き出しに、錬金術師を睨みつけた。
だが、錬金術師は笑みを浮かべたままだった。
数秒も続かなかった。
「勇者、気を許しちゃダメだから」
「え、おい……」
引き留める間もなく、魔法使いはいなくなってしまった。
移動魔法を使ったのだろうか。
「勇者君」
平穏を体現したような声が耳に届く。
「何か私に聞きたいことがあるんじゃないのかい?」
「……」
どうやらお見通しのようだった。
存外侮れない人かもしれない。
それを念頭に置きながら、勇者は注意深く言った。
「俺は、貴方に会ったことがあります」
「……」
「といっても、それは俺じゃなくて、『俺』なんですが」
この説明だと分かり辛い。
だが他に言いようがなく、勇者は説明を続けた。
「俺は夢の中で、貴方を『先生』と呼んでいて、それで……」
夢は既に朧気で輪郭を伴わない。
「すみません、うまく説明できなくて」
何故か謝っていた。
世界を危険に陥れた相手に向けて謝罪の言葉などいる筈もないのに。
「分かるよ」
顔を見れば、錬金術は笑みを浮かべていた。
穏やかさはそのままに、笑みの種類が違う気がした。
「分かるさ……」
ほっとしているような、嬉しそうな、
それでいて心苦しそうな、
いろんな感情が混じり合った表情だった。
新鮮な気がした。
勇者の周りにいる人達は個人差はあっても、感情は面に出し、
喜怒哀楽がはっきりとしていて、
表情を読み取るのに、時間はかからない。
だからだろうか。
『魔女』や『錬金術師』など複雑な感情を持つ相手に、
興味を持ってしまうのは。
「先生……」
「君に伝えたいことがある」
思わず呼び掛けた時、錬金術師は勇者に言った。
「私はできれば、君を助けたい」
「は……?」
「それは彼女もそう思っている筈だ」
助ける? 勇者を?
誰から? 何から?
「だが、君がこの世界に居たいなら、無理強いはできない」
「何を言って――」
「忠告だ。世界を守りたいなら、『魔女』にはもう会わない方がいい」
真剣な眼差しで、錬金術師は勇者を見据えて言い放った。
「彼女は君の為なら、世界を壊す」
その意味は鮮烈で、どうしようもなく勇者を混乱させた。
「……なんで」
――君の為なら。
つまり、『魔女』が村を滅ぼし、国を滅ぼし、大陸を滅ぼし、
隊員を、仲間を、殺しているのは、
全部全部、勇者の為なのだ。
たったそれだけの為に、世界を滅ぼそうとしているのだ。
「なんで、あいつがそんなこと――」
「君の為だよ」
「俺はそんなこと望んでなんか――」
「望んでいないなら、会わなければいい」
その声はどこまでも穏やかで、勇者は困惑と怒りを滲ませた。
「そんなことできる訳ないだろ」
「……」
「魔女を討たないと、世界は――」
「本当かい?」
「え」
「本当に、君は、彼女を、『魔女』がいなくなればいいと?」
言葉に窮してしまったのは何故だろうか。
「いいことを教えてあげよう。この世界で君が望んで叶わないことなんてない」
「は?」
「君が望まないことは起こらない。ここはそういう世界だ」
「何を――」
「事実だ」
穏やかな声音が断言する。
「試しに何でもいい。望んでごらん。結果は後から付いてくる」




