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大罪人

「『    』君」


 ――また、この夢だ。

 度々見るせいで、夢を妙に冷静に見ることができるようになってきた。

 ただ、この夢は夢だと認識しても、現実に戻ることはできない。


「いつものを出しておくから」


 優しげで、穏やかな声が耳に届く。

 誰だろうか。この人は。


「はい、ありがとうございます。先生」


 勇者の疑問に答えることなく、『俺』は『先生』に礼を言った。

 不意に、『先生』と目が合った。


 声と同様に、優しげな目尻には苦労と疲れが滲んでいる気がした。



* * *



「錬金術師に会いに行く」


 翌日、開口一番魔法使いがそう言った。


「私の魔法が感知しないなんて絶対おかしい」


 どうやら魔法使いも薄々感じていたらしい。

 だが、錬金術師に会うとはどういう了見か。


「魔法使い様、錬金術師に会うとはいったいどのような」

「あの人だったら、答えてくれると思うから」


 その割には、苦々しい声音で、嫌悪を隠そうともしない。

 勇者を含めた隊員たちに何も言わず、移動魔法の術式を展開する。


「魔法使い」

「勇者?」

「……昨日は悪かった」


 謝罪すれば、何故か魔法使いはきょとんとした。


「昨日?」

「ああ」

「何が?」

「え――」


 心から不思議そうな顔で、魔法使いは勇者に聞き返す。


「昨日、何かあったっけ?」



* * *



 空に届きそうなほどの塔がある。


「魔法使い様、ここは――」

「皆はここで待っていて」


 喘ぐような、恐怖が滲んだ声が、あちこちから漏れ出ている。

 隊員たちの物だった。


「ここからは、私と勇者で行くから」


 念のためと言いながら、隊員達の周囲を防御魔法で覆い、

 魔法使いに連れられるがまま、勇者は階段を登っていく。


「魔法使い。ここは――」

「私のお師匠様なの」


 不意に魔法使いは呟いた。


「ここはお師匠様が出られないよう、魔法が使えない特殊な場所」

「だから、お前も使えないのか」

「そういうこと」

「けど、お前の師匠がなんでこんなとこ」

「決まってるじゃない」


 断言して、魔法使いは振り返る。


「ドラゴンに与して解き放った、大罪人だからよ」



* * *



 永遠にも思えるほど、長い階段を登りきれば、

 牢屋に囚われた誰かがいる。


「……やぁ」


 柔らかな声音が耳に届く。


「お久しぶりです、お師匠様」

「……ああ、魔法使いか。久し振りかな?」

「約百年ぶりです」

「そんな時間になるのか……」


 感慨深そうに、呟く錬金術師――大罪人と不意に目が合う。


「……魔法使い。そちらの方は?」

「……この人は」

「――先生?」


 魔法使いの言葉を遮るような形で、勇者は言った。

 殆ど無意識にも近かった。


「先生ですか?」


 驚く魔法使いに気付かぬまま、震える声で呼ぶ。

 目を見開いた錬金術師は、そのまま目尻を和らげる。


「ああ……久しぶりだね」


 苦労の滲んだその顔は、

 夢で出会った『先生』と全く同じ顔だった。

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