第9話 竜のゆりかご
そして、俺は……冒険家の父から聞いた話、という体裁で、この世界の成り立ちから、今起きてる事、そしてこれからの事を話し始めた。
洞窟のさらに奥へ進む道の手前、簡易キャンプが組まれ、焚き火を囲んで語り始める。
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この世界を作ったのは、「オブリビオン」――忘却のドラゴンと呼ばれる、全知全能の神。
しかし、気まぐれなその神の存在は、全ての始まりであるが、終わりでもあるのだ。
世界が荒れ果て、人々がオブリビオンへの崇拝を忘れようとするころに……
オブリビオンは目覚めて、7体のサーバントと呼ばれる召使いを操り、世界を破滅させる。そして、新しい世界を再び作り上げる。
それを、何万年、何億年続けたのだろうか。悠久の時を生きる竜の神。
※
――ちょっと、話が大きくなり過ぎてリアリティに欠けるな――シェリーたちも、ぽかんとしている。俺は慌てて、もう少し現実的な話に切り替える。前世の天才プランナー、作り話はお手のものだ。
今この世界は、目覚めたオブリビオンによって破滅に向かっている――冒険家である父が立てた、突拍子もない仮説。行方不明になった父に代わってそれを調査している、という体裁でペラペラと説明する。
そして、自分の体に起きている異変――特殊なスキルもそれに関連しているはず、と話す。
うん、我ながらうまくまとまった……かな?
ふと見ると……シェリーが涙ぐんでいる。
「シェリー?」
「……グ……グズ……リュウジ……そんな複雑な過去があったなんて」
「……え、ええ……」
「きっと、あなたのお父さんは、オブリなんとかの怒りに触れて、奈落の底に落とされたって事なのね!……グス、泣ける話だわ!」
カリオンも後に続ける。
「リュウジ! お前は邪悪な闇の王、オブなんとかを倒して、父親をその呪いから救おうとしてるのか。俺も応援するぞ!」
「は……はい……」
(え……ええと……とりあえず、方向性はあってるかな。なんか俺より想像力、スゴイ気がする……)
ちなみに、俺のリアル父親は市役所に勤める公務員だけどね……! ちょびっと罪悪感を感じつつ。
シェリーが木片を焚き火に放り込みながらつぶやく。
「とにかく、私たちはこの先に進む必要がありそうね。ここから竜のゆりかごまで、そう遠くはないわ」
今更だが……俺はどうしても聞いておきたい事があった。
「シェリー、カリオン、聞いていいかな」
「お? なんだ?」
「俺と……この先、一緒に行っていいのか?」
「……」
二人は顔を見合わせた。
「今の……俺のジョブはバーサーカー。また二人を危険な目に合わせるかも知れない」
カリオンは少し腕を組んで、考える。
「そうだが……しかし、もしこの先にロックゴーレムより強い敵がいるなら、むしろ俺たちでは手が出ない」
「そうね……一撃で倒したあの力を……何とか安全に使うコトを考えないとね」
「危険だ! ここで引き返せ……」
そう言おうとした所を、カリオンが遮る。
「俺たちの一族は代々、始まりの村、グリーンフィールドを守ってきた。ひよっこの冒険者を見捨てたりはしねえんだよ」
「……!!」
俺はこの時、なぜレベルの低いグリーンフィールドが標的になったのか察した。
――この村を潰せば、新しい冒険者が育たなくなる。
前世のゲーム内でも、あえてレベルアップせずこの村に留まって、新参者の世話をずっと焼いていたプレイヤーがいた。彼らには、感謝し切れない程の恩を感じている。
――この村を守らなければいけない。
そのためには、何としてもバーサーカーの力を制御しなければ。
「そろそろ、出発するわよ」
シェリーの号令で、キャンプの後片付けをしてから、洞窟の奥へと向かう。
◇◇◇◇
道中、時折バット系の敵に遭遇するが、難なく倒して進む。俺も剣を振るが、軽く振っただけで敵は霧散していく。どうやら、力を抑えていれば、自分を見失うことはないようだ。
ふとステータス画面を見ると、レベルが9に上がっていた。ロックゴーレムの経験値で、一気四段階のアップ。パラメータも全体的に上がり、ここではMODに頼らなくても十分通用する。
そして……やがて、少し狭くなった道を抜けて、一行はひときわ大きな空洞に辿り着く。
「……!!」
その雄大な光景に、思わず息を呑んだ。
天井から地底に向けて、地下水が無数の滝となって、地底へと流れ落ちる。その水流は岩肌を荒々しく削り取り、無数の切り立った岩山がそそり立つ。
そして……滝が流れ落ちる先、地底には澄んだ水をたたえた巨大な地底湖が眼下に広がっていた。
その湖の中央には……ゆらゆらと、浮かぶ島があった。むき出しの岩肌、茶色の世界で、その島だけが緑に覆われ、神秘的な光景を作り出している。
見上げると、天井の一部が開けて、外からの光が差し込んでいる。洞窟というよりは、巨大な穴の中といった方が正しいだろう。
――竜のゆりかご――それは、竜の神が住処として用意した……といっても過言でない、心地よさそうな空間のように見えた。
「すごい……」
思わず感嘆の声が挙がる。
「あれが、ファイアドレイクの寝床よ。行ってみましょう」
緩やかな斜面を選んで、慎重に地下湖のほとりまでおりる。周りを見渡すと、湖の一部が突き出ていて、そこから歩いて浮島に渡れるようだ。




