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追放された荷物持ちの最強物流無双〜役立たずと笑われた空間転移と収納魔法で商会を立ち上げ、分断された世界を救う〜  作者: 黒崎 隼人


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エピローグ「宛名のない手紙と、終わらない旅の始まり」

 春の柔らかな日差しが、王都の目抜き通りを黄金色に染め上げている。

 郵便商会の新しい本店ビルは、白亜の壁と大きなガラス窓を備え、街の新たな象徴として堂々とそびえ立っていた。

 正面玄関からは、商会の制服に身を包んだ配達員たちが次々と飛び出していく。

 彼らの手には、世界各地へ届けられる大切な手紙や小包がしっかりと抱えられていた。

 ルークは最上階の執務室の窓から、その活気ある風景を見下ろしている。

 最果ての荒野での決戦から、すでに五年という歳月が流れた。

 世界を分断していた虚空の亀裂は完全に消滅し、次元の海は静けさを取り戻している。

 郵便商会は今や大陸全土に支部を持つ、世界最大の物流組織へと成長を遂げていた。

 執務室の分厚いオーク材の扉が乱暴に開き、レオンが書類の束を片手に踏み込んでくる。

 彼の真紅の瞳は相変わらず鋭いが、目元には以前にはなかった穏やかな笑い皺が刻まれていた。


「ルーク。南の港町への定期便だが、護衛の数を少し増やした方がいいかもしれない。最近、街道沿いに大きな猪の魔獣が出没しているらしい」


 レオンは書類を机に放り投げ、窓際の長椅子にどっかりと腰を下ろす。


「わかった。人員の配置はお前に任せるよ。レオンの指導を受けた連中なら、猪くらい軽くいなせるだろうけどな」


 ルークが苦笑しながら振り返ると、レオンは鼻で笑って腕を組んだ。


「当たり前だ。俺が鍛えた奴らが、あの程度の獣に遅れをとるはずがない。それより、今日はお前たち、出かけるんじゃなかったのか」


 レオンの視線の先で、執務室の奥の扉が静かに開く。

 淡い青色のワンピースに身を包んだアリアが、小さな革の鞄を提げて歩み出てきた。

 銀色の髪は綺麗に編み込まれ、彼女の白い肌をより一層引き立てている。


「お待たせいたしました、ルーク様。準備が整いました」


 アリアが微笑むと、ルークは大きくうなずいて机の上のコートを手に取る。

 今日は商会の仕事を各支部長とレオンに任せ、ルークとアリアの二人だけで出かける約束をしていたのだ。

 ルークはレオンに片手を上げ、執務室を後にする。


「留守は頼んだぞ、レオン」


「おう。怪我だけはするなよ」


 二人は王都のざわめきを抜け、人けのない郊外の丘へと向かう。

 若草の香りを運ぶ風が、アリアの髪を優しく揺らす。

 丘の頂上に着くと、ルークは立ち止まり、アリアに向き直った。


「アリア。今日行きたい場所の座標は、ずっと前から決めていたんだ」


 ルークはそう言いながら、そっと右手を差し出す。

 アリアは彼の意図を察し、迷うことなくその大きな手のひらに自分の手を重ねた。

 ルークが静かに目を閉じ、空間の座標を脳内に描き出す。

 空気がかすかに波打ち、足元の景色が音もなく反転する。

 視界が晴れた直後、アリアの口から小さな感嘆の息が漏れた。

 二人が降り立ったのは、かつて死闘を繰り広げた「最果ての荒野」だった。

 しかし、そこにはもう黒くひび割れた大地も、毒々しい瘴気も存在しない。

 見渡す限りの広大な土地は、青々とした草原へと生まれ変わっていた。

 名も知らぬ白い花が無数に咲き誇り、風に揺れて海のように波打っている。

 澄み切った青空の向こうには、遠くの連山がくっきりと稜線を描いていた。


「ここは……あのときの」


 アリアが信じられないというように周囲を見回す。


「ああ。亀裂が塞がった後、土壌を改良する魔法具と種を、世界中から少しずつ運んできたんだ。時間はかかったけど、ようやくここまで緑が戻った」


 ルークは草原をゆっくりと歩き出す。

 アリアも彼に並ぶようにして歩調を合わせた。

 靴の底で草が擦れる柔らかい音が、静かな空間に心地よく響く。

 ルークは草原の中央にある、少し小高い場所で足を止めた。


「俺は、荷物持ちとしてパーティーを追い出されたあの日から、ずっと自分の居場所を探していたのかもしれない。でも、アリアが俺のスキルを見つけてくれて、意味を与えてくれた」


 ルークはアリアの正面に立ち、彼女の紫水晶の瞳を真っ直ぐに見つめる。

 アリアの肩が小さく震えた。


「ルーク様……」


 ルークは懐から、小さな木箱を取り出す。

 彼自身の不器用な手で彫られた、素朴だが温かみのある箱だった。

 蓋を開けると、中には羅針盤の歯車を模した意匠の、銀色の指輪が収められている。


「これからは、仕事の相棒としてだけじゃない。俺の人生のすべてをかけて、君の隣を歩きたい。アリア、俺と家族になってくれないか」


 ルークの言葉は飾り気がなく、ただ純粋な想いだけが込められていた。

 アリアの紫水晶の瞳から、大粒の涙がとめどなくあふれ落ちる。

 彼女は震える両手で口元を覆い、言葉にならない想いを噛みしめるように何度も深くうなずいた。


「はい……。私でよければ、どうかずっと、そばに置いてください」


 かすれた声で答えるアリアの左手を取り、ルークは薬指にゆっくりと指輪を通す。

 銀色の金属が、彼女の細い指に冷たく、そして確かな重みを持って収まる。

 ルークは彼女の震える肩を抱き寄せ、その温もりを全身で確かめた。

 アリアもルークの背中に腕を回し、顔を胸元にうずめる。

 風が二人の周囲を吹き抜け、白い花びらを空高く舞い上がらせた。

 世界を繋ぐために走り続けてきた青年と、その道を照らし続けた職人の少女。

 彼らの小さな郵便商会から始まった物語は、ついに二人だけの永遠の誓いへとたどり着いた。

 宛名のない手紙のような、自由で希望に満ちた未来への旅が、ここからまた新しく始まっていくのだ。

 西の空がオレンジ色に染まり始め、草原に落ちる二人の影を、いつまでも長く寄り添うように伸ばしていた。

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