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Real World~本当の僕ら~  作者: 新橋うみ
松原龍介編
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プロローグ

『題名:面白そうな依頼、発見っ!

 送信者:亀田 麻子

 内容:

 『依頼・大物モンスターを討伐せよ』

 ダンジョン「天空に浮かぶ孤高の高原」にて、巨大なモンスターが出現した!

 詳細は不明。その厳ついモンスターの目撃情報が、多発している。

 一般PCへの被害も、あるようでないような状態だ。

 どうか、キミたちの力で討伐してほしい! 頼んだぞ!

    カテゴリー・討伐依頼

    報酬・受付所にて』


 ねぇねぇ。こんな依頼見つけたんだけど、面白そうじゃない?

 いつもみたいにさ、あたしと松原君と由梨、三人でパーティ組んで行こうよ!

 実は今日、夜からギルドの集会があるんだけど、それまで時間が有り余ってて暇なんだー。

 今から『ワールド』いって、例の掲示板の前で待ってるから。

 早く来てね! じゃあ!』



「……て、なんだよそれ」


 目の前のパソコン画面に表示された新着メールに、俺は苦笑した。

 送信者が亀田と知った時点で、誘いのメールだろうな、ということは想像ついていたけれど。

 ――やれやれ。首を振りながら背もたれに身体を預けると、椅子がきぃと鳴った。

 ふと窓の外を見れば、オレンジ色に輝く太陽が山の向こうへ隠れようとしていた。


 俺はデスク上のパソコンの横に置いてある、『ワールド』専用ヘッドホンへと手を伸ばした。

 音楽専用のヘッドホンとは違って一回り小さいそいつは、一年経った今でも黒い光沢を放っている。耳に当てるスピーカーは付いてなくて、その部分は耳にかけられるような輪っか状になっている。

 ちょうど頭の天辺に当たる上部には、小さな四角い箱型のものが取り付けられている。最先端の小型コンピュータだ。こいつが、プレイヤーの身体をすぐさま睡眠状態にし、更にその意識を全てオンラインゲームへと飛ばしてくれるのだから驚きだ。


 さっそくそのヘッドホンを頭に装着した時、机に置いてあったスマホが光り出した。通話だ。

 送信者は――『藤川 由梨』。

 少しだけ跳ねた心臓を押さえながら、慌ててスマホに手を伸ばした。


「も、もしもし?」

『もしもし? 龍介君?

 ねぇ、麻子ちゃんからのメール、見た?』


 あどけなさが残る甘い声。

 間違いなく、クラスメイトの藤川からだった。


「あ、ああ、見たよ。討伐依頼の御誘いメールだろ?」

『うんそれ! 龍介君、行くよね?』

「まぁ……断る理由もないしな」また苦笑が漏れた。

『本当? 実はね、私、家の用事でちょっと遅れるかもしれなくて。

 もし早めに龍介君があっちに着いたら、麻子ちゃんに伝えてくれないかな? 遅れるかもって』


 ああ、分かったと返事したら、ありがとう、それじゃあねと言った後に通話が切れた。

 未だに耳の中に残る藤川の声を胸に仕舞うように大きく深呼吸し、スマホを机の上に置いた。


「……さて、と」


 背もたれから身体を浮かし、パソコン画面を凝視する。

 画面には、世界で有名なオンラインネットゲームのWEBサイトが表示されている。

 俺は頭の中で念じるようにマウスを動かし、一番右端にある大きなボタン、『ログイン』へとポイントを合わせる。

 

 クリックする前に、俺は机の上で腕を組んでその中に頭を沈めた。いつも『ここ』へインするときの格好だ。

 次に目を閉じながら、頭の中でログインのボタンをクリックするように、念じた。



 意識だけがぐいと引っ張られるような感覚。ふいに背後から驚かせられた衝撃に似ている。

 そして、まるで万華鏡を覗いているかのような、様々な模様や色が駆け巡る映像が否応なく展開される。


 しばらくすると視界は真っ白に塗りつぶされた。その真ん中に、小さな穴が空いたような黒い点が出来る。

 俺は迷いなく、そこへ向かって手を伸ばす。

 実際に伸ばすのではなくて、そんな「イメージ」で。


 徐々にその穴が広がっていく。

 黒い点が楕円形になり、やがて両手を広げた程度の大きさになった。

 中ではどこかの街並みが見えている。いつも見慣れている風景。

 俺はゆっくりと、その中へ一歩を踏み出した。


 ※


 急速に開いていく視界の中で最初に飛び込んだのが、煉瓦で埋め尽くされた地面。そこに映る、銀の甲冑を纏った自分の足。

 一歩動かしてみる。かちゃりと音がした。足の裏からは確かに、地を踏む感覚が伝わってくる。

 次に両手を見た。ゆっくりと握ったり開いたりして、その感触を確かめる。

 試しに深呼吸を一つ。肺から空気が抜けていくのも、きちんと把握できた。


 確かに俺は今、『ここ』にいるんだ、と思った。

 オンラインネットゲーム、『Real World in Online』に。


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