第93話
対面鏡越しで細かな契約の内容を詰めた後、無事にお互い納得できる内容になった。
どうやら、ジャン・バラさんが居るショーロ港湾都市は貿易で大きく発展している都市らしく、鏡の端に映る街並みや調度品などからかなり豊かなのが窺える。
『では、契約書の作製に入りましょう。作成と搬入で正式な締結は2か月後としましょうか』
「えぇ。こちらも問題ありません」
特に揉めたりすること無く、契約できそうだ。
契約書作成に時間が掛かるのは、こっちの世界の契約書も全部手書きで、おそらくだが上等な羊皮紙を用意する必要があるからだろう。
羊皮紙は書き損じると表面を削って修正するか最初から書き直しだが、貴族や富豪が使う契約書に使われる上等な羊皮紙は、表面を削って文字を書き換えたりしないようにワザと繊細で薄く作られた契約書を用意する。
修正痕一つない1発書きで書かれた契約書が信用されるからだ。
対面鏡での通話を終え、私は美容品類のレシピのを纏める。
実を言うと、リッシュさんが既に活版印刷機を作ってくれたので、コピーするだけなら割と簡単だ。
本当はもっと小さい、タイプライターが欲しかったが、造れないか聞いたら・・・
「ん。大金貨6枚」
活版印刷機で我慢した。
活字は陶器製で作るのは割と手間はかからなかった。
大型で場所を取るので、印刷小屋を建ててそこに設置した。
村の中での連絡事項とかチラシとか作りたかったが・・・この辺り一帯の識字率が低すぎて文字オンリーの印刷じゃウケが悪い。
仕方ないので、コピペで済ませる手紙とか、住民届や登記簿用の枠と線だけ印刷した書類とか、冒険者組合が常時張り出してるような依頼書の印刷とかやってる。
紙の方だが、今となっては画用紙だけでなく印刷用に調整された『洋紙』や『チリ紙』までマイコニド達は造れるようになった。
トイレットペーパーに限りなく近いチリ紙を作れるようになり、トイレ事情も改善された。
布だと時々下水に詰まることがあったがチリ紙は詰まらず流せる!
100%天然素材なので環境にやさしいので気にせず使える!
・・・話が逸れた。
活字をレシピの並びに置き、印刷機を使ってレシピを印刷。
動力は人力。ハンドルを回して印刷機を動かす。
・・・蒸気機関マジで作ってもらおうかな。人力はいい加減キツイ。
いや、もういっそモーターとか自作して『発電機』とかも悪くない気がする。
リッシュさんは蒸気機関を作れるらしいし、蒸気の力で発電機を回せばもっと自由度の高い電気というエネルギーが使える。
えーっとモーターって確か強力な磁石が要るんだっけ?磁気化の魔法とか使えたっけ・・・
とか色々考えながら作業をすれば、印刷終了。
一応、チェックしてみる。・・・うん、ちゃんと印刷できてる。滲んでない。
では、バラバラにならないように紐を通して冊子として纏め、封筒へ入れてインベントリ空間へ放り込んでおく。
その後、印刷機を掃除し、印刷小屋を後にする。
◆
数日後、いつものように日課の探知をしていると、
「エリシアさん!起きてるっスか!!」
と朝からアキヒト君が家の扉を乱暴に叩く。
なんだ?流行り病の気配は無かったはずだが・・・
そう思ってドアを開けると、
「エリシアさん!手ェ貸してほしいんす!」
朝っぱらかいきなりアキヒト君が家の前で頭を下げてきた。
ただ事ではないだろうが、話の展開が早過ぎる。
「とりあえず落ち着いて。話を聞きましょう。
マーシャさんとリッシュさんも呼びますね」
≪通信≫でリッシュさんを呼び、プレイヤー4人がリビングに集まる。
「実は、ついさっき俺のギルドメンバーから、≪伝令≫が自分に発動して、ピンチを伝えて来たんです。
場所の名前しか分かんないっすけど、仲間なんです!頼んます!」
≪伝令≫は発動自体は簡単だが、極めてリスキーな魔法だ。
効果は簡単。短いメッセージ(約20文字程度)を指定した相手に距離を無視して届けることができる魔法だ。
だが、この魔法は『発動した人間が誰かまでは保証されない』。
どういう意味かと言えば、初期のエルドラド・クロニクルでは≪伝令≫を記録したアイテムを使った「なりすまし事件」が発生したのだ。
≪伝令≫は簡単な魔法で、スクロールも簡単に手に入るが、スクロールを使用して発動させた場合、発信者が発動させたアイテム名で記録されるため、身内のフリをして伝令を飛ばし、対人戦闘可能エリアに誘い込むPK達が居た。
いわゆるゲーム上でのオレオレ詐欺だ。
そんな感じで、≪伝令≫は発動者が誰か分からないよう抜け穴が用意されており、しかもソレが仕様だというのだ。
結果、皆が符丁を使ったりなどの工夫がされたが、信用できずに誰も使わなくなった。
私にもゲーム時代でスパム紛いな≪伝令≫が飛んできた事もあるし、割と信用ならない魔法なんだよなぁ・・・
「どうします?」
「コレで事実だったとしても、どうやって行くのよ。
そもそも相手の場所ってドコ?」
「≪伝令≫だと場所はシリダ北部のトリースル森林って書いてました」
・・・何処だよ!?
「ゴメン、場所が分かんない」
「こっちの世界の地理じゃ分かんないわね・・・」
「行ったことある」
「行ったことがあるの!?リッシュさん!」
「ん。こっちの世界で皆を探す道中でシリダの街で宿に泊まった。
シリダの街はここからかなり遠いけど、猫の特急切符使えば一瞬で済む」
そう言えばこの人、この村に来るまで自転車で旅してたな。
そのおかげで色々な場所に行ったことがあるのか。
「頼んます!」
アキヒト君がここまで頼むんだ、私だってギルドメンバーに会えたのは幸運だったし、無下にしたく無いな。
まぁ罠かどうかは行ってから判断すればいいか。
プレイヤー4人で突っ込めば、罠だとしても逃げる程度はできるはずだ
「良いですよ。私は手伝います」
「まぁ、プレイヤーが増えたら、村も発展するんじゃない?」
「ん。問題無い」
「あざっす・・・!」
さて、完全武装して行くか・・・!
≪火吹き唐辛子≫
種別:攻撃スキル
制限:料理人系もしくは農夫系クラス
属性:炎
射程距離:0~5m
形状:放射
激辛唐辛子を食べて、口から炎を吐き出すスキル。絵面がギャグっぽいが、れっきとした攻撃スキル。
使用すると使用者の正面から5mまでの範囲に炎を吐き出し、数秒間多段ヒットでダメージを与える。
ちなみに、使用後は数秒間だけ辛さに悶えてアクティブ発動の魔法やスキルが封印される欠点がある。




