第11話 モノリス・ドラゴン
岩で出来ているとは思えないほどしなやかな動きで、モノリスが俺めがけて突進してくる。
ガキイン!
大きく開いた顎が迫る。咄嗟に剣を縦に立て、噛み砕こうとするカマ首を真正面で受け止めた。腕が、骨ごと軋む。
「耐えろ、リュウジ!」
対岸からカリオンたちの防御魔法が全力で送り込まれてくる。魔法の光が体を包み、かろうじて踏みとどまった。
「うがああああっ!」
腕の限界まで力を絞り込んで、モノリスを強引に弾き返す。
俺はわずかに残る意識をフル動員して、バーサーカーの能力を限界まで覚醒させた。再び迫るモノリスの前に仁王立ちになり、剣を上段に構える。
「STR……マックス、全力で叩くっ!」
真正面から、迫るモノリスの額をめがけて剣を振り下ろす!
その一閃で巨体が真っ二つに分かれ——次の瞬間、岩がぶつかり合う固い爆音とともに、無数の岩石となって四方へ砕け散った。
対岸のシェリーが叫ぶ。
「やった! 押し切ったぞ!」
しかしモノリスが崩壊すると同時に、浮島の地面がさらに激しく揺れはじめた。足元ではがらがらと岩が剥がれ落ち、島そのものが崩れ去っていく。
バーサーカーへの移行が進んだのか、意識がさらに遠のいていく。
「ほんっと、最低ね!…………さようなら」
ガイアのそんな声が聞こえた気がした。
そのまま……一度、奈落に落ちる感覚の後……
ふわりと、体が浮かんだ気がした。
※
その頃、対岸でシェリーとカリオンが声を枯らしていた。
「崩れる! 危ねえ!」
「リュウジ! 逃げてっ!」
無惨にも崩れ落ちていく浮島。その様子を、二人はただ見つめることしかできなかった。
「あ……あぶない、捕まれ!」
地鳴りが洞窟全体を揺さぶり、岩壁から岩の欠片が降り注ぐ。二人は壁にしがみつき、飛んでくる礫を腕で庇いながらやり過ごした。土煙と降り注ぐ岩石に、視界が奪われる。
やがて揺れが収まった。
土煙がゆっくりと晴れていく。ふと気づけば——浮島は跡形もなく消え去り、ただ澄んだ水をたたえた湖だけが、静かに横たわっていた。
シェリーが叫ぶ。
「リュウジ!……バカ!……クズ野郎!……レベル5のくせに!……無理しやがって……!」
両目からぶわっと涙がこぼれ落ちる。
「うわああん! バカ!……バカだよ……」
カリオンもうわごとのようにつぶやく。
「どこいったんだよ!……」
そして力の限り叫ぶ。
「さっさと出てこいよ! どこ隠れてんだっ!
バシャアアア……!!
次の瞬間、湖面が大きく跳ね上がった。
「……! なんだ!?」
さらにもう一度。
さらに大きく。
水しぶきが洞窟の天井近くまで舞い上がり、水面から何かが飛び出した。
燃えるような、鮮やかなオレンジ色のドラゴン!
大きさは人の背丈ほど。おそらく、ファイアドレイクの子供——!
「カリオン! 見て!」
シェリーが震える声で叫ぶ。
その小さなドラゴンの背中に乗るのは——
リュウジだった。
※
……
……深く冷たい地底湖の水が、バーサーカーの意識を追い出して、俺は我を取り戻す。
……そして、"俺の"意識は、再び薄れゆく。
激しく水の跳ねる音と共に、体中に空気の味がした。
「……こ……ここは……」
半身を起こすと、視界に飛び込んできたのは、鮮やかなオレンジの背びれだった。
小さなドラゴンが、俺を乗せたまま悠然と地底湖の上空を旋回している。湖面の光がドラゴンのうろこに反射し、洞窟の壁にゆらゆらと揺れる影を落としていた。
「こ……これは……」
岸からシェリーとカリオンが何か叫んでいる。声は聞こえるが、言葉が頭に入ってこない。
ドラゴンは一度、大きくばさりと翼を広げ羽ばたくと、そのまま滑るように湖のほとりへと着陸した。
「お……おおおっ」
視界がぐらりと揺れる。ふらつく体をなんとか支えながら、地に足をつけた。
「リュウジ!」
シェリーが駆け寄り、飛びついてきた!
「よかった……」
そしてカリオンとも抱擁を交わす。
小さなオレンジのドラゴンは、そんな俺たちをじっと見ていた。そして一度、大きく翼を震わせると、ふわりと飛び上がる。旋回しながら高度を上げて、やがて洞窟の奥の暗がりへと静かに消えていった。
シェリーがその背中を目で追いながら、ぽつりとつぶやく。
「ファイアドレイクの子供……かな」
俺には心当たりがあった。
かつてミニクエストとして、ファイアドレイク親子の絆を描いたシナリオを書いた記憶がある。ガイアは何らかの手段で子供を捕らえ、それを盾に親を操っていたのだろう。そのガイアを追い払った俺を、本能が「味方」と認識して助けたのかもしれない。
しかし——親であるファイアドレイクを倒したのは、他ならぬ俺自身だ。あの子には、そんな事情は知る由もないだろうが。
それは、せつない幕切れだった。
そして洞窟に静寂が戻る。ガイアは去った。少なくともしばらくの間、グリーンフィールドに平和が戻るだろう。
オレンジの小さな背中が消えた洞窟の奥を、俺はいつまでも見つめていた。
◇◇◇◇
俺たちは、ギルドに戻って、コトの顛末をクエスト申し込み書の裏に書き込み、申請をする。
次の新たなクエストに向けて、準備が始まる。
この世界を救うために。
◇◇◇◇
<ドラゴンサーバント商業化のお知らせ>
決定ではないので詳細はまだお伝えできませんが、商業化の企画が進んでおり、投稿サイトでの掲載は一旦、ここまでとなります。
発表できる段階になれば、X等でお知らせいたしますので、是非この続きも見て頂ければ嬉しいです。
ここまでお付き合い頂いた読者の皆様、ありがとうございました!支えて頂いた皆様のおかげで、商業化が近づいています。感謝と共に、気を引き締めて制作します。ご期待ください!
さくらまりお




